インタビュー

Salesforce 1で進化するService Cloudの現状~米salesforce.com バードSVPに聞く

 「Salesforce 1への進化は、企業のサービス環境を大きく変えている」と語るのは、米salesforce.comのSalesforce Service Cloud and Desk.com担当シニアバイスプレジデント(SVP)兼グローバルマネージャ、アレックス・バード(Alex Bard)氏だ。

 2013年11月に、米国サンフランシスコで開催された「Dreamforce 2013」において発表したSalesforce 1は、Service Cloudそのものも大きく進化させ、企業が求める新時代のサービス環境を提案することにつながっているという。

 バード氏は、2011年9月にsalesforce.comが買収したAssistlyのCEOを務めていた人物。現在、同製品は、Desk.comの名称でオールインワンのカスタマサポートプラットフォームとして中小企業向けに提供されており、今後の日本での展開も注目される。バードSVPに、Service Cloudの進化、そして、日本におけるDesk.comの取り組みなどについて聞いた。

“顧客のためのインターネット”を目指す

――昨年11月に開催されたDreamforce 2013において発表された「Salesforce 1」はどんな意味を持ちますか。

米salesforce.com Salesforce Service Cloud and Desk.com担当シニアバイスプレジデント(SVP)兼グローバルマネージャ、アレックス・バード氏

 Salesforce 1への進化は、グローバルの大きな潮流をとらえたものだといえます。その潮流のひとつが、ソーシャル革命です。いまやソーシャルメディアを利用している人の数は、延べ45億人となっています。

 2つめの潮流はモバイル革命です。昨年は、スマートフォンの出荷台数が、初めて、従来の携帯電話の出荷台数を抜いた年になりました。そして今年の第2四半期には、PCからのネット接続よりも、スマートフォンおよびタブレットによるモバイル機器からのネット接続の方が上回ると予測されていることからも、それは明らかです。

 3つめが、「接続」することへの進化です。2020年までに、500億個の「モノ」がインターネットに接続されることになると予測されているように、モノへの接続は大きな潮流となります。これに加えて、クラウドの進化も見逃せない。現在では、80%の企業がなんらかの形でクラウドを利用しているという調査結果もあります。

 こうした、ソーシャル、モバイル、コネクテッド、クラウドといった要素が絡み合った環境が訪れています。この環境において、salesforce.comが目指すのは、Internet of Customer(顧客のためのインターネット)です。Internet of Customerの考え方を導入することにより、企業と顧客のやりとり、企業と社員とのやりとり、企業とパートナーとのやりとりは、再定義されることになるでしょう。Salesforce 1は、この時代において、力を発揮すると思っています。

――Salesforce 1は、Internet of Customer時代にどんな役割を果たしますか。

 Salesforce 1には2つの側面があります。ひとつは、プラットフォームであるということです。プラットフォームとしての役割では、お客さまにカスタムアプリケーションを活用してもらうために数多くのAPIを提供する。ここで開発されたアプリケーションは、ソーシャルであり、モバイルに対応し、接続することを本質的な機能として備えることになります。

 Salesforce 1をプラットフォームとして活用してもらうことで、この機能を、お客さまの製品のなかに、容易に、直接埋め込むことができるようになり、俊敏性を高めた形でカスタムアプリケーション開発し、展開することができる。これがSalesforce 1が持つプラットフォームとしてのパワーだといえます。

 そして、もうひとつは、Salesforce 1そのものが、リファレンスアプリケーションであるという点です。これまでのSalesforceのプラットフォーム上で活用してきた資産を、そのままモバイル上で利用できるようになり、いつでも、どこでも使えるようになります。

 salesforce.comの成功のためには、ISVは欠かせない存在となります。従来のプラットフォームで開発され、App Exchangeで流通するアプリケーションは、Salesforce 1においても活用できますし、それをISVもお客さまも、双方がメリットを享受できる環境が整っている。これからもAPIを増やし、継続的に提供していきますから、よりリッチなアプリケーション、モバイルに対応したアプリケーションが増えていくことになります。

 一方で、お客さま自身が活用しているアプリケーションを、今度は自らがISVとなって流通するという動きも、Salesforce 1プラットフォームにおいて広がる可能性があると考えています。お客さまは、もともと自らのためだけにアプリケーションを開発したわけですが、民主化というプロセスを経て、それをほかのお客さまにも利用してもらうといった動きは、これから加速すると考えていますし、われわれもその動きは歓迎したいですね。

 salesforce.comの成功は、お客さまの成功なしには成し得ない。また、私たちのお客さまの成功は、その先のお客さまのお客さまが幸せになることが前提となります。Salesforce 1は、それを実現するプラットフォームであり、お客さまや、ISVをはじめとするパートナーが幸せになることで、salesforce.comも幸せになります。

コンタクトセンターからエンゲージメントセンターへ

――Salesforce 1によって、Service Cloudはどう進化しましたか。

 Salesforce 1によって、Service Cloudを大きく進化しています。ひとつは、どんなアプリケーション、デバイスに対してもサポートのワークフローを組み込めるようになったという点です。Dreamforce 2013においても、医療分野で活用するPhilipsの「EPIQ 7」という超音波測定装置のデモンストレーションを行いましたが、ここでは、裏でSalesforce 1が稼働しており、なにか機器のトラブルが発生した際に、機器に搭載されたサポートボタンを押せば、エンジニアに接続してすぐにサポートを受けることができる。サポートにおけるお客さまと企業との関係が、劇的に変化することになります。

 もはやヘルプ機能は、アプリケーションや機器などに直接組み込まなくてはならないという流れができています。それによって、お客さまがこれまでにはない形で、ヘルプサービスにアクセスできるようになる。

 これは、AmazonのKindle Fireに搭載された「Mayday」の機能と同じで、しかも、これをISVや顧客が簡単に実装できるようなAPIや、ベストプラクティスをもとにしたテンプレートを、当社は提供することになる。これは、ソーシャル、モバイル、コネクテッド、クラウドといった4つの要素を活用することによって実現するものであり、競合他社にはない環境を提案できます。

 もうひとつは、コンタクトセンターからエンゲージメントセンターへの進化を支援するものになるという点です。エンゲージメントセンターとは、ガートナーが定義したものですが、クラウドベースで運営していること、電話を含めたマルチチャネル対応になっていること、ソーシャルでのコミュニケーションを実現していること、モバイル対応を実現しているといった要素を持ったサポートセンターのことを指します。また、センターの従業員だけでなく、営業部門、マーケティング部門も関与し、あらゆる部門がサポートするという体制もこのなかには含まれています。

 Salesforce 1で提供されるService Cloudは、かつてのサポートセンターの社員だけが対応するというこれまでの枠を超えて、すべての社員がサポートに関与できるようになるという点も見逃せません。

 米大手小売りチェーンのターゲットでは、コンタクトセンターやWebを通じてお客さまをサポートするだけでなく、店頭で赤いシャツを着た30万人の全従業員が、フェイス・トゥ・フェイスでお客さまをサポートできるように、モバイルデバイスを活用。ひとりひとりのお客さまの情報にアクセスして、最適なサポートができるようになっています。

 salesforce.comは、Salesforce 1によってこうしたことを実現できるようになった。エンゲージメントセンターを実現するための要素をすべて兼ね備えているのは、salesforce.comだけであり、非常にユニークなポジションにあるといえます。

――そのほかにも、Salesforce 1によって、サービス環境を大きく変化させた企業はありますか。

 グローバルの事例としては、Hewlett-Packardがサポートの質を大きく変化させました。これは、今までの「製品サポート」といったレベルから「顧客サポート」へと、劇的に進化させた例だといえます。

 Hewlett-Packardでは、70のコールセンターに1万5000人のエージェントを配置し、B2BおよびB2Cに対するプリンタのサポートを行っていました。従来のサポートは、プリンターのシリアル番号を通じてお客さまを見ていた。つまり、ひとつひとつの製品としてお客さまを見ていたともいえます。

 Salesforce 1によって、すべての情報が連携し、Hewlett-Packardとお客さまとの関係を把握し、問い合わせのあった製品だけでなく、ほかにどんな製品を所有しているのか、どんな関係がこれまで構築されているのかということが、全体的にわかるようになり、その上でサポートができるようになった。

 また、かつては、エージェントは複数のシステムにアクセスしなければならず、複雑性があり、1件あたりの対応が長時間化するといった課題もありました。これをひとつのインターフェイスに集約することができ、効率性が上昇し、エージェントは顧客に向かう仕事に集中できるようになった、というメリットが生まれています。

 Salesforce 1は、これまでのお客さまが、すぐに新たな能力を使える環境を提供している点が特徴であり、機能をすぐに拡張することができる。それこそがわれわれのパワーであり、レガシーとの差になります。当社のService Cloudを活用することで、37%もの顧客満足度が上昇したという結果が出ています。ハイテク関連企業、通信関連企業、金融サービスのほか、米国ではヘルスケア業界などにおいても、Service Cloudに対する関心が高まっていますし、激しい競争環境にあり、変革を迫られている小売業界からも注目を集めています。

 さらに政府、官公庁においても、国民との関係を構築し直そうという動きにおいて、Service Cloudに注目しています。

 一方で、日本においても、Service Cloudを活用した最新事例として、ウイングアークテクノロジーズ、中外製薬、損害保険ジャパン、陣屋、ヤンマーといった企業があり、各社がカスタマサービスの質を向上させ、成果をあげています。

Service Cloudには大きな成長を期待

――Salesforce 1の発表から、まだ3カ月強ですが、Service Cloudに関する、これまでの手応えはどうですか。

 私自身、世界中を飛びまわり、以前からのSalesforceのお客さま、今後、お客さまになっていただけそうな方々にお会いしていますが、Salesforce 1 Service Cloudへの反応は、非常に好評であり、強い手応えを感じています。

 このプラットフォームが持つ可能性、アプリケーションの潜在性への期待とともに、自らの企業のサービス組織に対して、どんな効果があるのかということに対して、高い関心が寄せられていることを感じます。

 私自身、カスタマサービスはこれからますます重要性を増していくと考えています。ガートナーの調査では、お客さまとの直接やりとりの3/4がカスタマサービスであるという結果も出ており、企業の顧客接点としての重要性が高まっていることがわかります。

 また、お客さまとのやりとりが、これまで以上に高度になっており、お客さまがソーシャルメディアを駆使していたり、モバイルを前提とした活用であったり、または、アプリケーションを通じたやりとりに終始するというケースも増えています。カスタマへの対応方法が多岐にわたっています。

 こうした環境に対応するには、Salesforce 1 Service Cloudを活用することが最適の解となります。より深い形でお客さまとの関係を構築でき、それができた企業こそが勝者になるといえます。

――Salesforce 1のプラットフォームの上で、今後、Service Cloudはどんな進化を果たしますか。

 サービス分野は、グローバルにみても、大きなビジネス機会がある市場だと考えています。ガートナーの調査でも、この市場は今後、2倍規模に成長するとの予測を出しています。企業とお客さまとの関係が変化するなかで、Service Cloudは、われわれが持つ製品のなかでも大きく成長を遂げることが期待される領域だといえます。

中小規模向けのDesk.comは2014年下期にも国内へ投入

――一方で、salesforce.comには、Desk.comという製品があります。今後、日本での展開は考えていますか。

 salesforce.comは、あらゆる市場セグメントに対して、製品を提供する体制を整えています。そのなかで、Desk.comは中小企業向けの特別なニーズに対応すべく開発されたものです。オールインワン型であり、マルチチャネルに対応したソリューションであり、数日間で中小企業が導入して活用できる製品です。

 これに対して、Service Cloudは成熟度が高い企業を対象にしており、ビジネスプロセスが複雑な企業に適しているものです。スタートアップ間近の企業には、まずはDesk.comを使っていただき、成熟度が増してきたところでService Cloudに移行してもらうという提案も可能です。Desk.comは、2011年9月にsalesforce.comが買収して以降、相乗効果が出ていると考えています。Service Cloudの進化において、Desk.comから学ぶところもありますし、その逆の効果もあります。

 Desk.comはすでに何万社ものお客さまに利用されていますし、今後も成長を遂げる製品であると考えています。日本の市場に関しては、今年下期にも投入する考えです。ぜひ期待していてください。

大河原 克行