パートナーとともに築く2012年度のソリューションビジネス~日本マイクロソフト

クラウド/インダストリ特化/グローバル化が3つの柱


 7月6日、東京・品川の日本マイクロソフト本社において、同社の2012年度経営方針が樋口泰行社長より発表された。樋口社長は「デバイス/コンシューマ」「クラウド」「ソリューション」の3つを2012年度の注力分野として挙げ、パートナーと連携しながらこれらのビジネスを推進していくと宣言している。

 ここで注目に値するのが3つ目のソリューションである。特にエンタープライズビジネスにおいては、製品単体を販売してそれで終わり、というビジネスモデルはもはや成り立たず、個々の顧客のニーズに最適化されたソリューションの提供が強く求められる。そしてパートナー販売に大きく依存している日本マイクロソフトの場合、パートナーの協力なしでは顧客を満足させるソリューションの提供はあり得ないといっても過言ではない。

 競争が激化する国内エンタープライズ市場において、日本マイクロソフトはソリューションビジネスをどう展開していこうとしているのか。

 7月10日~14日の期間中、米ロサンゼルスで開催されているMicrosoft主催の「World Partner Conference」において、日本マイクロソフト 業務執行役員 エンタープライズパートナー営業統括本部 統括本部長 五十嵐光喜氏に同社の2012年におけるソリューションビジネスの方針を、主に国内パートナーとの連携という面から伺う機会を得た。

 五十嵐氏は、日本マイクロソフトのソリューションビジネスは大きく分けて3つの柱が存在すると語る。その3つとは「クラウド」「インダストリ特化による現場ドライブの推進」「顧客/パートナーのグローバル化支援」。以下、この3つの柱について、それぞれ紹介していきたい

 

フレキシビリティこそが日本マイクロソフトのクラウドの強み

日本マイクロソフト 業務執行役員 エンタープライズパートナー営業統括本部 統括本部長 五十嵐光喜氏

 まずはクラウドについて。五十嵐氏は「Windows Azureをベースにする日本マイクロソフト自身が提供するクラウドサービスと、Exchangeのホスティングなどパートナーが自前のデータセンターで提供するクラウドサービス」、この2つが両輪となって同社のクラウドビジネスをドライブしていくことになると語る。

 日本マイクロソフトの顧客は自社運用(オンプレミス)で環境を構築しているケースが多いが、東日本震災以降、中堅/中小企業を含め、顧客からのクラウドサービスへの問い合わせが大幅に増えているという。「プロが構築したクラウドにデータを預けたい、という要望が強くなってきている」(五十嵐氏)という顧客の声に応えるため、日本マイクロソフトはサーバーライセンスをオンプレミスでもクラウドでも展開できるライセンスモビリティの提供を開始している。

 もちろん、パートナーがホスティングするクラウドサービスでも展開可能だ。オンプレミスとプライベート/パブリッククラウド間での柔軟な運用こそが日本マイクロソフトの競合優位点であるが、ライセンスにもフレキシビリティをもたせ、顧客のクラウド移行を支援していく構えのようだ。

 米国に本社をもつ日本マイクロソフトの場合、日本でのクラウドビジネスを拡大するには、国内にデータセンターをもつパートナーとの協業が必要不可欠になる。昨年のWPC 2010で発表された、富士通によるAzureサービスの提供は世界中のIT関係者を驚かせたが、そこまで大規模でなくとも、国内パートナー各社との独自のクラウド連携を推進していくことは、2012年度の日本マイクロソフトの最大の課題と位置付けていいだろう。この1年、どんな協業や提携が発表されるのかに引き続き注目していきたい。

 

インダストリに特化したエキスパートによる現場のドライブ

 現在、日本マイクロソフトは顧客の業界/業種に特化した専門チームの編成をグローバルレベルで急ピッチに進めている。日本ももちろん例外ではなく、金融、製造、小売り/流通、通信、公共などに分け、専門知識をもった担当者が顧客のサポートや提案に当たる。

 そしてパートナーにもまた、各インダストリに特化したエキスパートが存在する。例えば、金融業界に強いパートナーと金融の知識や経験が豊富な日本マイクロソフトの担当者が一緒に組んで顧客に提案を行うことで、顧客のビジネスをより深く理解したアプローチが可能になると五十嵐氏はいう。「ソリューション構築を行うのであれば、お客さまのビジネスに対する深い理解は不可欠。またスケールしていく内容も業界/業種によって大きく異なる。現場のドライブをスムーズに行いたいのであれば、インダストリ特化は当然の流れ」(五十嵐氏)。

 ソリューションビジネスの強化をうたうのであれば、日本マイクロソフトならではのベストプラクティスの蓄積がどうしても必要となる。ベストプラクティスがあれば、製品導入も迅速に進み、TCOを大幅に抑えることで、顧客の満足度を高めることにもつながる。専門性の高いパートナーと組み、各インダストリに特化した社内のエキスパートを育成することで、「すべてのインダストリソリューションに強い日本マイクロソフト」(五十嵐氏)を目指す。

 

顧客/パートナーのグローバル進出を応援します!

 日本企業はグローバル化の流れから取り残されている、とよくいわれる。だが実際には多くの企業が国外市場への進出を検討している。日本マイクロソフトは日本企業のグローバル進出を支援していく方針を以前から打ち出しており、先の経営方針発表会でも樋口社長みずから「グローバル企業であるMicrosoftのノウハウを多くの日本企業に提供したい」として、積極的に取り組む姿勢を見せている。

 「世界中でビジネスを展開するMicrosoftには、多くのチャネルがある。国/地域を問わず、海外でのビジネスを検討しているお客さまはぜひ相談してほしい」と五十嵐氏は訴える。

 顧客だけでなく、パートナーのグローバル進出も積極的に支援していきたいと五十嵐氏は語る。このWPCにしても、Microsoftとパートナーの関係を深めるだけでなく、パートナーどうしのネットワークを広げていく大きな役割を果たしているという。「WPCは国境を超えてパートナーどうしが知り合える絶好の機会。Microsoftもパートナーも、最終的な目的はお客さまのビジネスを支援するという点で同じ。お客さまが世界に出ようとしているなら、パートナーもまたグローバル化を図っていくのは必然的な流れ。お客さまと同様、海外進出を考えているパートナーに対しても、現地の協力パートナーを紹介したり、インフラ構築のお手伝いをしたり、日本マイクロソフトができることがたくさんある」(五十嵐氏)

 もちろん、“日本マイクロソフト”という社名があらわしているように、同社のビジネスはあくまでも日本国内に主軸を置いている。だが、どこでビジネスを展開するか、ということも重要だが、「海外でもスケールできるような技術力を日本企業がもっている」ということがより重要だと五十嵐氏はいう。世界に評価される力を日本の顧客/パートナーがもっていることを知らしめたい――。これがグローバル化支援で日本マイクロソフトが実現したい本来の目的のようだ。

 

2012年度はクラウドのパートナーリングがカギ

 ここまでを見てきてわかるとおり、上記の3つの柱は、それぞれ別個の目標として存在しているのではなく、相互に深く関係している。裏を返せば、クラウドビジネスを推進するなら、インダストリ特化は必須であり、グローバル化支援も当然というわけだ。だがあえて中心となるソリューション施策を挙げるとするなら、やはりクラウドになるだろう。五十嵐氏も「どの業界/業種のお客さまでもクラウドに興味をもっていないところはない」と断言しており、確実に時代がシフトしていることを感じるという。

 だからこそ、これまで以上にクラウドを世の中に浸透させ、すそ野を広げていくことが日本マイクロソフトの役割だと五十嵐氏はいう。クラウドが普及する一方で、アプリケーションのクラウド提供など、いわゆるSaaSと呼ばれているサービスについては「手間がかかる割にはパッケージソフトに比べて利幅が薄い」として嫌がる企業も多いが、五十嵐氏は「いまはクラウドの用途を広げる時期」として、日本マイクロソフトとしては今後もオファリングを充実させていく姿勢を崩していない。

 「お客さまはこちらが思ってもみなかったクラウドの使い方を希望されることがある」と五十嵐氏。例として、富士通が昨年4月に発表した農業分野向けクラウドサービスを挙げる。営農計画や土壌管理、さらには経営分析や販売管理まで、農業のオールインワンを実現するクラウドサービスの登場に、「クラウドでこんなことができるのかと心底驚いた」という。こういった事例を増やしていくためにも、クラウドの普及をベンダである日本マイクロソフトが怠るわけにはいかないのだ。

 クラウドを中心に、顧客のビジネスを向上させる最適なソリューションを提供していく - 言葉にすれば簡単だが、”顧客に最適なソリューション”を突き詰めれば、顧客の数だけソリューションが存在することになる。そのアプローチはパートナーとの密な連携なくして実現しない。2012年度の日本マイクロソフトはこれまで以上にパートナーとの強い協力関係の構築が求められることになりそうだ。

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