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クラウド事業者のトップが“生の話”を披露~Cloud Con 2014レポート

 一般社団法人日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)のクラウド部会は12日、カンファレンスイベント「JAIPA CLOUD CONFERENCE 2014(Cloud Con 2014)」を開催した。クラウドやホスティングの事業者各社から集まったメンバー自らの手による、クラウド関連事業者に向けたイベントとなった。

 セキュリティや法的問題といったテーマから、各社若手が自社や業界について語るセッションまで開かれた中から、パネルディスカッション「国産クラウド事業者のトップが語る『2014年のクラウド市場』」の模様をレポートする。

クラウドサービスは黒字なの?

 パネリストとして登壇したのは、株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)プラットフォーム本部 本部長の立久井正和氏、エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社(NTT Com)クラウドサービス部 ホスティングサービス部門 サービスマネジメント担当 担当部長の奥平進氏、GMOクラウド株式会社 代表取締役社長の青山満氏、ニフティ株式会社 クラウド事業部 クラウド事業部長の上野貴也氏の4名。さくらインターネット株式会社 代表取締役社長の田中邦裕氏がモデレータとなり、自身も事業者としての立場から語りながら、各事業者の姿勢から実情までの話題を引き出していた。

パネルディスカッション「国産クラウド事業者のトップが語る『2014年のクラウド市場』」。左から、さくらインターネット 田中邦裕氏(モデレータ)、IIJ 立久井正和氏、NTT Com 奥平進氏、GMOクラウド 青山満氏、ニフティ 上野貴也氏

 パネリスト各社が事業をそれぞれ紹介したあと、モデレータの田中氏は、「クラウドで食えているか」というシビアな質問を投げかけた。1~2年はがんばって続いてもそこから先が続かないのではないか、事業者がやめてしまうリスクが利用側にはあるのではないか、という意図だ。

 各社ともアグレッシブな価格設定をしていることもあり、黒字が出ている事業者から出ていない事業者まで、それぞれにシビアな状況が語られた。IIJ(IIJ GIO)の立久井氏は、IR資料で「黒字化を期待」と書かれていると苦笑しながら告白。売り上げを投資に回していかなければ顧客が離れていくというクラウド事業の大変さを説明しつつ、「われわれのアイデンティティなので、やり続ける」と語った。

 GMOクラウドの青山氏は、粗利では黒字だが楽とはいえない状況を示しつつ、「レンタルサーバーでは各ユーザーが支払うのはほぼ定額料金のみだが、クラウドサービスでは積極的にオプションを追加してくるので、事業として大きくなるだろう」と展望を述べた。

 NTT Com(Cloudn)の奥平氏は、NTT Comの全国のデータセンターから安い所を利用していることや、全社の共同調達で安く調達していることなどの工夫を紹介。さらに、契約書なし、個別対応なしのメニューベース、電話サポートなしの形でコストを下げている様子を「まさに“素うどん”」と説明した。

 ニフティ(ニフティクラウド)の上野氏は、自社のサービスインフラを兼ねているメリットがあること、ISPをやっているのでトラフィック費用が有利なことを挙げて、「損益分岐点は超えている」と語った。

IIJ(IIJ GIO)の立久井 正和氏。「クラウドらしいクラウドだけでなく、企業のニーズにあわせて幅広くサービスを提供していく」
NTT Com(Cloudn)の奥平 進氏。オンラインで契約が完結する点などが同社の事業としてはチャレンジングだという

千差万別な各社の強み

 こうした各社の状況の話から、「自社の強みをどう認識しているか」という話題に発展した。さくらインターネットの田中氏はまず自ら、コンシューマ系のユーザーが多いので、自社開発したものを使ってもらい、そこで鍛えられたものを法人ユーザーに出すことで、自社開発でクオリティを高めてコストを抑えていると説明した。

 IIJの立久井氏は、「ネットワークやデータセンターの技術やインフラ、経験など、これまで積み重ねた上にクラウドができている」と自社の得意分野を語り、さらに法人の顧客基盤を挙げた。NTT Comの奥平氏も、通信キャリアなのでネットワーク転送量を無料とできることや、データセンターなどを持っていることを説明。田中氏がさらに、NTTグループの安心感もあるのではないかとコメントした。

 GMOクラウドの青山氏は、IaaSでの差別化は厳しいためPaaSやSaaSの上位レイヤに広げようと思っていると語った上で、そのためのパートナーを求めてスタッフが身軽に海外に行って交渉していることや、ホームページサービスを営業している延長としてPaaSやSaaSを扱えることを挙げた。田中氏はこれについて、身軽で小口ユーザーが多いため横展開しやすい点が、さくらインターネットと共通しているとコメントした。

 ニフティの上野氏は、先に語ったISP事業があることや社内がユーザーであることに加えて、ISPなので直販営業が少なく、パートナーと競合せず、またパートナーとのつきあいが重要となることを長所として挙げた。

GMOクラウドの青山 満氏。クラウドを含むホスティングサービス事業、セキュリティサービス事業、ソリューションサービス事業が3つの柱
ニフティ(ニフティクラウド)の上野貴也氏。IaaSのサービスをベースに、特化型の機能としてPaaS/MBaaSやSaaSといった上位機能にも展開

プライベートクラウドの立ち位置は?

 クラウド事業者から見たプライベートクラウドの是非についても議論が交わされた。プライベートクラウドをホストするサービスを提供しているという例や、ハイブリッドクラウドのサービスの例、「パブリッククラウドと同じようなものをプライベートクラウドとして作ってもコストメリットはない。仮想化統合して物理サーバーもまじえた環境をプライベートクラウドとするあたりが落としどころでないか」という意見などが語られた。

 補足として田中氏は、「『プライベートクラウドは、送電網が発達する前に、発電機を売っていたようなもの』という意見もあるが、最近はコジェネレーションで発電機を買う企業も増えている。あべのハルカスもコジェネレーションを採用して、関西電力が保守しているのは、ホステッドプライベートクラウドのようなものだ」という比喩(ひゆ)も出した。

 そのほか、グローバル展開や、パートナーシップ、システムのライフサイクルとクラウド、クラウドによるSIのサーバー販売からの分離などのテーマについて、事業者の視点から論じられた。

さくらインターネットの田中邦裕氏(モデレータ)。クラウドやVPSのビジネスが伸びているという

高橋 正和