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モダンなクラウドアプリケーションが日本企業を変えていく~ラリー・エリソン氏

Oracle CloudWorld Tokyo 2015 基調講演

 今回のイベントに来場された方々に、Oracleがクラウドで何ができるかをしっかり見ていただきたい――。4月9日、東京国際フォーラムで開催された「Oracle CloudWorld Tokyo 2015」の開会あいさつにおいて、日本オラクル 取締役 代表執行役社長兼CEO 杉原博茂氏は、約2500人の聴衆を前にこう呼びかけた。

 クラウドビジネスにおける国内でのプレゼンスを高めるため、日本オラクルは現在「VISION 2020 #1 CLOUD」というビジョンを掲げ、全社を挙げてクラウドに取り組んでいる。CloudWorld Tokyoの開催もその一環であり、「2020年までに“クラウドといえばOracle”と言われる存在になりたい」(杉原社長)とクラウドベンダのトップの座を狙う姿勢を明確にしている。2日間に渡って開催される本イベントの来場者数はおよそ2万人、120を超えるセッションを開催し、基調講演には創業者兼CTOのラリー・エリソン(Larry Ellison)氏、CEOのマーク・ハード(Mark Hurd)氏が登壇する。あらためて日本のクラウド市場に対する同社の意気込みの強さを示した形だ。

 AWSやsalesforce.com、Microsoft、IBMといった強力なプレイヤーがひしめくクラウド市場にあって、Oracleは何をもって差別化を図ろうとしているのか。本稿では、9日の基調講演に登壇したエリソン氏のスピーチの内容をもとに、Oracleが日本市場で狙うクラウドのニーズに迫ってみたい。

米Oracle 創業者兼CTOのラリー・エリソン氏

少子高齢化の労働市場に必要なのはモダンなクラウドアプリケーション

「クラウドというと、5~10年前に作られたアプリケーションをAWSのようなIaaSに移すことだと思い込んでいる人は多い。だがそれはもうクラウドとは言いがたい。クラウドが提供すべきは21世紀にふさわしいモダンアプリケーションだ」――。

 エリソン氏のスピーチは、時代に適したクラウドアプリケーションの重要性を強調するところから始まった。10年もたてば世界は何もかも変化する。それは業務アプリケーションの世界も同じだ。アプリケーションに求められる外観も機能も、10年前のそれとはまったく異なる。にもかかわらず、10年前のアプリケーションをクラウドに移行して満足しているだけの企業が少なくないとエリソン氏は指摘する。

ラリー・エリソン氏が強調するオラクルクラウドの優位性

 ここでエリソン氏は「21世紀における重要なアプリケーション」として

・従業員への対応を行う人材管理アプリケーション
・顧客への対応を行うカスタマサービスアプリケーション

の2つを挙げているが、特に日本企業がフォーカスすべきは人材管理アプリケーション(HCM)であると言う。「少子高齢化が進む日本は世界のどの国よりも労働力不足が深刻になる。優秀な人材の確保と効率の良い人材管理は、今後の日本企業にとって最優先の課題となるはず。その解決のために必要なのが、モダンなクラウドアプリケーションだ」(エリソン氏)。

 もっとも人材管理のためのアプリケーションを基幹システム上で動かしている企業は、日本にも少なくない。だがエリソン氏は、「10年前と同じHCMをクラウド上に移行しても意味がない」と再度、アプリケーションの見直しの重要性を強調している。

 その理由として「ソーシャルの登場でコミュニケーションの手段が大きく変わっている。例えば採用に関してもそうだ。10年前にはLinkedInもFacebookもTwitterもなかった。現在であればLinkedInでのチェックを採用プロセスに取り込むのは当然だ。しかし10年前のHCMにはそうした機能は実装されていない」と指摘、時代に適合していないアプリケーションを使うことの非効率性を訴える。

 「現在のHCMは経営層や人事担当者だけではなく、全従業員が使うコミュニケーションツールという前提で作られている。だからインターフェイスもFacebookやTwitterを意識したデザインになっており、SAPのような使いにくさはない。マニュアルすらも必要ない。10年前のHCMアプリとはまったく別物だ」(エリソン氏)。

OracleのHCMがもたらすメリット

 OracleはHCMのクラウドアプリケーションとして「Oracle HCM Cloud」を提供しているが、HCMにかぎらず、Oracleクラウドの特徴は「トランザクションと分析が同一のプラットフォーム上にある」ことだとエリソン氏は述べている。10年前であれば、給与の支払いや休暇申請などを処理するトランザクションシステムと、オファーを出すべき人材の選定や人材獲得に必要な予算額の算出といった分析を行うDWHシステムはまったく別のラインで存在していた。このため、データの受け渡しにタイムラグが生じ、リアルタイムで正確な決定を期待することは難しかったといえる。

 だがモダンなクラウドアプリケーションはそうした壁を取り払い、「トランザクションの直前に分析データを提供する」(エリソン氏)ことを可能にしている。

 「例えば採用担当者が社外のとあるエンジニアにオファーを出そうとする。そのエンジニアが優秀で、獲得に相応のコストがかかる場合、人事にかかわる予算のパラメータを超えてしまうかもしれない。Oracle HCM Cloudであれば、オファーを出す直前に“予算オーバー”というアラートをすぐに出すことができる。これは分析とトランザクションが一体化している、モダンなクラウドアプリケーションだからこそ可能になる」(エリソン氏)。

 加えて、モダンなクラウドアプリケーションの特徴としてエリソン氏が挙げたのが、コンシューマアプリケーションと同レベルの使いやすさ、そしてコストの低減効果だ。クラウドの世界はもともとコンシューマから広がったため、ユーザーはインターフェイスが使いやすいクラウドアプリケーションでなければ納得しない。そしてコンシューマレベルの使いやすいアプリは従業員のトレーニングを必要とせず、バッチやアプリの実装にかかる時間をなくし、結果として運用コストを大幅に減らすことができる。

 「10年前、業務アプリケーションとは1年かけて実装するものだった。ユーザーはもうそんなことに時間をかける必要はない。ITのプロ、クラウドのプロであるわれわれに任せてもらうだけでいいのだから」とエリソン氏。アプリの実装に費やしてきたきた時間とコストを「優秀な人材の確保/獲得に振ってほしい」と日本のユーザーに向かって訴える。

 「10年前、アプリケーションの世界はSAPが圧倒的なトップだった。だがクラウドの時代になり、SAPの存在はまったく目につかなくなった。この変化はわれわれにとってある意味、大きな衝撃だといえる。Oracleはクラウドのためにアプリケーションをゼロから作りなおすという決断をした。だから(SAPと違って)必ず成功する」(エリソン氏)。

「オラクルのクラウドHCMは人材管理のライフサイクルをすべてカバーする」とエリソン氏。従業員にあったトレーニングプログラムの選定なども得意とする
Oracle HCM Ckoudのユニークな機能
国ごとに異なる法律やコンプライアンスにも準拠し、グローバル企業の人材管理も正確かつ迅速に支援する

 ここでエリソン氏は、オラクルクラウドを日本市場にさらに訴求するため、国内にデータセンターを設立することを発表し、「SaaSでは今年中にsalesforce.comを上回る販売量を達成する。PaaSにおいてもJavaやSQLといったリソースをもっている強みを生かし、Oracle Platform Cloudを日本でも積極的に展開する」と強い意気込みを見せている。

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 単なるホスティングをクラウドと呼ばないでほしい――。基調講演の最後、エリソン氏はこう強調している。クラウドとはオンラインでサービスを提供することではなく、モダンなアプリケーション、つまりは“クラウドネイティブ”なアプリケーションを提供するプラットフォームでなければならないという。“10年前のアプリケーション”をホストするだけの環境はクラウドではない、そう何度も繰り返したエリソン氏は、日本のユーザーに何を訴えたかったのか。

 エリソン氏は、Oracleを創業する前から日本に滞在して仕事をした経験をもつ、自他ともに認める親日家だ。そのエリソン氏が「ここ最近の日本の労働市場は、いままで私が見たことがないほど劇的に変化している」と語っている。

 「以前の日本では、一度就職したら転職せずにずっと同じ会社にいることがあたりまえだった。しかしいまは若い起業家も続々と増えており、転職市場も活発になっている。この新しい世代の動きがいままでにないエコシステムを構築し、成熟したエンタープライズにも影響を与えているのがわかる。ものすごい変化の最中に、いま日本はあると思う」(エリソン氏)。

 少子高齢化による社会の変化は年々激しくなってきている。何もかもが10年前と違いつつある現在、人材という企業活動の最も重要なリソースを、10年前のアプリケーションに任せていては、激しい変化の時代を乗り切ることはできない。HCMにかぎらずエリソン氏が繰り返した“モダンなクラウドアプリケーション”とは、日本企業の変化への耐性を強化するための強力な支援ツールであり、ITによる生産性の向上をプロモートする存在だといえる。

 Oracleは、明らかにクラウドでは後発のベンダであり、市場をリードしてきたAWSやsalesforce.comに比べてプレゼンスはかなり低い。それは日本市場においても同様であり、だからこそ本気でシェアを獲得しようとするならオラクルクラウドならではの訴求ポイントが必要になる。

 エリソン氏はその訴求ポイントを、少子高齢化社会を支える“モダンなクラウドアプリケーション”に定め、第1弾として人材管理をモダナイズするクラウドHCMを前面に推してきた。エリソン氏の言うとおり、10年前のアプリケーション移行に熱心な企業が少なくない中、果たしてその戦略はどこまで日本企業の変化を支えることができるのか、今後に注目していきたい。

五味 明子