「電力を“見える化”してみよう」~クラウド Watch編集部でスマートコンセントを試してみました


 “グリーンIT”という言葉の流行から数年がたち、意識の下に沈んでいた節電への取り組みが、コスト削減への意識の高まりを受けて、もう一度注目を集めるようになっている。その取り組みの代表例としては、ビルそのものの電力を可視化するBEMS(ビル・エネルギー管理システム)がまず挙げられるだろうが、そこまで大がかりなものを導入しなくても、手っ取り早くオフィスの消費電力を可視化できる製品に「スマートコンセント」がある。

 今回、クラウド Watch編集部では、大塚商会からスマートコンセントのシステム一式を導入し、“見える化”の効果が実感できるものなのか、実際に検証を行ってみた。

 

欧米で豊富な実績を持つスマートコンセント

左側が電力を計測するスティング、右側の小さいものがPCに接続するスティック

 まず、スマートコンセントがどういうものなのかを紹介しよう。

 スマートコンセントとは一般的に、電子機器の使用電力量を計測するための機器を指す。コンセント側で電力を計測し、有線もしくは無線のネットワークを通じてそれを集計。実際に、電子機器がどの程度の電力を消費しているかを計測することができる。

 今回導入した大塚商会のスマートコンセント「プラグワイズ」では、無線機能を備えたスマートコンセントの子機(スティング)と親機(スティング+)に接続されている機器の消費電力を計測可能。2.4GHzの無線通信(ZigBee)を利用し、子機から親機にデータを集めて、USB接続のデバイス(スティック)経由でPCに送信する仕組みのため、PCでは集めたデータをもとに、各消費電力を可視化(グラフ化)して見ることができる。

 電子機器のプラグとコンセントの間にスティングを挟むだけで設置作業は完了するため、スティングにつないだ機器であれば何でも計測でき、機器ごとに消費電力を見られるので、PCやディスプレイ、プリンタなど各種OA機器がどのくらい電力を消費しているのかを、容易に確認することが可能だ。

 なお、ZigBeeの無線通信を利用しているので、計測にあたって別途ケーブルを設置する必要がないのはメリットだが、子機と親機の間は10メートル以内、親機とスティックの間は5メートル以内で設置することを大塚商会では推奨している。試したところ、必ずしもこの距離以内でないとデータが取れないということはなかったが、やはりきちんとしたデータを取得するためには、離しすぎない方がいいだろう。


プラグワイズは、リアルタイムに消費電力を計測できるスマートコンセントだコンセントにつながっている機器ごとに、電力の“見える化”を実現できる

 

PCの消費電力を計測

 Impress Watch編集部では各人の仕事の進め方に応じて、さまざまな種類のPCを導入しているが、一般的な使い方として5つのパターンを抜き出してみた。

 まず「デスクトップA」はミニタワー型のデスクトップPCで、利用していない時間は自動的にスタンバイになるよう設定している。「デスクトップB」は省スペースタイプのデスクトップPCだが、基本的に付けっぱなしで動き続けているものだ。3台目の「ノートC」は15型液晶を持つ大型のノートPCで、こちらも付けっぱなし。4台目の「ノートD」は11.6型のノートPCだが、業務時間外はスタンバイになるよう設定されており、また小型であっても持ち出されることはない。OSは「デスクトップB」のみWindows XP、それ以外はすべてWindows 7だ。

 またPCに加えて、ファイルサーバーとして利用しているミニタワー型のx86サーバー機「部署サーバー」の電力も測定してみた。こちらは、Windows Server 2008 R2を搭載している。

CPU
OS
電源プラン
デスクトップA
Phenom X4 9550
Windows 7
バランス(未使用時は15分でスタンバイ)
デスクトップB
Celeron D 336
Windows XP
常にオン
ノートC
Core i5-2540M
Windows 7
常にオン
ノートD
Core i5-2467M
Windows 7
メーカー推奨(未使用時は30分でスタンバイ)
部署サーバー
Core 2 Quad Q6600
Server 2008 R2
常にオン

 では、測定した消費電力を個々に見ていこう。編集部にて1週間の消費電力を測定した結果、「デスクトップA」が3.02kWh、「デスクトップB」が13.04kWh、「ノートC」が2.31kWh、「ノートD」は0.30kWh、「部署サーバー」は15.97kWhとなった。またデスクトップPCについては液晶ディスプレイを実測してみたが、その消費電力は0.82kWhとなった。


「デスクトップA」の消費電力推移「デスクトップB」の消費電力推移「ノートC」の消費電力推移
「ノートD」の消費電力推移「部署サーバー」の消費電力推移液晶ディスプレイの消費電力推移

 やはり、ノートPCの消費電力はデスクトップPCより少ないのが見て取れる。特に、1週間ずっと動かし続けており、世代も古い「デスクトップB」と「部署サーバー」の消費電力がずばぬけて高く、同じく常時稼働させていた「ノートC」と比べても5倍以上の高さになった。

 また、こまめにスタンバイになるよう設定されていた「デスクトップA」と、常時稼働させていた「ノートC」を比べても、「ノートC」の方が消費電力が低い。「デスクトップA」は、ユーザーが外出していた水曜日はスタンバイの時間が長く、その日はあまり電力を消費していないものの、月・火・木・金の4日がいずれも消費電力が高く、トータルでも「ノートC」を超えてしまった。

 ノートCは比較的廉価ないわゆる“据え置き利用される大型ノートPC”であり、省電力化を意識して導入したわけではないが、それでも旧型のデスクトップPCと比べると、これだけの低消費電力を実現しているので、新しい世代のノートPCでは、相当な消費電力を下げられることがわかる。

 もちろん、そんなことは知識としては理解しているものだが、こうして実際の数値で見せられると、やはり説得力が違うのだ。


同じ常時稼働の「デスクトップB」と「ノートC」の消費電力推移を比べると、デスクトップPCの消費電力の高さが浮き彫りになるこまめにスタンバイしている「デスクトップA」と、常時稼働の「ノートC」の消費電力推移を比較したグラフ。スタンバイ時の消費電力は低くとも、トータルでは「デスクトップA」の消費電力量が上回った

 

PCのリプレース時にノートPCへ置き換えるべき?

 こうした事実からは、消費電力に関するノートPC化の価値が読み取れるようだ。

 今、企業の中にはかなりのWindows XP搭載PCが残っていると言われているが、日本マイクロソフトによる公式サポート(延長サポート)が2014年4月に切れるため、それ以後は修正パッチ等が提供されなくなる。これを受けて企業では、Windows 7(あるいは登場したばかりのWindows 8)への乗り換えが真剣に検討され始めている状況だ。

 消費電力の削減や省スペース化を図るために、そうした移行の際にノートPCへの移行を考えよう、という声はPCメーカーやSIerなどからもさかんに提案されるようになっているのは、ご存じの通り。そうした背景の中で、このような消費電力の差を見せつけられると、確かに真剣に考慮する必要があるのではないかと思えてくる。

 一方、東日本大震災後の2011年夏は電力供給量が逼迫(ひっぱく)したこともあり、節電意識が高くなっていたため、多くの企業ではこまめにPCの電源を落としていたが、電力供給量に余裕が出た昨今では、業務上必要である場合、PCを常に動作させている場合も多いことだろう。

 しかし、夜間や休日などに四六時中電源を入れておく必要があるかというと、その点には疑問符が付く。もちろん、中には落とせないPCも一部あるはずだが、それ以外については、社内の運用ルールを見直したり、OSの提供元である日本マイクロソフトを始め、さまざまなベンダーが提供している節電支援ツールを使ったりして、消費電力の最適化を図ることも必要になってくるのではないだろうか。

 

オフィス内のほかの機器は?

 オフィス内に存在する機器は、何もPCだけではない。そこで今回は、レーザープリンタ、ウォーターサーバー、空気清浄機についても消費電力の“見える化”を試みてみた。

 このうち、7日間の消費電力がもっとも高かったのは、27.77kWhだったウォーターサーバーだ。よく考えてみると冷蔵庫と同じように水を冷やしたり、逆に暖めたりするのには相当なエネルギーが必要になるのだから、確かに消費電力が高いのはうなずけるのだが、普段はあまり意識していない部分だろう。

 こうした機器を土日に止めてみると、消費電力削減の面でも期待できるかもしれないが、電力の供給がなくなることで水質に悪影響を与える可能性もある。ウォーターサーバーの管理会社に問い合わせてみて、可能な範囲で止めるようにする、というのが現実的な解だろうか。


ウォーターサーバーの消費量推移。【左】が1週間、【右】が火曜日1日の推移

 また、消費電力は2.92kWhとこれよりも低かったが、常に動作し続けている空気清浄機にも同じことがいえる。ウォーターサーバーは水の再冷却などのために、一度止めるとそれなりの電力は消費しそうだが、空気清浄機の場合は土日に停止すると、その分の消費電力はそのまま削減できそうだ。


空気清浄機の消費電力量推移。【左】が1週間、【右】が火曜日1日分。意外にも、ノートPC1台分以上の電力を消費していた

 一方でプリンタについては2.43kWhの消費電力となった。もっと消費電力が高くなるのかと思っていたが、スタンバイモードがかなり効果的に働いているということだろうか。ただし、土日や夜間に止めれば、やはりそれなりの省電力化は可能だろう。


プリンタの消費電力量推移。【左】が1週間、【右】が火曜日1日分。スタンバイ機能が有効に働いているようで、ある程度消費電力量は抑えられている

 今回、スマートコンセントを導入してみて思ったのは、普段何気なく使っている機器の消費電力を見える化することに、大きな意味があるということだった。やはり、「何となく思っている」ことと、「数値として見えてくる」ことの間には大きな差があり、いろいろと考えさせられた。もちろん、筆者は総務部門の担当ではないため、機器の運用ルール策定に直接携わる立場にはないが、こうしたデータから助言できることも多いように思う。

 また、中小企業であればIT担当者がすべて自分で、というケースもよくあるだろう。そうした際には、スマートコンセントによる手軽な可視化は大きな武器になる。一度、自社の環境を“見える化”してみるのはいかがだろうか。

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