「クラウドに必要なコンポーネントがそろってきた」~日本オラクル・遠藤隆雄社長

Oracle Open World San Francisco 2012を総括


 日本オラクルの遠藤隆雄社長は、米カリフォルニア州サンフランシスコのモスコーニ・コンベンションセンターで開催している「Oracle Open World San Francisco 2012」の会場で、日本の報道関係者を対象に会見を行い、「クラウド分野におけるリーダーを本格的に目指すという姿勢が明確になった。Cloud Readyといえる製品が数多く発表され、クラウドに必要なコンポーネントがそろってきた。今後、活用のヒントを含めて、日本のパートナー、お客さまに対して提案していくことになる」などと語った。

 

今後の発展に向けた新サービス・製品を発表

――今回のOracle Open World San Francisco 2012での発表内容をどうとらえているか。

日本オラクルの遠藤隆雄社長

遠藤社長:Oracle Cloudにおいては、これまでのSaaS、PaaSに加え、新たにIaaSを追加し、さらに、Oracle Private Cloudの提供開始を発表し、パブリッククラウド、プライベートクラウドの両面から展開していく姿勢が明確に打ち出された。

 Oracle Private Cloudは開発意向表明の段階ではあるが、これを含めて、クラウド関連製品が相次いで発表され、Cloud Readyの製品が増加したといえる。また、SaaSに関してもFusion Applicationを活用した開発が着々と進み、ユーザーの数も増加してきた。クラウドを活用できる環境が整ってきたことを訴求する内容になっている。

 一方で、Exadataは、2008年に第1世代を発表して以来、4世代目となるExadata X3を発表し、加速的に変化をしていることを示した。今回の進化では大幅な高速化を果たしたが価格は据え置きとし、新たなステージに進んだことを訴えることができただろう。さらに、ソーシャルに関しては、今後のアプリケーションの方向性として、社内の情報だけではなく、社外の情報を活用し、マーケティングや経営戦略などにつなげていくことを示し、それに向けた具体的な姿勢を開発意向表明として明らかにした。

 そして、開発意向表明をしたOracle Database 12cも、画期的なクラウド・レディ型の製品であり、マルチテナント型のデータベース活用が可能になる。これは一部の金融機関からの要求によって開発を行ったもので、データベースが増加し、運用が煩雑である、あるいは資源が少なく苦労しているという状況に対して、横につなげて、ひとつのコンテナで統合し、運用の煩雑さを解消し、マイグレーションを無くすという環境が構築できる。クラウド環境が広がるにつれて、こうした技術は重要になってくるだろう。

――日本オラクルとして、これを日本のパートナー、ユーザーに対してどう伝えていくことになるのか。

遠藤社長:クラウドはあくまでもツールであり、そこを追求していくというよりも、お客さまのイノベーションを加速させるツールがそろったというメッセージが軸になる。迅速に改革を進めたい、あるいは、新たな戦略を立案したいといったように、イノベーティブなことを考えてはいても、実行に移せない、アイデアが出てこないというお客さまに対して、これらのツールを活用して解決を図ってもらいたいと考えている。

 日本の企業の改革や、人材のグローバル化、お客さまに向けたカスタマエクスペリエンスの改善といった点で、クラウドやFusion Applicationを活用し、効果を出してほしい。今回のOracle Open Worldを経て、Oracleはクラウドに対して、さらにフォーカスする体制が整ったといえる。

 クラウドに必要なコンポーネントが強化されてきたというのが、私自身が強く感じたことである。ビッグデータの活用方法、ソーシャルとの連動提案も含めて、ヒントを提案していくことができる。そして、それを支える高速化したハードウェアや分析ツールといったものも発表している。着実にクラウドを加速できる環境を整えていることを示した内容だったのではないか。

 

日本のビジネスで一番早く欲しいのはPaaS

――今回発表された新たな製品、サービスでは、どれが日本において最も早く効果を発揮するのか。

遠藤社長:一番早く欲しいのはPaaSである。特に日本の場合は、SaaSだけでは事業がなかなか進まない。ERPの領域をSaaSだけで提案しても受け入れられない市場性がある。

 PaaSとSaaSをセットにして提案することが、クラウドビジネスを加速することにつながる。これは、私からラリー(=ラリー・エリソンCEO)に提案したことであり、今回のPaaSの新たな製品発表は、日本の市場にとっても大きな意味がある。

 ただ、その一方でローカライズしなければいけない部分も出てくる。パートナーが持っているアセットと、OracleのSaaSとの連携はこれから考えていかなくてはならないだろう。これに関しては、すでに一部のパートナーと話し合いを進めており、ここにパートナーがバリューを見い出してほしいと考えている。

――新たに発表したOracle Private Cloudのビジネスは、どう位置づけられるのか。

遠藤社長:いまでもOracle E-Business Suiteをフルスタック型のオンデマンドサービス(Oracle On Demand)として提供している例があり、それの発展系ともとらえることができる。

 ただ、ここではソフトウェアをライセンス購入していただき、リソースはすべて米オースティンのデータセンターから利用していただいているというスタイル。これをフルサービスモデルとしたのが、今回のプライベートクラウドの展開ともいえるだろう。

 ただ、Oracle Database 12cのようなデータベースが登場すると、資源に対する考え方は大きく変わってくることになる。資源を有効活用しながら、どんな提案ができるのかということが、これから大切になってくるだろう。

――salesforce.comでは、パートナーがビジネスに参入できる障壁が低いが、Oracleの現行のパートナー制度では、新規パートナーが参入する上での敷居が高いのではないか。

遠藤社長:現在のOracleのパートナー制度では、やはりSpecializationを取得していただく必要がある。技術者が何人いて、開発実績がどれぐらいあるのかということがベースにあり、“ただやります”というだけでは受け入れられない。

 クラウドのビジネスについても、基本的には既存のパートナーを中心に展開していくことになる。日本のパートナーの現状を見ると、DatabaseやJavaの技術者が数多くいると考えている。

 

ソーシャル領域でのビジネス拡大に向けて

――Oracle Open World San Francisco 2012におけるクラウドおよびソーシャル関連の基調講演では、数多くのユーザー事例が紹介されていたが、大手企業があまり見られなかった。これはなにか意図があるのか。

遠藤社長:クラウド、ソーシャルの活用事例では、まだ中小企業の方が多いという実態が背景にある。そうした企業での先進事例を紹介していた。Oracleの場合、大手企業にはオンプレミスで導入が進んでいた経緯があり、SaaSに踏み切れていないケースが少なくない。事例発表したなかには、スコットランド最大の銀行であるUBSの事例などもあり、これから徐々にこうした事例が増えていくだろう。

 また、RightNowでは、ソニー・コンピュータエンタテインメント、楽天、富士通、リコー、大和証券というように、日本の大手企業が採用するといった例が出ている。こうした観点からも見てほしい。

――Oracleは、ソーシャル領域において、どんな提案をしていくことになるのか。

遠藤社長:顧客の状況をもっとよく知りたい、これまで捨てていたデータをもっと有効に活用したいというニーズは根強い。特に通信系事業者では数多くの個人情報があり、これらの大量のデータをどう扱うかが課題になっている。

 また、金融機関や流通業でも同様の要望がある。日本においては、ソーシャルネットワークの活用については、「それほど必要ない」という声が多いのも事実だ。顧客のことはよく知っているという声もある。なにができて、どんな効果があるのかというが十分に知られていないのも実態だ。

 例えば、日本の企業が海外進出する際に、ソーシャルネットワークを活用し、市場性やニーズ、安全性などを分析することもできるのではないだろうか。

――IaaSの提案を加速することで、日本オラクルの売り上げの減少につながることはないのか。

遠藤社長:ストック型のビジネスに移行するということだけを考えると一時的に売り上げが減少するという見方は確かにあるだろう。

 しかし、お客さまにとっては、ハードウェアにかかわる初期費用が下がり、結果としてユーザー数を増やすことにつながるともいえる。その点ではあまり気にしていない。

 現時点では、IaaSに関する料金体系が明らかになっていない。日本オラクルとしてもこの事業を展開するのは来年以降になるだろう。クラウド関連の売上高は前年度実績で41億円。ここにはまだRightNowが含まれておらず、これが上乗せされることになる。

 日本にはRightNowの優良顧客が多く、これがクラウド関連の売り上げ拡大にも寄与する。今後2、3年で、100~200億円という売り上げ規模へと拡大させていきたい。ニーズは確実にある。日本オラクルとしてもそこにフォーカスしていく。

 

日本へのデータセンター設置は本社への強い要請で実現

――日本において、データセンターを設置することが明らかになったが。

遠藤社長:現時点では詳細については語ることはできないが、これは、日本オラクルから米国本社に強く要請したものである。

 日本のお客さまからも国内にデータセンターを置いてほしいという強い要望があり、特に日本の時間帯で運用してほしいという声が出ていた。日本オラクルにとっても、国内におけるクラウドビジネスを拡大するための地盤になる。このデータセンターは、自前でやるものではなく、パートナー企業との協業によるものになる。相手があることなので、時期は明確にはできないが、個人的には、なるべく早く開設したいと考えている。

 ただ、将来的には、自前のデータセンターを持つ必要もあるだろう。これはまだ具体的なものではないが、IaaSなどを本格的に展開するようになり、クラウド関連事業の売り上げ規模が、200~300億円規模になった際には、自前のデータセンターを持つ必要が出てくると考えている。そのためには、日本において、クラウドビジネスを着実に成長させていく必要がある。

――Oracle Database 12cは、ひとつのコンテナのなかにデータベースを設置できるようになる。これまで通りのプロセッサごとのライセンスモデルでは、ユーザーにとってはメリットが生まれそうだが。

遠藤社長:それはあるだろう。Exadataをフルに活用できる環境が整うことになる。

 一方で、これによって日本オラクルの売上高が減るのかというとそうでもないだろう。背景にあるのは、それだけデータが増加しているということである。これまでのサーバーを置き換えるといった需要が高まり、そこにExadataを導入すればポテンシャルは大きく高まる。ソフトウェアライセンスだけでなく、ハードウェアを含めたビジネスでとらえる必要がある。

 Oracle Database 12cでも、プロセッサごとのライセンス体系には変化がない。

――Oracle Exadata X3 Database in-memory Machineは、日本のビジネスにおいて、どんな効果が見込まれるか。

遠藤社長:Exadata X3は、さらに高速化が図られているのが大きな特徴だといえるが、日本の市場においては、NEC、富士通の2社によるファーストラインサポートを行う環境ができていることが大きい。

 運用面での不安を口にするユーザーが多かったなかで、この2社が運用を支援するというは大きな意味がある。今後のExadataのドライバになると考えている。NEC、富士通にとっても新たな顧客を獲得し、新たなアプリケーションを提案する際にもプラスになる。

 これは、日本で独自に展開しているものであり、米本社と約1年かけた交渉の末に実現したものである。例外を認めたがらないOracleの文化のなかでも異例である。

 

ミドルウェア市場でのシェア1位は何としてでも達成する

――日本オラクルの業績は今後どうなっていくのか。

遠藤社長:一時期は厳しい状況にあったのは事実であり、ほかの国に抜かれていくという状況もあったが、いまはグローバル成長の平均のところにまできている。

 Oracleでは、14~15%増という2けた成長をしない限り、グローバル平均にはいかない。それを維持しなければ、グローバルでの日本のシェアを落とすことにつながる。好調な要因のひとつはEngineered Systemsであり、日本で注目を集めている。

 もうひとつがミドルウェア市場での成長がある。これまで4位だったシェアが3位に上昇しており、さらに2位を目指している。WebLogicやFusion Middlewareなどのミドルウェアに勢いがつくと、ほかのビジネスにも波及がある。ミドルウェア市場でのナンバーワンシェアは、私がラリーに約束したことなので、なんとしてでも達成する考えである。

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