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富士通、2012年度連結決算は729億円の最終赤字~2013年度は450億円の黒字転換を目指す

スパンションにマイコン・アナログ事業売却へ、半導体事業の安定化にはメド

 富士通株式会社は4月30日、2012年度(2012年4月~2013年3月)の連結業績を発表した。それによると、売上高は前年比1.9%減の4兆3817億円、営業利益は同9.5%減の952億円、経常利益は同15.7%増の1054億円。当期純損失は前年の427億円の黒字から、マイナス729億円の最終赤字となった。

LSIと携帯電話の業績が悪化、構造改革への投資も

富士通の山本正已社長

 富士通の山本正已社長は、「テクノロジーソリューションは国内外ともに堅調だったが、LSIおよび携帯電話が厳しい市場環境のなかで業績が悪化した。こうしたなかでも、成長に向けた先行投資は手を緩めなかった。また、1500億円を投資し、課題事業への対応と体質強化に向けた構造改革にも着手してきた」としたほか、富士通 取締役執行役員専務の加藤和彦氏は、「売上高は、為替の追い風もあり、2013年2月予想値に比べて、117億円上回った。だが、営業利益では、ユビキタスデバイスでの物量減や採算悪化、ネットワークやクラウドへの投資などもあり、計画に対して未達になった」などと総括した。

 また、山本社長は、「クラウドビジネスは、2012年度に売上高1500億円という計画は達成した。来年度は、これに、かけ算できるような形で伸ばしていきたい。詳細な数字については、あらためて発表したい」などとした。

 セグメント別業績は、テクノロジーソリューションの売上高が前年比0.3%増の2兆9423億円、営業利益は同96億円増の1809億円。そのうちサービス事業は売上高が同0.7%増の2兆3872億円、営業利益が76億円増の1316億円。サービス事業のうち、ソリューションSIの売上高は同1.5%増の8371億円、インフラサービスの売上高は同0.2%増の1兆5464億円となった。

 「ソリューションSIでは、金融端末や流通端末などのハードウェア一体型ビジネスの大型商談が低調になり、第4四半期の追い込みも弱かった。また、第4四半期に計画外の費用が発生したことが収益に影響した。だが、SIビジネスでは公共、金融分野向けに受注が積みあがっており、2013年度に期待できる。また、国内インフラサービスは計画を上回り、ニフティの売上減130億円を吸収している。海外インフラサービスは第3四半期から増収に転じている」(加藤取締役執行役員専務)などとした。

【お詫びと訂正】
初出時、「ニフティの130億円の赤字を吸収している」と記載しておりましたが、富士通より訂正があったため、現在の記載に訂正いたしました。

 システムプラットフォーム事業の売上高は前年比1.5%減の5551億円、営業利益は20億円増の493億円。そのうち、システムプロダクトの売上高が同7.0%減の2629億円、ネットワークプロダクトの売上高が同4.0%増の2922億円。

 「システムプロダクトでは、ソフトウェアはクラウドの伸長とともに好調であったが、UNIXが前年比3割減となった。ネットワークプロダクトでは、国内のLTE事業が計画通りとなり、北米市場においては、第4四半期に高い伸びをみせた」(加藤取締役執行役員専務)と語った。

 ユビキタスソリューションは、売上高が前年比5.5%減の1兆902億円、営業利益は103億円減の96億円。そのうち、PCおよび携帯電話の売上高が同7.5%減の8228億円、モバイルウェアの売上高が同1.0%増の2674億円となった。

 「PCの出荷台数は、前年比3%減の583万台。国内は横ばいだが、海外では下期に採算重視の戦略へとシフトし、出荷台数を減少させている。PC事業は、上期の欧州ビジネスでの赤字が残ったため、通期で赤字になった。また携帯電話は、前年比19%減の650万台。スマホシフトのなかで厳しい状況にあり、第2四半期をピークに出荷台数が落ちている。だが、携帯電話事業は黒字である」(加藤取締役執行役員専務)などと語った。

 デバイスソリューションは、売上高が前年比7.6%減の5403億円、営業損失は、前年から40億円悪化のマイナス142億円の赤字。そのうち、LSIの売上高は前年比11.5%減の2896億円、電子部品は同2.3%減の2525億円となった。

2013年度通期は450億円への黒字転換を見込む

富士通 取締役執行役員専務の加藤和彦氏

 一方、2013年度(2012年4月~2013年3月)の通期業績見通しは、売上高は前年比3.8%増の4兆5500億円、営業利益は46.9%増の1400億円、経常利益は28.0%増の1350億円。当期純利益は729億円の赤字から、450億円への黒字転換を目指す。

 セグメント別業績見通しは、テクノロジーソリューションの売上高が前年比5.4%増の3兆1000億円、営業利益は前年から90億円増の1900億円。そのうちサービス事業は売上高が前年比3.9%増の2兆4800億円、営業利益が前年から63億円増の1380億円。サービス事業のうち、ソリューションSIの売上高は前年比3.9%増の8700億円、インフラサービスの売上高は同3.9%増の1兆6100億円とした。

 システムプラットフォーム事業の売上高は前年比11.7%増の6200億円、営業利益は前年から26億円増の520億円。そのうち、システムプロダクトの売上高が前年比12.2%増の2950億円、ネットワークプロダクトの売上高が同11.2%増の3250億円。

 「システムプロダクトでは、クラウド関連によるソフトウェアの伸長に加えて、UNIXの新機種出荷が本格化することが貢献する。ネットワークプロダクトでは、国内のLTE関連が高水準で推移し、北米も強含みで考えている」(加藤取締役執行役員専務)と語った。

 ユビキタスソリューションは、売上高が前年比6.4%減の1兆200億円、営業利益は26億円減の70億円。そのうち、PCおよび携帯電話の売上高が物量減が響き、11.3%減の7300億円、モバイルウェアの売上高が8.4%増の2900億円とする。

 PCは、国内の法人向けPCビジネスが伸長すると見ているものの、海外における採算重視の戦略を継続するため、出荷台数は前年割れとなる前年比8.2%減の535万台の計画。山本社長は、「PC事業は最低でも500万台の出荷規模を確保することが、黒字化のポイントになる」などとし、2013年度の黒字転換を目指す。

 「PC事業は台数を追わない戦略をとり、2012年度の出足の失敗を繰り返さないようにする。為替の影響はPCの価格アップと、トータルコストの削減で吸収する」(加藤取締役執行役員専務)という。

携帯電話は前年比20%減の520万台を計画、半導体の安定化にはメド

 また携帯電話も前年割れとなる前年比20.0%減の520万台の計画とした。

 山本社長は、「ユビキタスビジネスは、見通しを厳しく見ざるを得ない。売れるモデルへの絞り込み、顧客フロントでのモバイル端末を使用したサービス化などの取り組みを加速することが、厳しい状況への当面の対応になる」とした。

 デバイスソリューションは、売上高が前年比14.7%増の6200億円、営業利益は、前年のマイナス142億円の赤字から、250億円の黒字転換を目指す。そのうち、LSIの売上高は前年比10.5%増の3200億円、電子部品は同18.8%増の3000億円としている。

 山本正已社長は、半導体事業の再編についても言及。「課題事業への具体的な対応として、2013年2月7日に発表した半導体事業の再編の方針に伴い、各方面と協議を行った結果、スパンションに、富士通のマイコン・アナログの開発事業譲渡で合意した。製造、販売は、富士通セミコンダクターに残ることになる。国内外の人員対策、固定資産の減損により、半導体事業は、2013年度第2四半期以降の安定化にめどがついた」とした。

 発表によると、スパンションは、富士通セミコンダクターのマイコン・アナログ事業(約1億1,000万ドル)と棚卸資産(約6,500万ドル)を買収する。買収は、2013年7月~9月の間に完了する見込みだという。

 なお、パナソニックと話し合いを進めているシステムLSI事業の統合、最先端の三重工場300mm生産ラインは、台湾のTSMCを含む新たなファウンドリ企業への移管については、「現時点では話すことはできない」としたものの、「半導体事業の再編については、5合目まできたといえる。他社との連携という観点より、自らの体質強化にめどがついた」などと語った。

 今回の決算のなかでは、英国の富士通サービスに対する年金財政健全化への取り組みのほか、ドイツの富士通テクノロジー・ソリューションズののれん代減損や、1500人の人員対策を実行するなどの欧州での体質強化策がひとつのポイントとなっている。

 英国年金については、2013年3月に1143億円を拠出。年金ポートフォリオを見直し、債務拡大リスクを軽減している。

 山本社長は、「FTSでのPCビジネスは損益重視へと転換し、ユーロ安も解消したことから、2012年度下期には赤字はおおむね解消した。引き続き、ハードウェアのコスト構造の改革、サービスモデルへの転換を目指し、営業・サービス体制の構築に着手し、成果があがりつつある」とした。

 さらに、山本社長は、「営業利益は2012年度比で450億円の増益。半導体および欧州ビジネスの構造改革効果で250億円、人事施策とコーポレート費用の削減効果が200億円、通常ビジネスの収益改善により150億円の増益を見込む。だが、その一方で、英国年金費用の増加などの特殊要因でマイナス150億円が見込まれる」などとした。

 また、「国内ICT市場は堅調に回復し、クラウド導入が本格化している。先日発表した『Fujitsu Technology and Service Vision』に従い、垂直統合モデルを生かした競争力を持った新製品群を順次投入し、国内でのダントツを極めたい」とし、「2013年度も構造改革に手を緩めることなく、コスト改革と成長シナリオの実行にスピードを持って取り組んでいく。これにより、2015年度までの中期目標である、営業利益2000億円以上、純利益1000億円以上、フリーキャッシュフロー1000億円以上の達成を確実なものにしていきたい」(山本社長)と語った。

(大河原 克行)