“環境貢献”から“コスト削減”へ変わりゆく節電対策~企業の節電の現状を大塚商会に聞く


 「企業の節電対策は、以前は、杉の木が吸収するCO2の何本分を削減した、というような環境貢献への取り組みがメインでした。しかし今では、節電=電気料金の削減という、明確に“コスト”を意識した流れに変わってきています」――。

 大塚商会では2011年3月に起きた東日本大震災以降、社内に電力「見せる化」システムを導入。節電に向けた取り組みを実践するとともに、その成果を生かして、消費電力削減が可能な各種ソリューションの顧客への販売を進めている。大塚商会はなぜ、節電への取り組みを進めているのか。その背景を、マーケティング本部 共通基盤プロモーション部 新規・海外ビジネス課の早川憲一課長に聞いた。

 

自社で実践した消費電力削減への取り組み

マーケティング本部 共通基盤プロモーション部 新規・海外ビジネス課の早川憲一課長

 大塚商会が、自社が実践してきた節電への取り組みと、社内に導入した電力「見せる化」システムの効果を発表したのは、2011年の9月。

 もともと、2000年に全社の主要事業所でISO14001を取得し、現在では25カ所以上まで認証取得を広げるなど環境活動や省エネ活動を意欲的に推進してきたが、2003年に完成した新本社ビルでもISO14001を取得した。

 あわせて、屋上緑化、照明制御、空調管理など当時の最新技術を取り入れたり、社員のモラル向上のための教育活動、照明のLED化、サーバーやプリンタの統合、デスクトップPCからノートPCへの移行など多くの施策を行うことで、2010年には、15のトップレベル事業所の1つとして東京都に認定された実績を持つ。

 また東日本大震災の影響により、企業に厳しい節電対策が求められた2011年の夏には、本社ビルの節電対策を強化し、事務室内の窓際照明の照度低下や廊下照明、コンセプトギャラリーおよびソリューションギャラリーなどで日中の消灯を実施。4階から12階トイレの暖房便座、ジェットタオルの電源OFFなどを行った結果、同社が目標としていた25%を大きく上回る電力削減を達成できたという。


大塚商会での節電への取り組み本社ビルは、15のトップレベル事業所の1つとして認定されたという

 こうした節電への取り組みを実践してきた大塚商会だが、自社が開催したセミナーで東京大学 江崎浩教授に講演を依頼したことをきっかけに、2011年4月、同教授が主導する東大グリーンICTプロジェクトへ参加した。

 このプロジェクトは、先進的制御技術・制御システムの導入とその結果の検証を行い、3年間の実証実験の結果として、FIAP(設備情報アクセス・プロトコル)を開発。それをベースにして、ファシリティマネジメントシステムの通信プロトコル「IEEE 1888」が標準化されている。

 早川課長は、「当社の本社ビルを含めて、ある程度大きなビルでは、すでにビル・エネルギー管理システム(BEMS:Building and Energy Management System)が導入されているのが普通です。しかし従来のBEMSでは、データを取り出しても集計作業などを別途行わなければならないため、レポートを作るのに時間がかかってしまい、すぐに状況を把握するのは難しかったのです。これに対して、当社が導入した(FIAPベースの)電力可視化システムではさまざまなデータが“見える化”されており、グラフィカルに状況が確認できます。これが大きな違いでした」と、導入の効果を振り返る。

 こうして、データの可視化を実現した大塚商会だが、新しいBEMSにはさらなる価値があった。それは、データの“見せる化”だ。

 「IEEE1888の採用により、誰でも簡単に運用ができ、しかも状況を見られるBEMSを導入できたのです」と早川課長が述べるように、大塚商会ではデータを社内に蓄積するだけでなく、前年同日比の電力使用量(ビル全体)、フロアごとの電力使用量、項目ごとの電力構成比(空調・照明・OA)など、電力使用量をリアルタイムで見せる仕組みを構築。従業員の啓発にも積極的に利用することで、さらなる効果を発揮できたという。


従来は紙でしか実績が見られず、総務が手動で集計していたしかし“見せる化”システムの導入により、誰でもリアルタイムで確認が可能になったという

 

“見せる化”を顧客へ提供するクラウド型のオープンBEMS

 そして、システムインテグレータである大塚商会では、その効果を確信し、顧客企業へもソリューションという形での紹介活動を開始した。これが、オープンBEMS「UBITEQ GREEN SERVICE<SaaS型>」である。

 このソリューションでは、ビル全体・フロア全体の消費電力量が把握できるのはもちろん、会議室や研究室といった特定の部屋の消費電力状況まで把握できるので、非常に細かな分析が可能。PCやサーバーといった機器に限らず、電源・照明までを総合的に制御したり、利用状況をリアルタイムの見える化したりすることで、無理のない継続的な電力削減を支援できる。

 「IEEE 1888ベースですからプロトコルがオープンで、独自のプロトコルを使っていませんし、SaaSでの提供ですので価格も抑えられています。さらに、すでにBEMSがある場合でも、データをCSVで取り出し、新たに設置されたセンサーからのデータと統合して管理することもできるため、既存の投資も無駄になりません。現在では、電力消費量の多いお客さま、例えば病院や製造業などからのお問い合わせを多くいただいています」(早川課長)。

 

電力コスト削減のニーズを背景にソリューションを拡充

 大塚商会自らのノウハウを生かしてメリットを提供できるUBITEQ GREEN SERVICEは、確かに効果は大きく、そのメリットは理解されやすいという。ただし、「年商10億円未満の中小企業層が8割を占める当社のお客さまでは、細かいところまでを詳細に見る必要はないので、とにかく電力コストを削減したい、というニーズを多くいただきました。そこで、デマンド監視装置『エコ.Web』の取り扱いを6月から始めました」と、ラインアップを拡充した背景を早川課長は説明する。

 「エコ.Web」はパルス検出器とLANに接続するだけで、設定した最大のデマンド値(ピーク電力)に近づくとメールで警報を出す装置。デマンドをコントロールし、電気基本料金を削減することにより、「電気基本料金の上昇を防ぎ、確実に電力コストを削減できる」(早川課長)のが魅力なのだという。


電気料金の算定では毎月の最大デマンド値が基本料金に影響するため、これを落とすことで基本料金を安くしよう、というのが基本的な考え方だデマンドコントローラの画面例

 また大塚商会はこれだけでなく、どの機器がどのくらい電力を消費しているのかを手軽に可視化したい、というニーズに応えて、スマートコンセントの取り扱いも開始した。

 「やはり、『テナントで入居していると電気設備の工事はできない』というお客さまは多いのですが、スマートコンセントなら工事は不要ですから、導入したその日から簡単に始められます。欧米ですでに15万台の実績がある製品を提供していますので、安心して利用できますし、運用もグラフを見て確認するだけですからわかりやすいですね。販売してまだ日が浅い製品ではありますが、地域を絞り先行してご紹介した際の印象では、非常に大きな関心をいただきました」(早川課長)。

 こうした顧客からの反応が示すように、これまで、電気料金の削減は環境対策(グリーン)というイメージから語られることが多く、あまり積極的な反応はなかった。しかし、東京電力管内での電気料金の値上げが示すように、企業にとっての電気料金の負担は重くなってきているため、かなり現実的なソリューションとして、電力の見える化や電力コスト削減に関する注目度が増しているのだという。

 「したがって、コストが高くては、そもそもお客さまには使っていただけません。当社では、どの企業層でもお使いいただけるようなソリューションを提供していますが、『エコ.Web』とスマートコンセントとのセットでも98万円からと、現実的な価格でラインアップをそろえています。スマートコンセントだけでしたら、12万円で(4台まで対応できるスターターパックの場合)で機器の消費電力を“見える化”できます。このように、お客さまのそれぞれの環境、要件にあったソリューションを数多くそろえ、さらに蛍光管のLED化、PCの入れ替え、創業以来手がけてきた複合機によるプリンタ統合など、トータルでお客さまのコスト削減に寄与できるのが、当社の強みといえるでしょう。今後の拡大に期待しています」(早川課長)。

 夏・冬のピーク時の電力削減や電気料金の値上げを見据えた、こうした企業の省電力化支援ビジネスは、今後ますます熱くなりそうだ。


スマートコンセントソリューションのプラグワイズ要件に応じて目的別にソリューションを整備している
機器入れ替えによる電力削減効果の例
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