富士通研、手のひら静脈と指紋による大規模認証技術を開発

100万人から個人を2秒以内に識別


手のひら静脈と指紋を融合した認証技術

 株式会社富士通研究所(富士通研)は1日、手のひら静脈と指紋を融合した認証技術を開発したと発表した。

 新開発したのは、手のひら静脈情報と指3本の指紋情報を組み合わせた生体認証技術。両情報を利用することで、100万人規模のデータの中から特定の個人を2秒以内に識別するという。

 ソフトウェアシステム研究所 主管研究員の新崎卓氏は「同技術により、入退室管理用の小規模なものから、社会基盤システム向けの大規模なものまで、手ぶらで個人認証を行う生体認証システムを利用者の規模に合わせて構築できる。また、既存の指紋センサーに手のひら静脈認証を追加するだけで容易に導入できる」としている。

 近年、なりすまし防止などのために、生体認証技術の普及が進んでいる。手ぶらで認証できる利便性から今後も普及が進むと見られるが、例えば大企業や行政サービスにも広がっていくとすると、100万人~1億人といった“不特定多数”の中から“特定の個人”を高速・高精度に認証する技術の実現が必要となる。

ソフトウェアシステム研究所 主管研究員の新崎卓氏

 「例えば、金融機関の認証のように、ICカードに登録された特定の生体情報であるかないかを判断する場合は難しくない。特定のデータに合致するかどうかだけを見るので、それこそ1種類の認証情報で十分に認証できる。しかし、不特定多数の中から特定の個人を認識する1対Nの認証の場合、1種類の生体情報だけでは精度の問題で他人との違いが明確に区別できないことがある」(新崎氏)。1対Nの認証が容易でないのは、入国管理でいまだに左右10本の指紋を4回に分けて念入りに取得していることからもよく分かる。

 このため、複数の生体情報を組み合わせた認証が開発されているが、その場合、それぞれの入力作業が別々になると利便性が低下するのが課題だ。例えば、手のひら静脈認証と虹彩認証を組み合わせた場合には、手と目を別々にかざす必要が出てしまう。

 新技術はこれらの克服を目指して開発された。新崎氏が挙げた技術的課題は「高い認証精度」「識別の高速化」「簡便な利用」の3つだ。同氏によれば「1対100万での認証精度は、すべての登録データと付き合わせた認証を行うため、1対1に比べて100万倍高い精度が必要。また、1対1認証を100万回繰り返すと処理に数十分かかってしまうので何らかの方法で高速化しなければならない。加えて、一度の操作による認証を目指した」という。

精度が高く操作の手間もかからない1対Nの生体認証は現状ない今回取り組んだ技術的課題

 まず、採取方式の異なる手のひら静脈と3つの指紋に対して、手を一度かざすだけで安定的に両情報を取得する技術を開発。併せて、100万人から識別対象データを事前に高速に絞り込むための技術と、最終的に個人を特定するための技術も開発した。

 絞り込み技術では、手のひら静脈と3つの指紋から合わせて4つの絞り込み用特徴情報を抽出し、この情報から一挙に100万人→1万人に絞り込む。個人特定技術では、3つの指紋の識別スコアを融合判定し、その結果と手のひら静脈の識別スコアを融合判定。階層的に判定することで、正確かつ安定して個人を特定できるようにした。

 また新技術では、識別の並列処理に対応している。識別すべき人数に応じて識別サーバーの数を増減させることが可能で、クラウド環境での利用に適しているという。

 生体認証は多種あるが、富士通研では、認証精度が高く、利用が簡便な手のひら静脈認証と指紋認証の研究開発に集中してきた。今回はその成果で、実用性のある1対100万の生体認証は「世界初」とアピールしている。

手のひら静脈と3つの指紋のデータを同時に安定取得する技術手のひら静脈と複数指紋の融合で特定の個人を正確かつ安定して識別する技術

識別対象の高速な事前絞り込み技術識別処理の並列化技術

 今後も改良を重ね、2011年度中に1000万人規模の認証を可能にする考え。「現状もサーバーをスケールアウトさせることで認証規模は大きくできるが、現状のままではコスト的に不利な点がある。現実的なコストで1000万人に対応できるよう機能を強化していく。具体的には識別対象の絞り込み精度などを向上していくことになる」(同氏)とした。

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