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「キャリアクラウド」としての強み鮮明に、NTT Com 2015年の戦略

代表取締役社長の有馬彰氏

 NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)は7日、2011年に策定したサービスビジョン「Global Cloud Vision」に関する説明会を開催。代表取締役社長の有馬彰氏が登壇し、2015年度の方針を説明。今後提供予定の新サービスや新機能が多数公表される場となった。

 Global Cloud Visionは「ICTの最適化により顧客の経営改革に貢献する」ため、「サービス」「オペレーション」「セールス」のグローバル共通化を進める方針で、同社の企業向けサービスの基本的な考え方となっている。例えば「サービス」では、どの国・地域でも同等に使える「Bizホスティング Enterprise Cloud」のように、グローバルで仕様・スペックが統一されたサービスが13種類を数える。

 サービス開発や販売のオペレーションも世界で統一する「ファクトリーモデル」を採用するほか、営業体制やコンサル体制、それを支えるシステムも統一し、さまざまな面でオペレーションの共通化を進めているのだ。

 同時にM&Aも積極的に行っており、最近ではコラボレーションツールのarkadin、米国データセンター事業者のRagingWire、ネットワークサービス事業者のVirtelaを買収。2015年3月にも独データセンター事業者のe-shelter買収を発表し、グローバルにおけるインフラ整備を着々と進めている。この結果、データセンター面積は2015年以降に21.4平方メートルから34.9平方メートルへと一挙に拡充。クラウドサービス拠点は12から16(計画含む)へ、VPN提供国・地域は196へと広がる。

主なM&A
データセンター面積を拡充
クラウドサービス拠点も拡充

 事例としては、グローバルで運用する基幹・情報系システムを統合した参天製薬や、グローバルで利用する販売管理システム(SAP)をクラウド上に統合したコニカミノルタの例を紹介。クラウドサービス顧客数も5300社(2013年)から7300社(2014年見込み)に拡大しているという。

クラウドサービス顧客数は7300社に

 同社がめざすのは「キャリアクラウド」の地位確立による競争力の向上。根底には「クラウド事業者と差別化するために、キャリアとしての強みであるネットワークとクラウドを一体化して提供する必要がある」との思いがあるようで、2015年度の注力点として第一に「キャリアクラウドの強化」を挙げている。

 ネットワークサービス「Arcstar Universal One」において、国内ではすでに、セキュリティなどをソフト機能として提供する「NFV(Network Functions Virtualization)」や、モバイルアクセスの強化、異なるネットワークからも迅速にセキュアなオーバーレイ通信を可能にする「SDN」といったサービスが矢継ぎ早に展開されている。2015年はこれらの海外展開を順次進めるとともに、8月には他社クラウド接続を強化する予定だ。

国内提供中の「Arcstar Universal Oneグローバルモバイル(仮称)」。9月から海外でも展開
SDNサービス「Arcstar Universal One Virtualオプション」。こちらも5月から順次海外展開を始める

 Arcstar Universal OneはNTT Comのクラウドサービスと無料で接続できるが、「自社サービスとの接続だけでは不十分」(有馬社長)として他社クラウドとの接続も進められている。国内では現状、Salesforceとの接続に対応するが、8月をめどにAWSとAzureとの接続にも対応する予定という。「すでにAWSやAzureのユーザーが多い中で、これらと接続しないのは現実的ではない」という思いからの選択だ。

他社クラウド接続では8月からAWSとAzureをサポート

 データセンター・クラウド分野でも、前述のe-shelterの買収のほか、自社建設とM&Aを含め、欧米・アジア太平洋を中心に今後もデータセンターの拡充を進める。これらが予定通りに稼働すると「Bizホスティング Enterprise Cloud」の提供国・地域は、9カ国・12地域から13カ国・16地域に拡大する見込みとなる。

e-shelter買収による欧州でのデータセンター拡充
欧米・アジア太平洋を中心に今後もデータセンターの拡充を進める

 その「Bizホスティング Enterprise Cloud」においても、SDNを活用してネットワークセグメントやIPアドレスを変更することなく、既存オンプレミスシステムをクラウド/コロケーション上に構築できる「コロケーション接続オプション」や、オンプレミスで利用中のオラクルライセンスをクラウド上に持ち込めるデータベースサービスを開始。

 さらに次なる構想として、共有型と専有型(仮想型およびベアメタル型)を組み合わせて提供し、ユーザーは「カスタマーポータル」から「Bizホスティング Enterprise Cloud」の既存クラウド環境や他社クラウド環境も含めて一元的に管理できる「次世代クラウド基盤」も公表した。12月をめどに提供を開始するという。

「次世代クラウド基盤」を12月をめどに提供

 これらネットワーク技術を核にサービス強化を図る「キャリアクラウドの強化」に加えて、2015年は「仮想化・Software Defined化の加速」「API機能の拡充」に注力する。後者ではこちらもグローバル共通のAPIゲートウェイを提供し、顧客のシステム側にNTT Comの各種サービスを容易に組み込んで利用できるようにする。ネットワークの他社クラウド接続と含めて、横展開に力を注ぐ方針のようだ。

 では「Global Cloud Vision」における現状の課題は何だろう。明らかなのは「海外でのプレゼンス」である。クラウドサービス顧客数は7300社となったが、そのうち海外の顧客は1700社。グローバルでインフラ整備を進める同社だが、「海外での認知度はまだまだ低い」(有馬社長)と自己評価している。Gartnerのマジッククアドラントで「リーダー」や「ビジョナリー」に位置づけられるようになったが、これらの効果も含めて、いかに海外での存在感を高めていけるか。2015年はそのあたりの動向にも注目したい。

川島 弘之