日本IBM、イェッター社長が中期事業方針を発表~大阪など国内4カ所に支社を新設
質問応答システム「Watson」の活用例など研究成果の展示も
日本IBM 代表取締役社長のマーティン・イェッター氏 |
日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)のマーティン・イェッター社長は、2015年に向けたIBMのグローバル事業戦略について説明を行い、大阪、名古屋、福岡、仙台に、事業所を統括する支社を新たに設置することなどを明らかにした。
イェッター社長は、「日本はIT市場としては世界第2位の市場であり、ドイツ、フランス、中国をあわせたのと同じ成長チャンスがある。その点で、日本の地方都市、中小企業は新規市場として有望である。東京以外の市場に成長があると考えており、そこに競争力を発揮できる」とした。
また、「日本IBMは、グローバルなエコシステムを活用し、顧客の国内における成功に加えて、グローバルな成功を支援する。大和研究所を都内に移したのも、より緊密に顧客との連携を図るためのものだ。ローカルの強みと、170カ国40万人の社員を活用したグローバルの知見を生かしていきたい。就任してから1カ月間に、60~70人のCEOと会ったが、共通しているのは、チャンピオンリーグで戦えるチームが欲しいということだった。これを念頭に日本での体制を変えているところである」などとした。
■第1に重要なのは“顧客へのコミットメント”
会見の冒頭、イェッター社長は、「IBMが掲げている2015年に向けたロードマップは、IBMが信念を持って取り組んでいるものであり、日本IBMはそのなかで重要な役割を果たすことになる」と前置きした上で、「2015年には、1株あたり20ドルの利益を目指すことが目標になる。1株あたり利益は2002年から継続的に成長しており、これを支えるのは、売上高の増加となる。既存ビジネスに加え、価値の高い事業へのシフト、戦略的買収によって実現することになる」とした。
また、「効率的な事業体制の確立に加えて、キャッシュを生むことが必要である。2015年には、ソフトウェアで利益の半分を占めることを期待しており、それまでに200億米ドルの売上高増加を目指す。成長市場における売り上げ構成比が全体の30%に近づくほか、生産性向上により80億ドルの削減が可能になる。さらに、スマータープラネットでは、売上高は約70億ドル、ビジネスアナリティクスは約60億ドル、クラウドは70億ドル規模の成長貢献を期待している。また、成長の80%が既存ビジネスだが、残り20%は買収によって成長することになる。それに向けて、スマータープラネット、ビジネスアナリティクス、クラウド、PureSystems、そして、成長市場領域に継続的な投資を進めていくことになる」とも述べた。
IBMの2015年までのロードマップでは1株あたり20円の利益を目指す | サービス、ソフトウェアが今後の成長をけん引することになる |
日本IBMにおいては、「第1に重要なのは、顧客へのコミットメントであり、顧客を支援するために、新たな人材、スキル育成に投資をしていくことになる。2つめには日本IBM自身が変革し、日本の中堅企業向けにフォーカスし、特に地方の企業に焦点を当てる。そして、成長領域としてはスマータープラネットがあり、さらに、情報セキュリティに対するイノベーションをけん引していく考えだ。この1年の間に、IBMはセキュリティシステムズ部門を新設し、全世界2000人の体制を確立した。ここでは650人のセールス体制、200人以上のコンサルティング体制もある。また、20億ドルの研究開発費を投じているPureSystemsにより、エンタープライズコンピュータを、簡易に、よりセキュアな環境として提案できる。われわれが浸透できていない市場において、競合からシェアを取ることが大切である」などとした。
7月1日付けで営業体制を変更したことに触れ、「営業部門の半分はエンタープライズユーザー向けとした。多くの顧客は首都圏の外に拠点を置いており、中部(名古屋)、関西(大阪)、九州(福岡)、東北(仙台)に、地域支社を配置し、ビジネスパートナーとの関係を強化していく。新たな顧客と新たな市場において、関係を構築し、ビジネスを獲得するためにアグレッシブに競争していくことになる」と語った。
また、「日本におけるスマーターシティへの取り組みでは、エネルギー効率における知見が生かされることになる。クラウドソリューションを活用してこれに取り組んでおり、その成果を世界に発信していく」と語った。
日本に新たに4つの支社を設置する |
■今後3年で、IBM全体の利益の50%がソフトからのものになる
イェッター社長に続いて、米IBMの4人のシニアバイスプレジデントが説明を行った。
ソフトウェア事業に関して説明した米IBM SVP, IBM Software Solutions Groupのマイク・ローディン(Mike Rhodin)氏は、「2011年におけるソフトウェアの売り上げ構成比は約44%となっている。今後3年間でこの構成比が変わることになるだろう。ソフトウェアがIBM全体の利益の50%を構成し、利益も6~8%の成長が見込まれる。ビッグデータやセキュリティ、スマーターコマースといった今後も高い価値が見込まれる領域において投資を継続していくことになり、また、ハード、ソフト、ソリューションを統合する部分にも投資をし、サーバー分野でのリーダーであり続ける。そのために1年間に60億ドルの開発投資と、200億ドルの買収費用を計上している」などと発言。
米IBM SVP, IBM Software Solutions Groupのマイク・ローディン氏 |
米IBM SVP, Enterprise Transformationのリンダ・サンフォード(Linda Sanford)氏は、「IBMは101年にわたり変革を行ってきたが、特にこの10年において、多国籍企業となり、グローバルに統合とした企業へと進化し、標準化したプロセスを採用して、より経営のスピードを速め、即応性を高めてきた。そして、いま、よりスマーターなIBMになろうとする段階に入ってきた」とし、「シェアードサービスの活用などにより、80億ドルもの効率性を図ってきた。これはコスト削減ではなく、生産性を高めることによって実現したものであり、成長に対する投資へとシフトすることができる要因になっている。この知見は顧客にも提供していくことになる」などと語った。
米IBM SVP, Enterprise Transformationのリンダ・サンフォード氏 |
また、米IBM SVP, Global Technology Servicesのエリック・クレメンティ(Erich Clementi)氏は、「サービス事業は売上高成長の半分以上、税引き前利益の41%を占めており、最も大きな部門になっている。これは日本IBMでも同じである」と語り、「IBMはコモディティサービスから離れ、より高い価値を提供できる領域を目指している。そのためにスマータープラネットやビジネスアナリティクスの領域に投資をしている。2015年におけるビジネスチャンスの7割以上は、クラウドとつながることになる。クラウド向けのエンタープライズオプションを提供し、クラウドベースでソリューションを提供していく体制を構築していく必要がある」などとした。
クレメンティ氏は、IBM Smart Cloudにおいて、2011年に4000社のクラウド導入の成功事例があったこと、日本をはじめ全世界6カ所にグローバルデータセンターを持っていること、60以上のSaaSが稼働していることなどを紹介。「IBMが計画している200億ドルの投資のうち、そのほとんどがクラウド領域である」としたほか、新たにトヨタ紡織が3Dアプリケーションを活用した自動車の内装テザインに、IBM Smart Cloudを導入したことを明らかにした。
米IBM SVP, Global Technology Servicesのエリック・クレメンティ氏 | IBM Smart Cloudでは数多くの成果があがっている |
さらに、米IBM SVP, President, Sales and Distributionのブルーノ・ディレオ(Bruno Di Leo)氏は、スマータープラネットに対する取り組みについて説明。
「スマータープラネットにおいて、重要なもののひとつにスマーターシティがある。IBM全体のサポートにより、世界のどの国においても利用してもらえるものを用意しており、2011年には、スマーターシティに関して、2400ものプロジェクトを推進した。このうち、1900が主要都市であり、500が成長市場でのものだった。トップ50都市のうち38都市でIBMのスマーターシティの取り組みが行われ、78%の成長がIBMのスマーターシティによってもたらされている。日本では、北九州市において、電力消費が減少し、電力価格が10~15%減少。仙台市ではIBMのITを活用し、温室効果ガスの削減に取り組んでおり、2020年までに20%を削減するという目標を達成するだろう。より顧客の近くでサービスすることが重要であり、日本のすべての顧客に対してサービスを提供するために、日本国内に新たに4つの営業拠点を設置した。これがスマーターシティの実現を加速することになる」とした。
米IBM SVP, President, Sales and Distributionのブルーノ・ディレオ氏 | 全世界で2400ものスマーターシティプロジェクトが走っている | 日本におけるスマーターシティの事例 |
■Watsonの活用例などを展示
また、今回の会見にあわせて、同社の研究成果の展示も行った。
IBMの質問応答システム「Watson(ワトソン)」の具体的活用例として、医療分野へ応用した「Watson for Healthcare」を紹介。自然言語対応能力、仮説生成、根拠に基づくラーニングを利用し、治療ガイドライン、電子カルテ、医師や看護師のメモ、検査、臨床実験、学術論文、患者情報といった非構造化データから仮説を生成。根拠に基づいた意思決定を支援するという。さらにこの技術は、ヘルスケア以外の業界へも展開していくことになるという。
また、Analytics for Cyber Securityとして、ネットワークのアクセスと、安全性を監視するアナリティクスによって、企業へのサイバー攻撃を迅速に探知し、ハイバリューリスクを伴うビジネス資産を監視。これはビジネス、社会、国家レベルでの知的財産の保護にも有効になるという。
Watson for Healthcare | Analytics for Cyber Security |
さらに、世界の主要企業のCEOや公共機関のリーダーが抱えている戦略的課題を理解することを目的として、2年ごとに実施しているIBM Global CEO Study 2012や、先進の画像分析技術を活用し、消費者の嗜好(しこう)や状況に合わせた商品の提示などを行うAugmented Reality Shopping Advisor、Blue Gene/Qによるライフサイエンスやヘルスケアの分野における予測モデリングなどに活用するIBMのスーパー・コンピュータ技術「Ultrafast and Low Energy Consumption Supercomputing with IBM Blue Gene/Q」などを紹介。Blue Gene/Qを使ったモデルシミュレーションでは、先進国において、長年、死亡原因のトップとなっている心臓血管系の病気への取り組みについても展示した。