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佐賀県立高校全校で来春より「PC1人1台」、業界団体と課題を研究へ

「教育の情報化」ガイドライン化を推進

左から佐賀県教委 教育情報化推進室室長の福田孝義氏、佐賀県教委 教育長の川崎俊広氏、WiCC 発起人企業代表の織田浩義氏、WiCC 事務局長の中川哲氏

 佐賀県教育委員会(佐賀県教委)とWindowsクラスルーム協議会(WiCC)は10日、教育の情報化に関する共同研究を開始すると発表した。佐賀県下の県立高校で2014年4月より、生徒1人1台の学習用PC環境を実現するのに先立ち、「環境整備」「デジタル教材開発」「教員ICT研修」「セキュリティ対策」に関して研究する。

 佐賀県は、教育の質の向上と児童生徒の学力向上を目的に、2011年度より実証研究を進めてきた。実際に授業にPCを採り入れ、その対象校を増やしながら、2014年4月に県立高校全校において、1人1台のPC環境を実現する。

 端末はWindows 8 Proタブレットを採用。家庭負担(5万円以上となる場合は差分を補助)となり、2014年度の新入生から指定の機種を購入した上で新学期を迎える。その環境整備を進める上で、今回、WiCCとともに「環境整備」「デジタル教材開発」「教員ICT研修」「セキュリティ対策」の4テーマについて共同研究を行うという。

佐賀県のこれまでの取り組み

佐賀県の進める環境整備

 教育の情報化を進める上で核となるのが佐賀県教育クラウド「SEI-Net」。校務管理システム、学習管理システム(学籍情報・出欠管理など)、教材管理システム(教材コンテンツの制作・登録・配信、学習者登録、進ちょく・成績管理など)の3つをまとめたクラウド環境で2013年4月に稼動した。

 また、教職員の指導力向上などのため、県と市町との連携を強める推進協議会を発足。各学校には推進リーダーも配置し、事業全体のマネジメント体制を整えている。

 ここに1人1台の学習用PCが追加される。Microsoft Office、デジタル教材、電子辞書などを主な教材として搭載し、セキュリティ対策も施す。学習用PCの活用例としては、朝のホームルームから各科目での使用、終礼での連絡事項、自宅学習まで――と、ほぼ1日を通して活用する予定で、「(学習用PCの)効果が確信できる範囲から、積極的に情報化を進めていく」(佐賀県教委 教育情報化推進室 室長の福田孝義氏)という。

 現在、多くの教室では電子黒板の導入が進んでおり、先生から生徒へ片方向の情報化が済んでいるが、1人1台の学習用PCによって、小テストの結果をデジタルデータで先生に提出するなどインタラクティブ性が実現される。また、端末を自宅に持ち帰ることで、例えば不登校の生徒や障害を持つ生徒、あるいは災害やパンデミックで休校となった場合でも、クラウドを介した遠隔学習環境が実現。「授業の遅れの抑止」「学校への復帰支援」「特別支援教育の充実」まで、「いつでも・どこでも・誰でも良質な教育を受けることが可能になる」(福田氏)という。

学習用PCの活用事例。ほぼ1日を通して活用するイメージだ
「授業の遅れの抑止」「学校への復帰支援」「特別支援教育の充実」まで

4テーマについて共同研究

共同研究の概要

 今回の共同研究では、普通教室においてICT教育を実践するにあたって想定される「環境整備」「デジタル教材開発」「教員ICT研修」「セキュリティ対策」について重点的に調査・研究を実施し、2014年7月をめどに成果を報告。全国の教育関係者に広く共有することで、教育の情報化の推進に寄与することを目指す。

 具体的な研究内容として「環境整備」では、校内ネットワークおよび自宅への端末持ち帰りまで見据え、ユーザー管理・端末管理・ネットワーク環境の整備についての調査・研究を行い、その成果を基にガイドラインを検討する。

 「デジタル教材開発」では、教科書・教材会社との連携により、最適なデジタル教材の開発を推進するとともに、教育現場で教職員が自作する、Word/Excel/PowerPointなどを活用した効果的な教材作成について調査・研究を行う。特に、学習履歴の蓄積を視野に入れた教材利用を検討。「辞書を例にすると、調べた単語履歴を蓄積し、履歴から小テストを作成。テスト結果も蓄積して、保護者も子供の学習状況を把握できるような環境を目指す。構想段階だが、進路によって覚えるべき単語を生徒ごとに提示するなど、情報化を最大限に生かした活用も可能となる」(WiCC事務局長を務める日本マイクロソフト 業務執行役員 パブリックセクター統括本部 文教本部長の中川哲氏)。

 「教員ICT研修」では、教員用PCや電子黒板を使いこなし、円滑に授業を実施するため、教員向け研修コンテンツの企画・作成・検証を通じて、効果的なICT研修の在り方を検討する。佐賀県主導で進められてきた研修に、業界を超えた45社(2013年11月現在)の民間企業で構成されるWiCCの知見もうまく採り入れる考えだ。

 「セキュリティ対策」では、佐賀県の要求に従ったセキュリティ設定についてガイドするとともに、持ち帰り学習においても、保護者によって適切な管理が可能となる手法についてガイドブック化する。具体的に「AppLocker」や「Windows 8ファミリーセーフティ」の適用が検討されている。

 なお、2013年5月に発足したWiCCが教育委員会と行う初の共同研究となる。WiCC発起人企業代表 日本マイクロソフト 執行役 パブリックセクター統括本部長の織田浩義氏は「教育の情報化についてこれが正しいという取り組みはまだ確立されていない。そこへ目指したいい経験となる取り組み。いちベンダーでは成し得ない新しい仕組みづくりを進めるいい機会になる」と、その意義を語った。

川島 弘之