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「CloudStack Day Japan 2014」開催~クラウドのニーズは構築から運用管理へ

 3月6日に、クラウド基盤ソフトウェア「CloudStack」に関するカンファレンス「CloudStack Day Japan 2014」が開催された。登録者数は約750人。

 開会のあいさつで、CloudStack Day Japan 2014実行委員長の輿水万友美氏は、「CloudStackは、今では世界で2000以上のクラウドを支えるものとなった。さまざまなソリューションとの組み合わせや、企業や学術機関などでの利用など、このイベントではクラウドエコシステムの進化について紹介する」と語った。

 比較されることの多いOpenStackと並べたときに、開発の勢いのあるOpenStackに対し、実採用で先行するCloudStackとしばしば言われる。CloudStack Dayでも、セッションや展示において、さまざまな実利用事例が紹介された。

CloudStack Day Japan 2014
輿水万友美氏(CloudStack Day Japan 2014 実行委員長)

Sheng Liang氏「クラウドのユーザーニーズは構築から運用管理へ」

Citrix Cloud Platform GroupのCTOのSheng Liang氏

 最初の基調講演としては、CitrixのCloud Platform GroupのCTOであり、CloudStackの創設メンバーであるSheng Liang氏が登壇。「CloudStackの最新動向と今後の展望」と題して、CloudStackの過去と現在、これからについて語った。

 Liang氏はまず、2008年にプロジェクトを開始した時期から話を始めた。3人でスタートし、何度も書き直したあと、2010年に納得のいくものとなったのでGPL v3でリリースした。

 やがてCloud.comはCitrixに買収された。「同じビジョンを持っていることがわかり、うれしいことだった」とLiang氏。「よりオープンソースとして推進するためにApacheのインキュベーションプロジェクトへと前に進めてもらった」。そこでインキュベーションのプロセスを学び、インキュベーションを卒業してApacheのトップレベルプロジェクトとなった。

 Liang氏は、Ohlohの調査で、Apacheプロジェクトの中で最も活発なプロジェクトと報告されたことを紹介。さらに、開発コミュニティだけでなく、ユーザーコミュニティの成長も重要だとして、180か国でユーザーや開発者がいるとことを示した。

 さらに、導入側にとって、2011年ごろまでは構築そのものが課題だったが、現在では構築したあとの運用が問題になっていると指摘。「“ほかの技術”では、やりたいことができるが運用が難しすぎる、開発チームと運用チームに多数の人数が必要となる、という声がある」と主張した。同時に、市場の需要が1レベル上がり、規模の経済などのクラウドのメリットを活かすための管理レイヤーの効率性が注目されるようになってきたと説明した。

 ここでLiang氏は、まもなくリリースされるCloudStack 4.3の新機能を紹介した。Hyper-VやVPN、JuniperのContrailなどのパートナーソリューションなどへの対応のほか、「いちばんの注目は管理性だ」とLiang氏は語り、モニタリングや高可用性の機能を紹介。さらに、「クラウドでは、数百から数万のサーバーのアッグレードが発生し、その間にエンドユーザーに影響が出ないようにする必要がある」として、そのためのローリングアップグレードの機能も紹介した。

CloudSackの歴史
世界108か国でCloudStackが利用されているという説明(約半年前のデータ)
クラウドの課題が、構築から運用に、さらにメリットを活かすことへと変化した
CloudStack 4.3の新機能

 これからCloudStackが対応しようとしている分野として、Liang氏は、クラウドに付随するマネージドホスティングやコロケーション、REIT(ハウジング)が年16%ぐらいの成長率をコンスタントに続けているというデータを紹介。「こうしたところでは、従来のCloudStackの範囲を超えて使おうとしている」として、CloudStackを拡張して物理環境のサーバーやスイッチの管理に利用している事例を紹介した。

 ほかにCloudStackで活発に開発されている分野として、仮想ネットワークやSDNの分野をLiang氏は紹介した。特に、数か月後にリリースを予定されているCloudStack 4.4では、ネイティブなSDN対応を予定している。「まだまだ作業中の部分が多いが、楽しみにしている」とLiang氏はコメントした。

 そして、注力分野として強調するのが、運用管理だ。数千~数万の要素からなるクラウドで、障害から安全に回復するresilency(回復力)や、安全に再試行できるidempotency(冪等性)、十分な情報を人間に与えて人の介入を求めるAdmin interventionなどをLiang氏は挙げた。

クラウドに付随するマネージドホスティングやコロケーション、ハウジングの成長がコンスタントに続いているというデータ
CloudStackを物理環境のサーバーやスイッチの管理に利用する事例
CloudStack 4.4で予定されている仮想ネットワーク機能
運用管理で強化したい点。障害時の対応など

 Liang氏は最後に、「インフラからハイパーバイザー、OS、DevOpsまで、クラウドのスタックを下から上まで統合していきたい。それによってクラウドに最適化されたインフラやソフトウェアが登場する」と述べ、「日本の皆さんとともにこの道を進んでいきたい」と会場に呼びかけた。

インフラから運用管理までのレイヤーを統合して、クラウドに最適化したインフラを作る、というビジョン

Chip Childers氏、CloudStackコミュニティの成長の様子を紹介

Apache CloudStackプロジェクトのVice President/CumuLogic社の製品戦略担当Vice PresidentのChip Childers氏

 2つ目の基調講演では、Apache CloudStackプロジェクトのVice Presidentで、CumuLogic社の製品戦略担当Vice PresidentでもあるChip Childers氏が、「Apache CloudStackコミュニティとエコシステム」と題して、CloudStack自体の動向と、自社の事例について紹介した。

 CloudStackの動向としては、まずコントリビューターやコードが増えて、現在1500万行のコードに成長。431年人の労力と4300万ドルの価値に匹敵するという数字を紹介した。

 また、Liang氏と同じく世界中で利用されているという図を引用。そして、アムステルダムで開かれたカンファレンス会場で調べたデータを紹介した。10日間で1800のユニークIPアドレスからダウンロードがあり、またコマンドラインから操作するツールCloudMonkeyが10000以上ダウンロードされており、ダウンロードだけでなく実際に利用されているとわかったという。

 さらに、コミュニティへの参加について、開発コミュニティとユーザー(運用担当者)コミュニティがほぼ同じトレンドで伸びているというグラフを紹介して、「この相関関係がわれわれの強み」と語った。さらに、ユーザーの数が開発者を上回った転換点も示された。

 グローバルでの活動として、各国でのドキュメントやユーザーインターフェイスの翻訳の活動も紹介。「世界のすべての大陸にユーザー会がある中でも、日本CloudStackユーザー会は非常に活発で、世界各国にインスピレーションを与えている」と賛辞を送った。

 実際の利用状況についてChilders氏は、「クラウドが成長しているが、それでも企業のIT支出の一部に過ぎず、昔のシステムも続けなければならないのがビジネスの要請」として、レガシーなハードウェアやネットワークから、LXCのコンテナーまで、さまざまなワークロードをサポートしているのがCloudStackの特徴だと説明した。

CloudStackのコードの成長
開発コミュニティとユーザーコミュニティの成長
ドキュメントやユーザーインターフェイスの翻訳活動
世界各地のコミュニティ
CloudStackの導入企業
CloudStackがさまざまなワークロードに対応するという説明

 Childers氏は、クラウドによりインフラがコモディティ化していく中で、サービスプロバイダーが価値を提供するための方法として4つを挙げた。ディザスタリカバリや高可用性などの上位サービス、複数のクラウドへの対応、パフォーマンスや可用性をユーザーが選べる可用性、業界クラウドなどのコミュニティクラウドだ。

 その上で、自社であるCumuLogic社について紹介した。“AWSスタイル”のエンタープライズ向けクラウドサービスの事業者で、Sun MicrosystemsやCAなどから集まった人が起業。Javaの父であるJames Gosling氏もアドバイザーとして参加しているという。

 CumuLogic社が“AWSスタイル”と呼ぶのは、AWS(Amazon Web Services)のEC2やS3、RDSなどと同様に、各サービスがモジュール化されて提供されている点だ。Childers氏は、「仮想化だけでは不十分」として、クラウドネイティブなワークロードを実現するためにはさまざまな抽象化や構成ツールが必要とされていると語った。

サービスプロバイダーが価値を提供するための4つの方法
「仮想化だけでは不十分」
CumuLogic社の“AWSスタイル”
CumuLogic社のプラットフォーム

アカデミッククラウド独特のCloudStack利用例

北海道大学 情報基盤センター 副センター長の棟朝雅晴氏

 3つ目の基調講演では、CloudStackを採用して学術クラウドをフル稼動させている事例として、北海道大学 情報基盤センター 副センター長の棟朝(むねとも)雅晴氏が登壇。エンタープライズ系やWeb系とも異なる、アカデミック(学術)クラウドならではの利用状況を紹介した。

 アカデミッククラウドの用途は、科学技術計算だ。各研究室で高価なコンピュータを揃えると、予算も調達時間も大変になる。そこで、アカデミッククラウドにより必要に応じてクラスタを作れるようにすることで、研究で出遅れることを防ぎ、「『新しい試み』(研究や教育)をすぐ簡単にできる情報環境を提供する」のが目的だという。

 棟朝氏は、Cloud.com時代のCloudStack 2.0を知って採用し、国内最大級のアカデミッククラウドをサービス開始した。科学技術用途なので、計算性能が必要とされ、全体をあわせると4560コアで43.8TFlopsとスーパーコンピュータクラスの性能を備える。また、HadoopやMahaut、MPI、OpenMPなどビッグデータや並列計算のためのソフトウェアを、ストレージの負荷分散も考慮しつつ短時間でデプロイするための「パッケージ」も用意している。4月からは、「ペタバイト級データサイエンス統合クラウドストレージ」も追加される。

 セッションでは、科学技術計算として燃焼シミュレーションの例や、セキュリティのため大学内のコンピュータが必要なケースとして創薬化学の例、変わった例として人工衛星のデータと漁師の情報とを集約してイカの漁場を予測するシステムの例などが紹介された。

 こうした北大の事例を見た大学や研究機関から相談を受けることも増え、九州大学や北陸先端大学、北見工大、産総研、JSTなどでもCloudStackが採用された。棟朝氏はCloudStackの長所として、ユーザーインターフェイスが使いやすく、また学生でも簡単にインストールできる点を挙げ、「海外の大学ではOpenStackがよく使われているが、開発と運用の両方でコードをさわれる人数を確保できない規模ではCloudStackが適している」と感想を述べた。

 こうした活動の延長として、棟朝氏は文部科学省の委託事業として「アカデミッククラウド環境構築に係るシステム研究」の調査にも携わり、科学研究費補助金を取得している研究者全員を対象としてアンケートをとって要求仕様をまとめた。

北海道大学アカデミッククラウドの概要
ビッグデータのソフトウェアを短時間でデプロイするためのパッケージ
ペタバイト級データサイエンス統合クラウドストレージ。4月からサービス開始予定
燃焼シミュレーションでの利用例
創薬での利用例
漁場予測での利用例

 最後に棟朝氏は、これからやりたいこととして「アカデミックインタークラウドの実現」を挙げた。各大学のアカデミッククラウドや、場合によってはパブリッククラウドをつなぎ、実験機器や人材などを含めて連携するという構想だ。これによって、スーパーコンピュータを含めたすべての情報資源やデバイス、データをエコシステムとして統合し、オンデマンドサービスによる研究スピードや、研究者の交流、ビッグデータの活用を目指すと棟朝氏は語った。

アカデミックインタークラウドの構想
スーパーコンピュータとインタークラウドを統合した計算

Chefで「マイグレーションよりオートメーション」

Chef社Enterprise ArchitectのMichael Ducy氏

 特別講演として、「CloudStackのネットワークアーキテクチャとSDN対応について」「Chefで実現するクラウド間マイグレーション」の2つのセッションが、同じ時間に開かれた。

 後者のセッションでは、Chef社のEnterprise ArchitectであるMichael Ducy氏が、プライベートクラウドとパブリッククラウドでの仮想マシンのマイグレーションに代わるものとして、構成管理ツール「Chef」を位置づけてみせた。

 Ducy氏は、仮想環境において、“黄金のマスターイメージ”があればそこからすべてのワークロードを作れるという考えがあることを提示した。これを、プライベートクラウドとパブリッククラウドを結んだハイブリッドクラウドにあてはめて、「中央にある“魔法のビット”というのは、ユニコーンのように架空の存在だ」とユーモラスに主張した。

 氏は問題として、仮想マシンイメージの転送は重く、また各仮想マシンの管理は残るため、伸縮自在に使えるクラウドのメリットが活かせないと主張。そこで、仮想マシンを送るかわりに、Chefなどの構成管理ツールで自動化(オートメーション)しておき、コンフィグだけを送ることで、データ転送サイズが小さくなり、同じコンフィグを何度でも使えるようになると論じた。

 また、「Infrastructure as Code」というコンセプトを紹介。インフラをプログラムのように定義することで、デプロイの前に検証できるため開発時間を節約できることや、バージョン管理システムなどソフトウェア開発のライフサイクルを活用できること、コンフィグを同じクラウド上や異なるプラットフォーム上で何度でも再利用ができることを利点として挙げた。

 さらに必要になることとして、ツールから利用するためのAPIベースの自動化や、何万ものサーバーに耐えうるスケーラビリティ、宣言型DSLによるプログラミングと通常のプログラムとを両立できることをDucy氏は挙げた。

 なお、質疑応答において最後の点について質問されたDucy氏は、「導入して最初に厳密に定義する習慣を付けるには、宣言的DSLが必要となる。しかしそれは自転車の補助輪のようなもので、成長したら自由な記述も必要になる、という意味だ」と答えた。また、「料理のシェフのように、食べたものからレシピを作るような機能の計画は」と聞かれると、「実は多くの人から要望を受けている。いまはないが、検討中だ」と答えた。

「パブリッククラウドとプライベートクラウドの間で仮想マシンをマイグレートする“魔法のビット”は、ユニコーンのような架空の存在」という主張
マイグレーションのかわりにオートメーション(自動化)して、コンフィグを送る、というモデル
「Infrastructure as Code」によるテスト駆動開発
コンフィグの再利用性
課題

個別セッションやブース展示も開催

 そのほか、各企業による個別セッションやブース展示も行なわれた。

展示ブースの様子

高橋 正和