「トータルソリューションでアジアへ展開する」~ベライゾンビジネスのクラウド戦略
米Verizon Communications(以下、Verizon)のエンタープライズ部門であるベライゾンビジネス(Verizon Enterprise Solutions)は、シンガポールでプレスイベントを開催。同社のアジア太平洋地域における戦略を説明した。
■市場のニーズはトータルソリューションへ
CMOのJohn Harrobin氏 |
ベライゾンビジネスのソリューション |
Verizonは、言うまでもなく世界最大規模の通信会社であり、そのインフラを利用してさまざまなビジネスを展開しているベライゾンビジネスも、その設備、人材、資産の恩恵を最大限に受けている。そして、クラウド時代に入ってネットワーク、データセンターの価値が高まっている今では、その価値はいっそう高まることになった。
それは、物理的な回線からワイヤレス、データセンターサービス、クラウドサービスをトータルに提供できるという通信キャリアならではの強みだ。「一番大きなIPのバックボーンを持ち、また4G LTEでも大きなネットワークを持ち、そしてマネジメントセキュリティでもベストプラクティスを持つ。こうした背景から、総合的なエンタープライズクラウドのオファーが可能だ」とCMOのJohn Harrobin氏が述べたように、政府やFortune 1000クラスの大企業にとっては力強い限りだろう。
もちろん、ポイントソリューションを寄せ集めれば似たようなことは他社でも可能だが、「多くの労力と時間を使うポイントソリューションではなく、アプライアンスのように、スタッフや管理は必要としないものが望まれており、プラットフォームベースのアプローチへ進みつつある」とHarrobin CMOが話すように、今、市場で求められているのはトータルに統合されたワンストップサービスであり、その点ではベライゾンビジネスの力はぬきんでていると主張する。
ただ、インフラが強いとしても、顧客が望むクラウドサービスを同社が迅速に作り上げて提供できるか、という点には疑問を覚える筋もあるかもしれない。
こうした声に応えるのが、同社の買収戦略とパートナー戦略なのだという。Verizonでは2011年1月に、クラウドサービス事業者であり、米国や欧州などに10を超えるデータセンターを持つTerremarkを、約14億ドルで買収している。Verizon自身も20を超える国で200以上のデータセンターを運営しているが、Terremarkの買収によってさらなるポートフォリオを広げたわけだ。
さらには2011年8月には、アプリケーションをクラウド環境へ移行するツールを提供していたCloudSwitchも買収。CloudSwitchの技術とTerremarkのサービスを組み合わせることで、自社の企業向けクラウドソリューションの魅力を最大限に高め、“Everything as a Service”を目指していくとした。さらに、ベライゾンビジネスが何度も強調していた強みがセキュリティに自信があるという点で、これは政府系を含めた長年の実績がそう言わせるのだろう。
■ワールドワイドに展開する中でアジアを重視
アジア太平洋地域の成長のトレンド |
そんな同社が今回、アジア太平洋地域(日本、シンガポール、インド、豪州、香港)地域のプレスを集めて戦略を説明したのは、やはりアジアを重視しているからだ。その背景には、同社のサービスやソリューションを利用している多国籍企業の多くがアジアに進出していること、一方でアジアからもそうした多国籍企業がグローバルに進出していることが挙げられるという。また、すでに大きな市場として存在する日本や豪州、また成長が著しい中国やインドなど、個々の市場としての魅力も、アジア太平洋地域には十分にある。
例えば日本でも、2010年に、ベライゾンビジネスと三井物産が約1億ドル(約93億円、当時)の契約を締結し、グローバルでの通信およびITプラットフォームの構築と運用をベライゾンビジネスが支援することになった。三井物産では従来、世界各地で地域ごとにローカル事業者と協業を行っていたため、プラットフォーム、プロセス、費用の重複が発生していたが、ベライゾンビジネスとの契約で一元的な展開を図ることにしたわけだ。
また、Terremarkのクラウドサービスを採用すると先ごろ発表した、香港The Hongkong and Shanghai Hotels(香港上海ホテルズ)についても同じことがいえる。アジアや欧米の9都市にあるペニンシュラホテルをはじめ、商業用および居住用不動産を幅広く所有・展開している同社は、グローバルにベライゾンビジネスのサービスを契約することで、テクノロジーインフラの統合・集約を実行。世界各地の拠点でサーバーを運用・維持することから解放されると、プレスリリースの中で声明を発表していた。
もちろんベライゾンビジネスとて、世界のすべての国や地域において、100%自前でサービスを提供することは難しい。こうした点について豪州の参加者からは、「北米の事業者がどうやって豪州でのサービスを保証するのか」という質問が飛んだが、Harrobin CMOは、「グローバルに成功するための準備がまだ十分ではない事業者、例えば豪Telstraのような大きなローカルの事業者とパートナーシップを組んで提供していく」と回答。広範なパートナーとのエコシステムを構築し、こうしたニーズに応えていくのだと話す。
日本でも、「NEC、富士通、日立とは強いパートナーシップがある」(Harrobin CMO)とのことで、アジアで成功するためには、こうしたパートナーとのエコシステムが欠かせず、それができるのもベライゾンビジネスとしての大きなビジネス基盤と力があるからだ、と同社ではアピールしている。