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すべてはソフトウェアで美しく完結できる――。VMwareが目指す”Ready for Any”を実現するクラウドとは
「VMworld 2015」初日基調講演レポート
(2015/9/2 11:54)
8月30日から5日間にわたり米国サンフランシスコで開催されている、VMwareの年次カンファレンス「VMworld 2015」。12回目を迎えた今回の参加者は2万3000人を超え、同イベントの過去最高を記録している。
初日基調講演に登壇したVMwareのCOOであるカール・エッシェンバッハ(Carl Eschenbach)氏は、「サンディエゴで開催された最初のVMworldが1200人だったことを考えると隔世の感がある」とコメントしているが、参加者の数だけではなく、VMwareがフォーカスするビジネスレンジもまた大きく拡大してきた。
仮想化基盤ソフトウェアのvSphereがコアであることに変わりはないが、世界で最も普及しているハイパーバイザをもつ強みを生かし、プライベートクラウドやSoftware-Defined技術の分野でも高いシェアを獲得している。2年前からはパブリッククラウド市場への参入も果たしており、あたかもクラウドにおけるオールマイティーなプレイヤーを狙っているかのようだ。
そのVMwareがここ1、2年、全面的に押し出しているビジョンが“One Cloud, Any Application, Any Device”だ。どんなアプリケーションも、どんなデバイスも、ひとつのクラウドで稼働させる――。ここでいう“ひとつのクラウド”とはオンプレミスのデータセンターやプライベートクラウド、パブリッククラウドなどさまざまなクラウドや仮想環境が統合された状態を指す。それらのベースとなっている仮想化基盤はもちろんvSphereだ。One Cloudというよりはヘテロジニアスな環境をvSphereという共通基盤で統合したUnified Cloudのほうがしっくりくるかもしれない。
8月31日に行われたVMworld 2015の初日基調講演では、このOne Cloudにフォーカスしたいくつかの新発表が行われた。本稿ではその内容をベースに、VMwareが実現しようとするクラウドの世界を検証してみたい。
パブリッククラウド「vCloud Air」の強化
VMwareが強調するOne Cloudは「VMware Unified Hybrid Cloud」と呼ばれており、ユーザー企業のオンプレミス環境とVMwareが提供するパブリッククラウドサービス「VMware vCloud Air」の間で、シームレスかつセキュアにアプリケーションが移動できることをうたっている。これは「いったんクラウドに移行したアプリケーションはオンプレミスに戻すことができない」というユーザー企業の不満に応えた、VMwareならではのハイブリッドクラウドソリューションだ。そして今回、新たにvCloud Airにおいて3つのエンハンスが発表された。
ひとつめは「Enhanced Disaster Recovery」で、すでにvCloud Airで提供されているディザスタリカバリ(DR)サービスに機能拡張を施したものだ。ユーザー企業からの要望が多かったサイトリカバリマネージャ(SRM: vCenter Site Recovery Manager)を“SRM Air”として実装し、オーケストレーションおよび自動化を実現、マルチVMのリカバリが強化されている。また、オンデマンドでのディザスタリカバリのニーズに応えるオプションとして、使った分だけの料金を支払うpay-per-useなサービス「Disaster Recovery OnDemand」もパッケージングに加わった。
2つめはオブジェクトストレージサービスをパブリッククラウド上で提供する「vCloud Air Object Storage」だ。PB(ペタバイト)級のスケールも可能で、バックアップやファイルストレージ、あるいは日々集積するアクセスログやストリームデータなどの非構造化データの格納などに適している。VMwareのあるエグゼクティブはこれを「ビジネスの継続性を担保するソリューション」と位置づけており、スケーラビリティだけでなく可用性や永続性などエンタープライズが求める条件をクリアしていることを強調する。なお、このサービスはパートナー企業2社(GoogleとEMC)のプラットフォームから利用して提供される点も特徴のひとつだ。ユーザー企業はどちらかのプラットフォームを選ぶことができるが、8月31日時点で利用できるのはGoogle Cloud Platformをベースにしたサービスで、EMC ViPRをベースにしたほうは9月中にGAとなる予定だという。
3つめはvCloud Air上のマネージドデータベースサービスとも言うべき「vCloud Air SQL」である。これは完全従量課金制のオンデマンドなデータベースサービスで、他社のサービスでいえば「Amazon RDS」に近い。ただし今回提供されるのはMicrosoft SQL ServerをベースにVMwareがカスタマイズを施したSQLデータベースのみ。VMwareによればオープンソースプロダクトを含むほかのデータベースも検討中だが、ユーザーからのSQL Serverへのニーズが最も大きかったため今回の選択に至ったという。
vMotionにライブマイグレーションをもたらすCross-Cloud vMotion
米国のITベンダはときどき、クラウドのことを“オフプレミス(off-premise)”と呼ぶことがある。オンプレミスが場所(premise)に根付いたシステムなら、オフプレミスはその制約を離れた、文字通りクラウド(雲)の中にある存在だといえる。そしてアプリケーションはvSphereという系であれば、オンとオフの間を自由に行き来できる――。vCloud Airのサービスや機能は今後もこのポリシーに沿って開発が進められる。
だが実際には、たとえvSphereをベースにしているとはいえ、オンプレミスとクラウドのシームレスな接続は技術的にかなりハードルが高い。だが今回の基調講演では、その高いハードルをVMwareが超えつつあることを示すデモが紹介された。異なる環境間のライブマイグレーションを実現する「Cross-Cloud vMotion」がそれだ。
ダウンタイムなしでオンプレミスの環境から、米国バージニア州にあるvCloud Airのデータセンターに稼働中の仮想マシンを移動するデモが行われたとき、1万人近い来場者で埋め尽くされた会場からは大きな歓声が上がっている。操作は通常のWebインターフェイスから行うことが可能だ。
ただし、クラウド間(またはオンプレミスとクラウド間)を接続するネットワークはVMware NSXが実装されていることが条件になる。デモを行ったVMwareのストレージ部門担当バイズプレジデント ヤンビン・リー(Yanbing Li)氏は「この会場にいる皆さんは歴史の瞬間に立ち会っている」と表現していたが、たしかに理想が現実となって目の前にあらわれたような感を覚える。Cross-Cloud vMotionはVMwareのテクノロジプレビューである「Project SkyScraper」のいち機能だが、今後どういったかたちでリリースされるのかに注目したい。
Software-Defined Datacenterを実現するVMware EVO SDDC & VMware Virtual SAN 6.1
VMwareはデータセンターのあらゆるリソースをソフトウェアで制御する“Software-Defined Datacenter(SDDC)”を同社の重要な柱に位置づけており、昨年のVMworld 2014で登場した統合型アプライアンス「VMware EVO:RAIL」はそのポリシーを具現化した製品だともいえる。そしてEVO:RAILと同時に発表された“EVO Rack”――ラックスケールでのSDDCを実現する技術が今回、あらためて「VMware EVO SDDC」という名称に変更されて発表された。ポイントはデータセンターにおけるあらゆるリソースのデプロイ&オペレーションを、ソフトウェアによって大規模(ラックスケール)かつ容易に制御するという点で、そのための統合ソフトウェアスイートとして「VMware EVO SDDC Manager」が2016年にリリースされる。
SDDCに関する大きな発表としてはもうひとつ、Software-Defined Storage(SDS)技術のアップデートが行われている。「VMware Virtual SAN 6.1」がそれで、パフォーマンスと可用性の向上、さらに操作性の改善が図られている。サーバーに比べて仮想化の進みが遅いストレージは、SDDC実現のボトルネックとも言われる。専用ストレージを必要としないVirtual SANは同社におけるハイパーコンバージドインフラの要の技術でもあり、EVO:RAILにも実装されている。すでに2000社以上のユーザー企業に導入されており、技術的にも成熟しつつある段階だが、3度めとなる今回のアップデートにより、SDDC普及へはずみをつけたいところだ。なおVirtual SAN 6.1のリリースは2015年第3四半期が予定されている。
その他、SDDC関連技術ではネットワーク仮想化技術「VMware NSX 6.2」、SDDC上でOSやアプリケーションをモニタリングし、リソースのリバランスを図る「VMware vRealize Operations 6.1」、OpenStack “Kilo”をインテグレートした「VMware Integrated OpenStack 2」といったアップデートが発表されている。
vSphereへのコンテナ統合とクラウドネイティブなPhoton Platform
パブリッククラウドの分野では後発であるVMwareは、AWSなどの先行ベンダが推進してきた“クラウドネイティブ”や“クラウドファースト”といった「はじめにクラウドありき」なアプリケーション開発のトレンドには乗り遅れていた感は否めない。その遅れを挽回(ばんかい)するべく、今回新たに発表したテクノロジプレビューがvSphereにコンテナを統合した「VMware vSphere Integrated Containers」、そして今年4月にリリースしたオープンソースのLinux OS「Photon OS」をベースにした「Photon Platform」だ。
この2つの技術はいずれもDevOpsを意識した、エンタープライズの要件を満たすクラウドネイティブなアプリケーションの開発を“小さく速く”、DevOpsライクに回していくためのプラットフォームであり、別々のプロジェクトというよりは、互いに密接な関係にある。vSphere Integrated ContainersでOSとして採用されているPhoton OSはVMwareがLinuxカーネルを独自にカスタマイズしたもので、当然ながらvSphereとの親和性は高い。VMware内で「Project Fargo」と呼ばれていた、VMのクローンを1秒かからずに簡単に作成する“Instant Clone”機能を実装しており、アプリケーション実行環境をいくつも構築できる。VMクローン作成時にメモリへの負荷はかからない点も特徴のひとつだ。
さらにvSphere Integrated Containersは、従来のようにOSレイヤの上にコンテナを並べるのではなく、ハードウェアレイヤの上にOSまで含めたコンテナ環境をいくつも構築できる点が特徴だ。これはPhoton OSのフットプリントが25MBと非常に軽量であることも影響している。VMwareはこの技術を「jeVM(Just Enough VM)」と呼んでおり、コンテナのデプロイを簡略化するアプローチとして期待される。
Photon Platformはコンピュートホストの「Photon Machine」とホストコントローラの「Photon Controller」で構築され、その上でDockerやCloud Foundryといったアプリケーション実行環境を配置できる。Photon MachineはESXベースのマイクロバイザーとPhoton OSが含まれ、スタッカブルなホストとして存在する。
VMwareはこれまでオープンソースのコミットをほとんどしてこなかった企業だが、クラウドをビジネスの軸に据えている以上、特にパブリッククラウドとの連携を進めるにあたって、オープンソース技術を無視するわけにはいかなくなったという背景がある。コンテナネイティブ技術のリリースやPhoton OSのGitHubでのソースコード公開、さらにはOpenStackのサポートなどは、間違いなく従来のVMwareとは一線を画すアプローチだ。もっともそのアプローチはまだ手探り状態という印象はぬぐえない。開発者がこれらのソリューションをどのように評価するかに注目したい。
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「すべてのリソースはソフトウェアだけで美しく完結させることができる。そしてそれができるのはVMwareだけ」――。Cross-Cloud vMotionのデモを行ったリー氏は、壇上でこう強調した。今回のVMworld 2015のテーマは「Ready for Any」、あえてAnyのあとにDeviceやApplicationといった名詞をおいていない。デバイスであろうとアプリケーションであろうと、Anyのあとにどんな単語がこようとも、VMwareはあらゆるモノとコトを仮想化し、ソフトウェアとして扱う、しかしその制御はあくまで美しく――。これまでは夢物語だった本当にシームレスなクラウドが、少しだけ現実味を増してきたのかもしれない。