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シスコのIoTプラットフォーム「Kinetic」、国内でも年内に提供開始へ
2017年9月22日 10:53
シスコシステムズ合同会社(以下、シスコ)は21日、同社のIoT戦略に関する記者説明会を開催。6月に発表された米Cisco Systems(以下、Cisco)の新しいIoTプラットフォーム「Cisco Kinetic」を、国内でも年内に提供開始することを明らかにした。
Kineticは、多種多様なデバイスを接続してデータを取得し、そのデータを処理してから適切なアプリケーションに移動する機能を提供する。分散型ソフトウェアであるため、エッジコンピューティングやフォグコンピューティングなどの中間層、クラウド、あるいはエンドポイントなど任意の場所で動作させることが可能で、複数のKineticを連携させることもできる。
Cisco IoTクラウド事業担当 バイスプレジデント兼ゼネラルマネジャーのジャハンギール・モハメッド氏は、現状のIoTが抱える課題には、「デバイスの多様化による複雑性」「多くのデータがモノに閉じ込められている」「データを適切なタイミングでアプリケーションに移動させるプログラム化された手段がない」「データのプライバシー、セキュリティ、オーナーシップを管理できていない」があると説明する。
さらに同氏は、「当社のIoT Network FabricとIoT Data Fabricが統合することで威力を発揮し、これらの課題を解決する」と述べた。
IoT Network Fabricでは、シスコのIntent-Based Networkに、携帯電話網を利用するデバイスを管理する「Cisco Jasper」を組み合わせることで、IoTデバイスを素早く安全に接続し、セグメンテーションや優先順位付けでデバイスのネットワークトラフィックを分離する。
さらに、すべてのデバイスをリアルタイムで可視化し、接続を個別に制御することができるという。Ethernet、Wi-Fi、携帯電話網、LoRa、RF-Mesh、シリアルなど多様なアクセス方法をサポートしており、産業分野向けネットワーク機器のラインアップも提供されている。
一方、IoT Data Fabricを実現するのがKineticだ。Kineticでは、システムを自動的にプロビジョニング、セキュアにデータを取得して正規化、データ解析およびルール実行、ビジネスロジックや運用ロジックなどシステム全体でのルール実行、データの可視化、データのセキュアな移動といった一連のデータのフロー全体を管理する。
また、データ変換や送信先の振り分けといったルールは、グラフィカルな設定ツールによりコードを記述することなく設定できる。ファームウェアやアプリケーションの更新といった作業はリモートで作業することが可能になるため、エンジニアチームを現地に派遣するコストを大幅に削減できるようになるという。
シスコはIoTで特に注力する産業分野を、スマートシティ、製造業、石油やガスといったエネルギー、運輸、流通としており、Cisco インタストリープロダクトグループ ゼネラルマネジャーのブライアン・タンゼン氏は、公開できる事例として、工場のエネルギー(消費電力)監視の事例を紹介した。生産エリア、製品ライン、マシンなどごとに細分化してエネルギーの最適化を推進した結果、18%以上のエネルギー消費量を削減し、年間で100万ドル以上のコストを削減できたという。
さらに、IoTプロジェクトを素早くスタートするため、シスコでは「Cisco Kinetic Starter Solutions」と呼ばれる約2週間で導入可能なスターターキットを用意している。サードパーティーのハードウェア、ソフトウェア、サービスを1つにパッケージし、企業が価値を得るために必要なすべてのものを提供するという。
コンポーネントや料金は一定で、コストはおおむね5万ドル以下であるとのこと。タンゼン氏は「IoTプロジェクトの成功率は26%と言われている。プロジェクトの成功率を100%にするため、IoT導入の複雑化を解消し、短い期間でビジネスの価値を実現できるよう、Cisco Kinetic Starter Solutionsを用意した。まず導入してビジネスの価値を実現し、さらなる価値を実現するために拡張してほしい」と述べた。
シスコ 執行役員最高技術責任者(CTO)兼最高セキュリティ責任者 濱田善之氏は、国内での注力分野としては前述した分野のうち、特にスマートシティと製造業にフォーカスしていると説明した。
濱田氏は「世界中でIoTが加速している。日本のIoTプロジェクトはまだそれほど多くないが、これから日本でもIoTプロジェクトに積極的な企業が増えていく」と述べ、スマートシティについては京都府と進めているスマートシティ実験を紹介。製造業については、ファナックなど産業用ロボットや製造機械向けのIoTプロジェクトを進めていることを明らかにした。
しかし、シスコはIoT Network FabricとIoT Data Fabricによって、IoTのデータを囲い込むことは考えていない。モハメッド氏は「データAPIによってさまざまなアプリケーションにデータを移動し、データを柔軟に活用できる。いろいろなパートナーのサービスにプラグイン可能で、ベンダーロックインされることはない」と述べ、オープンなデータAPIによって、ほかのベンダー製品や、企業アプリケーションと柔軟に連携することをアピールした。また、濱田氏も「データを柔軟に活用することが重要。Kineticにデータを格納せず、データを処理して移動させるハブのような用途も考えられる。シスコがもっとも重要だと考えていることは、"つなぐ"ことで新しい価値を創造すること」と述べた。