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「TSUBAME 2.5」が今秋飛翔、東工大が今後の強化施策を説明

エクサフロップス時代の布石「3.0」の概要も

東工大の松岡聡教授

 東京工業大学学術国際情報センター(以下、GSIC)は17日、現有する「TSUBAME 2.0」を今秋「TSUBAME 2.5」として、大幅な性能向上を果たすと発表。29日に記者会見を開き、「2.0」に比べ約2.4倍に性能を増強する概要を説明した。

 東工大の松岡聡教授によると、TSUBAME 2.5は、ノードやCPUは変更せず、GPUを「NVIDIA Tesla M2050」×3基から「NVIDIA Tesla K20X」×3基に換装。GDDR5メモリも3GiB(ギビバイト)から6GiBへと増強する。これにより、システム全体で単精度(SFP)での性能をを4.80ペタフロップス(PFLOPS)から17.1PFLOPS(3.6倍)へ、倍精度(DFP)での性能を2.40PFLOPSから5.76PFLOPSへと向上させるという。

「2.5」への増強意図

 TSUBAMEはGSICが中心となって開発されるスーパーコンピュータ。2006年に85テラフロップス(TFLOPS)の「1.0」、2010年に2.4PFLOPSの「2.0」が始動し、他大学や民間企業など学外でも多用されている。理系と富士通が開発する「京」と並んでゴードン・ベル賞を受賞したほか、「Greenest Production Supercomputer in the World(世界で最もグリーンな運用スパコン)」に選ばれるなど、性能だけでなく省電力性も備えたスパコンとして知られる。

 TSUBAME 2.0は、天気予報、冠状動脈の血流シミュレーション、超高解像度気流解析、創薬などさまざまな分野で活用されている。その一方で、すでに繁忙期の需要が供給を上回り、大きな機会損失が発生。特にジョブのノード数の規模が大きく実行時間が長い防災シミュレーションや次世代産業利用アプリでは、繁忙期の実行がほぼ不可能となっていた。

台風シミュレーション
東京の超高解像度気流解析
TOTOの衛生陶器シミュレーション

 「2.5への増強により、繁忙期における機会損失を解消。大規模アプリも問題なく実行できるようにすることで、安心安全な国作りに貢献する」と、松岡教授は今回の増強の意図を語る。また「3.0」の前に「2.5」を挟むのには、「2.0の容量がパンク寸前だが、3.0の想定プロセッサが遅れており、それを待っていると稼働可能時期が2015年中盤以降となってしまう。その間にも他機関のスパコンは急速に展開していくことを考えると、2.5への必要性があった」と、こんな理由があるようだ。

単精度での活用に焦点

 TSUBAME 2.5では、浮動小数点数で8バイト・10進法で16ケタの「倍精度」ではなく、4バイト・10進法で7ケタの「単精度」に焦点を当てる。これは従来のスパコンとは逆にアプローチとなる。松岡教授によれば「単精度は高速な計算が可能。回路が簡単でより多くの並列計算が行える。また、動かすデータの量が半分なため、メモリに対する負荷が軽い点もメリットだ。しかし、単精度は精度が低く場合によっては結果に悪影響を与えることがあるため、過去のスパコンの大規模計算では、“念のため”倍精度が用いられてきた。しかし、近年では精度が問題とならないアプリが増えてきたこともあり、単精度の活用が広がっている」という。

 TSUBAME 2.5では、この単精度で17 PFLOPSを達成する計画だ。これは日本のほかの全HPC(単精度で9PFLOPS)や京(単精度・倍精度とも11.4PFLOPS)を大きく超えるものとなる。

 ただし、スパコンの性能をランク付けするTOP 500では、歴史的経緯のため、規則上倍精度での評価となる。単精度を用いながら倍精度の精度を得るアルゴリズムもあるのだが、これは禁じ手なのだという。そのため、2.5でもTOP 500で評価すると真実とは異なる可能性があることを覚えておきたい。

単精度と倍精度の比較
TSUBAME 2.5へのアップグレード表

「3.0」はエクサフロップス時代への布石

今後のTSUBAME 3.0への研究開発とエクサスケールへの進展

 2.5をリリースした後は、2015年度後半に3.0へ進化する予定だ。目標は、グリーンHPC――世界最高の電力性能効率を達成すること。ペタ~エクサバイト級を扱えるビッグデータのインフラ技術を確立すること。特にシステム内での不揮発性メモリの活用を目指す。これらにより、「インターネット全体の5倍以上の高容量を持つスパコン高性能ネットワークとなる予定だ」(松岡教授)。

 また、超大規模システムの耐障害性として、数百万~数億規模のCPUスケールで頻出する障害への対応を、米エネルギー省・リバモア研やアルゴンヌ研などと共同研究する。さらに百万~億単位のメニーコアスパコンでの超並列プログラミングの実現、日本のHPCI・Feasibility Studyにおけるベンチマーキング手法の確立などを目指す。

 グリーンHPCについては、計算システムの省電力化だけでなく冷却システムの省電力化が必須として、油浸冷却技術を導入・評価中。PUE<1.05を目標とし、さらに排熱利用を検討。「最終成果として倍精度で25~30PFLOPS、TSUBAME 1.0比で500~1000倍の性能電力比を目指す」と同教授。

 「2020年にエクサフロップス(EFLOPS)スパコン実現に向けて、TSUBAME 3.0がその布石となる」とした。

川島 弘之