インタビュー

Citrixに聞く、Cisco ACIに対応した理由

米Citrix Systems シニアバイスプレジデント エンタープライズ&サービスプロバイダー部門担当ゼネラルマネージャーのスダカール・ラマクリシュナ氏

 Citrixは5月19日、同社のADC(Application Delivery Controller、ロードバランサーの進化形)製品「NetScaler」が、CiscoのSDN技術「ACI(Application Centric Infrastructure)」に対応したと発表した(日本では6月10日発表)。

 ACIは、Cisco独自のネットワーク技術だ。ACIに対応したネットワーク機器は、CiscoでもNexus 9000シリーズスイッチのみであり、Cisco以外ではNetScalerが初となる。

 CitrixがACIに対応する理由は何か。そして、Citrixにとってネットワーク製品やSDNはどういう位置づけにあるのか。Interop Tokyo 2014に来日した米Citrix Systems シニアバイスプレジデント エンタープライズ&サービスプロバイダー部門担当ゼネラルマネージャーのスダカール・ラマクリシュナ氏に話を聞いた。

レイヤ7まで全てに焦点をあてたSDN

――Citrixにとって、SDNとはどのような位置づけにあるものでしょうか?

 従来のSDNは、(OSI参照モデルの)レイヤ1から3に焦点を当てたものでした。それに対して、CitrixにとってのSDNは、レイヤ1から7まですべてにわたるものと考えています。

 Citrixではネットワークを、アプリケーションをユーザーに届けるためのものと考えています。そのためのインテリジェンスがネットワークに必要で、そのための技術としてSDNをとらえています。

――そこにはADCのNetScalerのみが関係するのでしょうか、それともほかの製品も関係してくるのでしょうか?

 NetScalerはフラグシップです。NetScalerはレイヤ4から7をサポートする製品ですが、そのほかの製品も組み合わせてレイヤ1から7の機能を備えるよう進化していきます。さらに、オーケストレーションも必要となり、CloudPlatform(Apache CloudStackベースの製品)などもそこにかかわってくるでしょう。

“アプリケーションを届ける”ためのSDNとCitrixの位置(Interop Tokyo 2014講演より)

Ciscoと共同開発、より使いやすいSDNへ

――NetScalerがCiscoのACIに対応した狙いは?

 ACIの「Application Centric Infrastructure」という名前のとおり、Ciscoは、ネットワークはアプリケーションを配信するものだと考えています。これは、Citrixの考えに非常に近い。だから、対応するのが自然だと考えています。

 そこで、Ciscoとの共同開発により、ACIがGA(製品出荷)となる前から、NetScalerをACIに対応することができました。Ciscoのスイッチがレイヤ1から3を、NetScalerがレイヤ4から7を受け持つことで、ユーザーはより使いやすい環境を手に入れることになるでしょう。

――GAの前での対応ということで急な印象を受けますが、なぜ急いだのでしょうか?

 顧客の要望です。われわれの大手顧客がACIに高い関心を持ち、すでに評価検証を始めています。そこで、われわれも早期に対応しました。

――ACIというのは、ほかの技術でも同じようなことをできるのか、それとも唯一無二のものなのか、どちらでしょうか?

 ACIは既存ソリューションの進化形だと私は考えています。ACIとNetScalerにより、既存ソリューションの性能やセキュリティ、柔軟性などを改善します。

――ACIとNetScalerの組み合わせにより、どのようなことができるようになるのでしょうか?

 企業は現在、スイッチやルーター、ファイアウォール、ロードバランサーなどを、それぞれ別のベンダーから導入していて、それぞれ独立して管理しています。それぞれに設定し、トラブル対応もそれぞれ異なります。NetScalerもそこに含まれます。

 しかし、今後さまざまなレイヤの機器が増えて、さらに複雑になっていきます。それにともなって、管理コストが上がって、エラーも増えてくるでしょう。

 Ciscoのアプローチでは、レイヤ1~7を一つのものとして見られ、アプリケーションのポリシーからネットワークを設定できます。NetScaler単体で設定する必要はありません。

 このように、アプリケーションとネットワークの関係が緊密になります。まさしく「Application Centric Infrastructure」といえます。

CitrixとCiscoの関係(Interop Tokyo 2014講演より)

Ciscoとの連携はSDNだけではない

――ただし、ACIはまだ対応している機器が限られ、Cisco製品でもNexus 9000シリーズのみです。今後、対応機器が増えると考えて対応したのでしょうか?

 CitrixのCiscoへの対応は、ACIだけではありません。以前からより広範囲な関係を築いています。

 例えば、NetScalerの仮想アプライアンスをCiscoが「Cisco NetScaler 1000v」として再販しています。また、Nexus 7000シリーズでRISE(Remote Integrated Support Engine)機能によりNetScalerを組み込めるようになっています。

 そのほか、仮想化プラットフォーム向けサーバー製品のCisco UCSについては、XenDesktopやXenAppが緊密なパートナーシップを組んで、多くの顧客で利用されています。このように、CiscoとCitrixは、製品や共同開発、共同マーケティングなど、さまざまな部分で実績があります。ACIも、こうした長きにわたる関係における、最新のものといえます。

 Citrixという会社は、「ユーザーがアプリケーションにアクセスするのをサポートする」企業です。さらに、場所を問わずにアクセスできるよう、モバイルやクラウドで実現していきます。そのためにはユーザーとアプリケーションとの間にわたるすべてのインフラをとりそろえてベストにする必要があり、ネットワークもその一つと考えています。

高橋 正和