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ストレージの常識を覆す~日本IBM、オールフラッシュストレージ「IBM FlashSystem」
(2013/4/15 06:00)
日本IBMは4月12日、1Uサイズのフラッシュストレージ「IBM FlashSystem」の提供を開始した。2012年10月に買収したTexas Memory Systemsの技術をベースにした同社初のオールフラッシュストレージ製品となる。日本IBM システム製品事業 ストレージ事業部 事業部長 波多野敦氏は「IBMには多くのストレージ製品があるがFlashSystemは既存モデルの後継ではなく、一から作り上げたまったく新しい製品。圧倒的な集積率とマイクロ秒のパフォーマンス、そしてエンタープライズクラスの信頼性でストレージの常識を根底から覆す」と語る。
IBM FlashSystemはエントリモデル2機種(710/810)と可用性を強化したHAモデル2機種(720/820)が用意されている。710と720はフラッシュメモリのタイプがSLC、810と820はeMLCで、いずれもPCなどで広く使われているMLCより品質も高く寿命も長い。使用可能容量は、エントリモデルの710が5.2テラバイト、810が10.3テラバイト、HAモデルの720が12.4テラバイト、820が24.7テラバイト。いずれのモデルも高さは1U(44mm)だが、エントリモデルが432mm×569mmなのに対し、HAモデルはRAIDコントローラが装着されているため432mm×638mmと奥行きが69mm長くなっている。
波多野氏はIBM FlashSystemについて、その特徴を大きく4つ挙げている。
・2200万IOPS/1ラック(1Uあたり40万~50万IOPS)を超える圧倒的なパフォーマンス
・1ペタバイト/1ラックの高い集積率
・100マイクロ秒の超高速なアプリケーションレスポンス
・MLCに比べて最大30倍の信頼性
特筆すべきは「1Uのフラッシュストレージを追加しただけで最大12倍のパフォーマンス向上」(波多野氏)を実現するその高速性だ。ビッグデータ時代を迎え、データの収集や分析といったプロセスに高速性が求められているにもかかわらず、データベースパフォーマンスはなかなか向上しない。「この30年でCPUの性能は年率60%向上しており、たとえばIBMのPowerプロセッサは10年で120倍向上している。しかしディスクはこのスピードにまったくついてこれず、年率5%にとどまっており、CPUとの性能差は年々激しくなってきている。つまりディスク装置は社会インフラのボトルネックと化している」と波多野氏。このボトルネックと化したディスクの代わりに不揮発性メモリを採用することで、圧倒的な性能向上に加え、「以前より少ないCPU数(コア数)で事足りるのでデータベースライセンスコストが大幅に削減でき、またフロアスペースや電気代も大きく節約できる」(波多野氏)と高いTCO削減効果が期待できるとしている。
フラッシュメモリ自身にRAID 5を実装
「メモリなのにハードディスクとして制御されるSSDとは根本的に異なる。IBM FlashSystemはメモリをメモリとして扱うように設計されており、高速性を追求した独自デザインの外付けフラッシュストレージ。クルマに例えるなら、ハードディスクはセダンでSSDはスポーツカー、そしてフラッシュメモリは最高速度を出すようにチューンナップされたレーシングカー」と語るのは日本IBM システムズ&テクノロジー エバンジェリスト 佐野正和氏。IBM FlashSystemsに搭載されているフラッシュテクノロジの優位性をいくつか紹介している。
まずは採用されているチップの品質および耐久性について。パソコンなどで広く使われているMLC(Muti-Level Cell)は価格も安いため企業向けストレージに採用されることもも少なくないが、品質は相対的に低く、書き込み/消去耐性も1000~3000回程度。これに対し、エントリモデルで採用されているeMLC(enterprise MLC)は3万回以上、HAモデルで採用されているSLC(Single-Lavel Cell)は10万回以上と、MLCよりも大幅な品質と耐久性の向上を実現できる。また、汎用CPUにマイクロコードを載せるのでもなく、焼付けタイプで変更不可のASICでもなく、変更可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)を採用、処理前に並列数を把握して配列し、割り込みを起こさない並列処理を実現、ソフトウェアによる遅延をハードウェアで解決し、特定用途で高速性を発揮するように設計されている。
また、既存の2UのSSDストレージ(IBM Storwize V7000)に比較して「SSDでは400GB×24本でRAIDを組んでも8テラバイト程度の容量だったが、FlashSystem 820なら半分の1Uで20テラバイト、2Uなら2D RAID実装で40テラバイトと5倍の集積率を実現」(佐野氏)するなど、フラッシュメモリの特性を活かした高集積度設計で、ラックを有効に活用できる点も特徴だ。
そしてIBM FlashSystemの最大の特徴が、フラッシュメモリ自身がRAID機能を実装する仕組みだ。これはIBMの特許技術であるVariable Stripe RAIDでもってモジュール内にボードレベルRAID 5(9D+1P)を構成し、どれか1つののチップに障害が発生した場合、障害チップを切り離し、他のチップでデータを保護、自動的に8D+1PのRAID 5に再構成することで可用性を担保する。さらにHAモデルではメモリモジュールをまたいでRAID 5を構成(10D+1P+1S)するシステムレベルRAIDが実装でき、これを2次元方向に構成する"2次元フラッシュRAID(2D RAID)"を構築することで、これまでにない高い可用性を実現できる。
「IBM FlashSystemと同等のパフォーマンスを実現しようとしたら、単体のハードディスクなら4000個、大容量キャッシュを搭載した大型ストレージでも600~1000個のディスクが必要となる。それがたった1Uのサイズで収まるのだから、どのくらいコストパフォーマンスが高いかは一目瞭然」と佐野氏は強調するが、IBMのベンチマークによれば、Oracle Databaseで200万件の照会を4 Oracle RACで行った結果、従来のディスクストレージは12分15秒(1万6000IOPS)だったのに対し、FlashSystemは1分20秒(16万IOPS)という結果が得られたという。「現在注目されているHadoopなどはそもそもディスクI/Oが遅いから登場した技術。十分に速ければ必要ない。我々のフラッシュストレージに対するアプローチは"かゆいところに手が届きさえすればいい"というもの。つまりディスクが遅いことがネックなら単純に速くするための技術を投入していく」(佐野氏)
もっともIBMとしては、ストレージの主流が完全にフラッシュに移行するとは見ていないようだ。佐野氏は「少なくともあと10年はまだディスクストレージとの混在はつづく。やはり経済性のことを考えるとディスクは残るだろう。しばらくは部分的にフラッシュディスクを使ったり、圧縮や重複排除などの技術を組み合わせる、といった混合型のストレージ利用が主流になるのではないか」と見通しを述べている。またIBMとしては内蔵型フラッシュストレージを出すつもりは当面なく、「ストレージは外部に置いたほうが有効活用できる。サーバサイドではなく、外付けの製品に注力していきたい」(佐野氏)と方針を示している。
ベンチャー中心だったフラッシュストレージ市場だが、今年に入り、NetAppやEMCなどのビッグベンダがフラッシュストレージ製品を積極的に発表しており、今回のIBM FlashSystemによってさらにフラッシュストレージ市場が活性化しそうな感はある。IBMは本製品の発表とともにIBM FlashSystem専門組織を設立し、10億ドルの研究開発費を投資して、日本を含む世界12カ所にコンピテンシーセンターを作るとしており、ユーザに対してFlashSystem試用プログラムを提供するなど積極的な販促に取り組む姿勢を見せている。
ただし、ビッグベンダはフラッシュストレージ、とくにオールフラッシュアレイに対しては慎重な姿勢を崩しておらず、IBM FlashSystemも市場の動向を探るための第一弾といったイメージが強い。金融やHPCといった分野での高い需要が期待されるフラッシュストレージだが、フラッシュメモリチップの価格に大きく左右されるだけに、まだはっきりとした展望が見えにくいというのが実情だろう。そうした業界の不透明感を払拭するほど、高いパフォーマンスを求めるニーズがどのくらい増えてくるのかに注目したい。
IBM FlashSystemの最小構成価格は840万9600円から。