エンタープライズサービス強化は「顔が見えるマイクロソフト」の実現に貢献する

~上流サービス強化にも取り組む日本マイクロソフトの山賀裕二執行役に聞く


日本マイクロソフト 執行役エンタープライズサービスゼネラルマネージャーの山賀裕二氏

 日本マイクロソフト株式会社は、2012年度の重点分野として、「デバイス/コンシューマ」、「クラウド」、「ソリューション」という3つの領域を掲げている。対外的にはWindows Phone 7.5搭載スマートフォンの発売や、日本における事業拡大が急務となっているXbox360などの「デバイス/コンシューマ」への投資が加速しているように見えるが、社内ではクラウド、ソリューションへの投資を引き続き加速している。

 特に、今後のクラウド、ソリューション事業の拡大において欠かすことができないのが、エンタープライズサービスである。常日ごろ、日本マイクロソフトの樋口泰行社長が語る、「顔が見えるマイクロソフト」を実現する上でも重要な役割を果たすのが、エンタープライズサービスである。

 そして、ビジネスコンサルティング部門の強化に積極的に乗り出すと語る。同事業を担当する日本マイクロソフト 執行役エンタープライズサービスゼネラルマネージャーの山賀裕二氏に、同社のエンタープライズサービスへの取り組みを聞いた。

 

3つの役割から構成されるエンタープライズサービス部門

――日本マイクロソフトのエンタープライズサービス部門はどんな体制となっていますか。

エンタープライズサービス部門は、「エンタープライズストラテジー」「コンサルティングサービス」「プレミアサポート」から構成されている

山賀執行役:エンタープライズサービス部門の役割は、企業システムの最適化、構想などを支援する「エンタープライズストラテジー」、計画、設計、構築を支援する「コンサルティングサービス」、導入、運用を支援する「プレミアサポート」で構成しています。

 全世界では、製品、技術のサポート担当者を中心に1万7000人の陣容を持ち、日本では約400人の製品、技術サポート体制を整えています。プレミアサポートをフロントで担当するTAM(テクニカルアカウントマネージャー)や、製品分野ごとにコンサルティングを行うMCS(マイクロソフトコンサルティングサービス)も、このなかに含まれています。

 このほかに、米国本社直結の体制として、各製品分野に対してより深い知識を持つエンジニアリングチームが国内約50人体制でMCSをサポートし、加えて、コールセンターにも約400人体制のテクニカルエンジニアがいます。これらを加えると、全体で800人を超えるエンタープライズサービス体制を日本で構築しています。

――東日本大震災以降、IT投資に対するユーザーの意識が大きく変化していることを感じます。そうした動きに対して、日本マイクロソフトのサービス事業はどんな回答を提供していきますか。

山賀執行役:東日本大震災以降、最も顕著なのが、BCPに対する意識が高まっているという点です。ただ、それを実現するためのユニファイドコミュニケーションであるとか、バックアップの手法をどうするかといった具体的な提案の前に、これを機会に、BCPを体系化していきたい、あるいは、より実効性の高いものにするためにはどうしたらいいのかといった領域に関心が集まっている。

 日本マイクロソフト自身も、BCPを策定してきましたが、今回の体験を通じた実効性やグローバルでの経験をもとに、多くのお客さまとBCPに対して会話を始めています。もともと日本マイクロソフトはパートナービジネスが主体ですから、製品部門も営業部門も、エンドユーザーとの直接的な取引はありません。

 しかし、サービス部門は直接、お客さまと対話をする組織ですから、そこでお互いの知見を情報交換したり、それをベースにコンサルティングの観点からのビジネスが始まったりしている、という段階です。

 

データセンターのロケーションにはこだわらなくなった

――震災以降、クラウド・コンピューティングに対するユーザーの意識変化はどうとらえていますか。

山賀執行役:確かにいくつかの意識変化があります。

 ひとつは、震災前には、日本国内にデータセンターを存在していることを望むユーザーが多かったのですが、震災後には、一部の金融機関や法制上に決められている機関、企業などを除くと、ほとんどといっていいぐらいに、データセンター・ロケーションには、こだわりがなくなりました。

 もうひとつは、震災をきっかけにして、クラウド・コンピューティングを活用して、なにか新たなことをやっていきたいという気運が高まっていることです。例えば、震災直後に、トヨタ自動車と協力して、被災地においてどんなルートが利用可能なのかといった道路情報を提供する仕組みを短期間に構築したり、損保会社との連携によって、被害状況を携帯電話のカメラで撮影して、それをAzureにあげて、担当者が現場に行かなくても状況を確認できるというシステムを構築したりした例がありました。

 新たなことに取り組む場合に、クラウド・コンピューティングを活用すれば、すぐに運用につなげることができるという認識が、実例を通じて高まってきた。クラウド・コンピューティングが新たなビジネスを立ち上げる際に、有効なツールであるという気づきを与えたのではないでしょうか。

 

力を注ぐ理由は“お客さまのために汗をかきたい”から

――日本マイクロソフトが、エンタープライズサービスに力を注ぐ理由はなんですか。

山賀執行役:日本マイクロソフトは、これまでのオンプレミス型製品に加え、クラウド・コンピューティングに関する製品を投入し、ハイブリッドでエンタープライスシステムをサポートしていくことを掲げています。

 これは、ざっくりといえば製品数が2倍に広がっているのと同じです。そうしたこともあり、お客さまのシステムから見えた「部品」を数多く提供している会社であるという認識がさらに強くなっているともいえるでしょう。

 ただ、お客さまのために仕事をする、お役に立つということを考えれば、単に「部品」を提供しているメーカーではなく、困っていることを相談してもらえる会社になっていく必要がある。その信頼関係にまで踏み込むには、エンタープライズサービス事業への取り組みは重点領域だといえます。日本マイクロソフトは、そこで汗をかきたい。そう考えています。

――これまでにもマイクロソフトは、サービス事業の強化に取り組んできましたね。いま取り組んでいるエンタープライズサービス事業の強化はどんな違いがあるのですか。

山賀執行役:10年前からやっているサービス事業の強化は、製品や技術を正しくお伝えするということに主眼が置かれていました。もちろん、メーカーとしてこうした情報を提供していく姿勢はこれからも変わりません。米国の開発部門ともつながっていますから、最新の製品情報、技術情報をお伝えし、お客さまの運用で解決すべきものがあれば、製品、技術の観点からこれをサポートしていきます。技術はメーカーとして核となる部分ですし、責任を果たす部分でもある。

 ただ、その一方で、製品、技術も、使い方を間違えば価値が限定的にとどまってしまう可能性があります。お客さまにとって身近な存在であるパートナー会社との連携に加えて、メーカーとしてより一歩踏み込んだ製品、技術のノウハウを提供するための新たな価値提案を行いたい。例えば、Exchangeを導入する際に、お客さまにとって、その価値はなんなのか、どんな成長を望んでいるのか、といったことまで理解した上で導入を支援していきたい。

 日本マイクロソフトのエンタープライズサービス事業は、企業のIT導入をビジネスの観点からとらえ、最適なITの解を提供するためのコンサルティングを提供していくという、新たな価値提供へと変化してきているともいえます。

 

現実解の実現までを支援する

――これは日本マイクロソフトがビジネスコンサルティングのなかにも踏み込んでいくという理解でいいですか。

山賀執行役:とらえようによってはそうとらえることもできるでしょう。

 ただし、日本マイクロソフトは、コンサルティングファームが行っているような提供方法は行いません。最終製品を持っていることが当社の価値でもありますし、テクノロジーコンサルティングと組み合わせたビジネスコンサルティングを行い、最終的な「解」まで提供するのが、日本マイクロソフトのエンタープライズサービスの価値だといえます。

 現実解の実現までを支援するというのが、われわれの特徴になるといえます。日本法人では、昨年12月から米国本社と議論を開始して、その方向感を決め、ようやく取り組み始めたところです。同じような取り組みは、米国本社のほか、ドイツ、フランスでも始まっています。

――そうなりますと、エンタープライズサービス部門の社員に求められるスキルも自(おの)ずと変化してきますね。

山賀執行役:過去に求めていた社員のスキルセットと、これからの成長のなかで求められるスキルセットとは明らかに違います。現在、エンタープライズサービス部門には約400人の社員がいますが、そのうちビジネスコンサルティング領域での提案スキルを持つ社員は15人程度です。少なく感じるかもしれませんが、ここが主体ではありませんし、この方針を明確に打ち出したのが今年に入ってからと、まだ1年を経過していません。人を育て、人を増員するといったことには慌てずに取り組んでいきます。

 ただ、サービスは「人」次第ですから、形を作るために人を増やすことは考えていません。クオリティの高いサービスを提供することを最優先にして、人を育て、人を採用していきます。ですから、「これだけの陣容にします」という規模感を打ち出すのは的確ではないでしょうね。むしろ、慎重な方向で進めていきますよ。しかし、確実に人数は増やしていきます。

――すで15人体制での成果は出ていますか。

山賀執行役:はい、出ています。

 例えば、Dynamics CRMでは、コンサルティングから入り、ビジネスプロセスの検証を経て、テクノロジーを提供し、実装していくというサイクルが提案しやすい製品でもありますから、コンサルティングまでを含めた案件が増加しています。

 また、ある大手流通業では、グローバル規模で、複数にまたがる事業体を束ねる上でグループ全体としてのITストラテジーを策定する必要があり、製品、技術のサポートの領域を超えた、上流段階でのコンサルティングが求められている。こうした実績も出ています。

 一方で、次期SQL ServerであるDenali(開発コードネーム)によって、ミッションクリティカル領域でSQL Serverをご採用いただくチャンスが増える一方で、情報検索のデータベースではなく、業務処理という領域においても活用していただくことをお勧めしていきたい。その際には、技術コンサルティングだけにとどまらず、かなり深く入り込む必要が出てきます。日本マイクロソフトが持つ新たな価値を提案するチャンスでもあり、お客さまとの距離を一気に縮めることができるチャンスでもある。この点では、お客さまに直結しているパートナーとの協力関係をさらに強めていきながら推進したいですね。

 そのほかにも、Windows Severやユニファイドコミュニケーション、あるいはプライベートクラウドの提案といった点でも大きなチャンスがあります。ただ、15人体制ですから、積極的な拡販していくというものではありません。需要とクオリティのバランスを取りながら、事業を進めていく考えです。

 

エンタープライズサービス事業の売上高を企業向けの20~30%に拡大したい

――エンタープライズサービス事業の売り上げ成長はどの程度を見込んでいますか。

山賀執行役:現在、日本マイクロソフトの企業向け全売上高に占めるエンタープライズサービスの事業規模は10%程度です。これを、早い時期に20~30%に拡大するという、ひとつの目安はあります。

 もちろん、私は、社内的には、売上高、最終利益に対する責任がありますが、最大の狙いは、日本マイクロソフトがIT産業において、サービスで認められる会社になるということです。

 そのためには、お客さまに認めていただく仕事を、ひとつひとつ確実にやっていくというスタンスが大切であると考えています。この姿勢は売上高構成比が30%程度になっても変わらないでしょう。日本マイクロソフトが提供するのは、最初から最後まですべてを任せてほしいという提案ではありません。それは日本マイクロソフトの仕事ではない。

 ただ、ユーザーの経営課題、ビジネス上の課題、IT運用上の課題解決において、お役に立てる部分はまだまだある。クラウド・コンピューティングやユニファイドコミュニケーション、ミッションクリティカル領域においては、製品、技術を単体でお届けするのではなく、さらに上流から入っていくことで、よりお役に立てる場合がある。

 そうした点で実績があがることで、「日本マイクロソフトは変わってきたね」という評価をいただけるとうれしいですね。私が4年前にマイクロソフトに入社した時には、「マイクロソフトは顔が見えないね」という言い方をされてきました。また、「なにをやっているのかわからない会社」だとも言われてきました。これは社長の樋口(=日本マイクロソフトの樋口泰行社長)も常々語ってきたことです。

 しかし、ここにきて、「変わったね」とか、「現場でベタっとやってくれている」(笑)と言われるようになってきた。エンタープライズサービスの強化と変化は、まさに顔が見えるマイクロソフトを具現化する取り組みだと自負しています。エンタープライズサービス部門が、顔の見えるマイクロソフトを実現する原動力となることで、法人営業部門のやり方も、自(おの)ずとお客さまのビジネスに踏み込んだ形へと進化することになる。

 製品単体で提案するだけではなく、課題解決を軸とした提案を全社規模でより加速していくことになるでしょう。

 

重点ポイントは“基本動作”をきちっと身につけること

――エンタープライズサービス部門における今後の取り組みはどうなりますか。

山賀執行役:この1年で、エンタープライズサービスにおけるビジネス構造の改革、ビジネス価値の再定義、それに必要なリソース構造の変革、そして営業手法の変革にも取り組んできましたが、これは一朝一夕でいくものではありません。基本動作をきちっと身につけることが本年度の重点ポイントとなります。製品、技術という限られた世界でのお付き合いにとどまらず、いかにお付き合いの幅を広げていくのかということが重要になります。

 また、プレミアサポートにおいては、壊れたら飛んでいくというリアクティブな部分がありましたが、もっとお客さまのシステムを理解し、お役に立てるところを見つけだし、プロアクティブに提案することが必要です。これも基本動作を身につけるという目標のひとつとなります。

 7月から始まった2012年度においては、エンタープライズサービス部門全体で、約15%の人員増加を図る予定です。人員増加と売り上げ増加を連動させながら、体制を拡大していくことになります。

――日本マイクロソフトでは、2012年度の方針として、コンシューマへの強いコミットを示しています。ここまでエンタープライズサービス部門への投資を加速しているとは考えていませんでした。

山賀執行役:2012年度は、「デバイス/コンシューマ」、「クラウド」、「ソリューション」という3つのテーマを掲げています。

 しかし、社長の樋口は、「ソリューション」という領域において、「パートナーと一緒になってお客さまに価値を届ける部分を強化する」と語る一方で、「日本マイクロソフト自身が、サービス部門の価値を届けるという点で、もっと強化していかなくてはならない部分がある」とも発言しています。

 これがエンタープライズサービス部門の強化ということになります。樋口が常日ごろから語っている、「お客さまにとって、顔が見えるマイクロソフトになりたい」、「日本のお客さまの役に立つマイクロソフトになりたい」、「認めてもらえる会社になりたい」という言葉を具現化する最前線の役割としても、エンタープライズサービス部門の強化は必然です。

 繰り返しになりますが、エンタープライズサービス部門の強化は、日本マイクロソフトが、単に製品を提供する会社にとどまらないということを示す組織であり、新たなビジネスに挑戦するために、ITを活用する企業を、汗をかいてサポートすることにあります。こうした姿勢でエンタープライズサービス事業に取り組んでいることを、ぜひ知ってもらいたいですね。

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