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「SDNはネットワーキングの革命だ」〜国内初の専門イベント「SDN Japan」レポート

事業者側・ユーザー側双方のパネルディスカッションも

 SDN(Software Defined Networking)に関するイベント「SDN Japan 2012」が、12月6日・7日の2日間にわたって開催されている。SDN専門のイベントは国内で初めて。総務省と経済産業省が後援となり、スポンサーとしてネットワーク機器ベンダーや通信事業などが名を連ねている。

ONFが2013年に取り組む7分野

ONFのダン・ピット氏

 6日の基調講演では、Open Networking Foundation(ONF)エグゼクティブディレクターのダン・ピット氏が「SDN, OpenFlow&ONF: Looking forward to 2013」と題して、SDNやOpenFlow、ONFについて語った。

 ピット氏はまず、SDNが推進されている背景として、モバイルコンピューティングやクラウドコンピューティング、オンデマンドサービスと、それによる大量のデータのトラフィックを挙げた。そして、既存のネットワークはベンダーに依存したプロプライエタリで一枚岩のシステムで、「メインフレームのようなもの」と表現。それに対してSDNはオープンな分散システムで「ネットワーキングの革命」だと主張した。

 また、SDNの原則として、抽象化(コントロールプレーンの分離など)、プログラミング可能、集中管理の3つを提示。さらに「OpenFlowはSDNの命令セット」としてOpenFlowの基本構造を紹介。「コントロールプレーンがSPOF(単一障害点)になるのでは、とよく言われるが、分散できる」とも語った。

 その上でピット氏は、日本通運の事例を紹介した。日本通運では物流システムのためのプライベートクラウドを構築するにあたり、OpenFlow対応のスイッチとコントローラであるNEC「UNIVERGE Programmable Flowシリーズ」を導入。スペースを70%削減、電力を80%削減、アウトソーシングを0に削減、障害復旧時間を98&削減したという。

 続いてピット氏は、2012年のONFについて、会員が68%増、OpenFlow 1.3とOpenFlow-Config 1.0/1.1の2つの新規格をリリース、などの点を報告した。

 さらに、2013年にONFが活動する分野として、セキュリティ、OAM(Operation Administration and Maintenance)、テストラボ、光ネットワーク、ハードウェアアクセラレーション、従来のネットワークからの移行、Northbound API(アプリケーションからコントロールプレーンを制御するAPI)の7つを挙げた。このうち、Northbound APIについては、「用途によるので、標準化より、用途別のカタログのほうが向いている」と語った。

 最後にピット氏は、ONFの組織や文化、参加企業を紹介し、日本企業に向けて「Join us」と呼びかけた。

プライベートクラウドにOpenFlowを導入した日本通運の事例
2012年のONFの活動
2013年のONFの活動分野
ONFの組織や文化
ONFの参加企業

通信事業者が使うOpenFlowの要件

NTT Com 取締役の伊藤幸夫氏

 2つ目の基調講演としては、NTTコミュニケーションズ株式会社(NTT Com) 取締役 伊藤幸夫氏が、「OpenFlow/SDNに対する通信事業者としての期待」と題し、通信事業者から見た期待や取り組み、課題などを語った。なお、NTTコミュニケーションズはONFのボード(理事会)メンバーであり、企業向けクラウドサービス「BizホスティングEnterprise Cloud」でOpenFlowを利用している。

 伊藤氏はまず、現在の通信事業者ネットワークの課題として、サービス開発のスピードへの追従がネットワークに求められてきていること、ハードウェア製品に縛られた開発、ネットワークの肥大化によるオペレーションの増加、自動化を挙げた。サービスをマネージドな形で使いやすく提供しようとすると、装置にまで個別の変更が入り、手間とコストがかかるという。これらへの対応への期待としてSDNやOpenFlowを語った。

 その上で、現実のSDNやOpenFlowについてNTT Comから見た課題を挙げた。具体的には、OpenFlowスイッチ製品が実際にはメーカーの動向に依存し、OpenFlow 1.0仕様のものが多く利用できない最新の機能があること、パケット転送性能への不安とハードウェアアクセラレーション、ユーザー企業とデータセンターをつなぐWANへの展開とそのための技術課題の洗い出し、保守機能(OAM)や障害の切り分けなどが語られた。

 さらに、NTT Comでの実験的な取り組みとして、Interop Tokyo 2012で発表した「BGP Free Edge」を解説した。IP-VPNのコアでOpenFlowを使い、OpenFlowコントローラ(RYU)でエッジのBGPプロトコル処理を集中制御するという。現在、フィールドトライアルの準備中。

 伊藤氏は最後に、今後のネットワークとして、DNによる柔軟なネットワークサービスを、次世代PTN(パケット転送ネットワーク)やOXC(光クロスコネクト)による大容量バックボーンに連動させ、リソースの仮想化によりネットワークの構成を気にしなくてよくするというモデルを語って、話を締めくくった。

NTTコミュニケーションズのOpenFlow/SDNへの期待
現実のOpenFlow/SDNでのハードウェアとソフトウェアの課題
OpenFlow/SDNのWAN展開での課題
OpenFlow/SDNでのOAMの必要性
IP-VPNでOpenFlowを使った「BGP Free Edge」の実験
NTTコミュニケーションズが考える今後のバックボーンネットワークの方向性

「SDNは“networking”を定義する」

 6日には、SDNビジネス側とSDN利用側から見たパネルディスカッションもそれぞれ開かれた。

 前者の「SDNの未来と可能性」と題したパネルディスカッションでは、浅羽登志也氏(ストラトスフィア)、加納敏行氏(NEC)、坂田義和(日商エレクトロニクス)、佐藤陽一氏(NTTコミュニケーションズ)をパネリストとし、加藤隆哉氏(ミドクラ)をモデレータとして、SDNの意義について議論がなされた。

 まず、「SDN」「OpenFlow」「ネットワーク仮想化」の3つの単語の関係について、浅羽氏は、1つの物理ネットワークの上で多数の論理的なネットワークを独立させるのがネットワーク仮想化、それをどうやって作るかの技術がSDN、それを設定するプロトコルがOpenFlow、と位置づけた。また、佐藤氏は、VLAN(Virtual LAN)のようにネットワーク仮想化は昔からあるが、それを整理するのがSDN、その手段がOpenFlowだとした。

 一方、加納氏は、SDNは「network」ではなく「networking」であるとして、単なるネットワークの構造を定義するだけではなく、それで接続されるコンピューティングや流れるトラフィック、それによって何をするかまで含んだ概念だと主張した。坂田氏はそれを受けて、その自動化をするツールがOpenFlowだとした。

 また、今SDNが注目されている理由としては、サーバーやストレージの仮想化が先に進んでいること、オペレーションで見るとサーバーやストレージのフロントエンドにネットワークがあることなどがベースとして語られた。さらに、今までのネットワーク業界は専門家だけのものだったが、SDNによってさまざまな背景の人が参加し、設計や最適化などの専門家も出現する可能性があり、新しい機会が出現することを期待されているという意見も出た。そして、実例としてGoogleなどのユーザー側企業の取り組みが挙げられた。

 さらに、インフラの仮想化と自動化のモデルとしてAmazon(AWS)が挙げられた。それに対し浅羽氏は、構造として肯定しつつ、垂直統合型ではなく、インフラとサービスの中間の仕組みやAPIを事業者間で共通化してインフラをまたいだサービスが必要だと論じ、「インターネットはもともとそういうもので、水平型に戻していきたい」と語った。

パネリスト。左から、浅羽登志也氏(ストラトスフィア)、加納敏行氏(NEC)、坂田義和(日商エレクトロニクス)、佐藤陽一氏(NTTコミュニケーションズ)
モデレータの加藤隆哉氏(ミドクラ)
「ネットワーク仮想化」「SDN」「OpenFlow」の関係(浅羽氏)
SDNによりさまざまなプレイヤーが出現する可能性(加納氏)
SDNによる新規参入の可能性(佐藤氏)
クラウドの形態の変化(浅羽氏)

SDNの期待と課題を導入する側が語る

 利用側のパネルディスカッションとしては、「買い手から見たSDNへの期待と課題」と題し、伊勢幸一氏(データホテル)、井上一清氏(IDCフロンティア)、岩崎磨氏(楽天)、大久保修一氏(さくらインターネット)をパネリストとし、土屋太二氏(NECビッグローブ)をモデレータとして議論がなされた。

 伊勢氏は、オープンクラウド実証実験タスクフォース(OCDET)での活動の経験から、離れた拠点間でOpenStackとCloudStackをつなぐのにSDN的なものが必要だが、それらクラウドコントローラとSDNを連携させるフェデレーション(オーケストレーション)の仕組みが必要になると解説した。

 さらに、「それはVMwareのようなシングルベンダーではないとできないのではないか」と疑問を投げかけ、「運用したことのない者に運用ツールは書けない」「プログラムを書けるネットワークエンジニアは少ない」「ネットワーク運用のわかるプログラマーも少ない」というジレンマを説明。「誰が書くのか」を課題として提示した。

 井上氏は、データセンターとクラウドサービスの事業者として、まずネットワーク仮想化への期待として、VLANよりスケールすること、ユーザーが柔軟にネットワークを設定できること、複数データセンターをロケーションを問わずに利用できることを語った。その上で、今のSDNでできることとして、手間をかけて作り込めば自由なL2/L3ネットワークを作れること、数千〜数万VM程度への拡張、物理的な制約を超えることを挙げ、それに対してできないこととして、数万VM以上への拡張、物理ネットワーク側での対応も必要になること、オーバーヘッドの懸念、非SDN機器との接続を挙げた。さらに、各SDNベンダー間の協調と標準化によりクラウド間で相互接続した「巨大仮想ネットワーク」への期待も語った。

 岩崎氏は、楽天のショッピングモールのインフラを紹介した。現在、自社開発のプライベートクラウド基盤にサービスを移行中で、圧倒的なトラフィックが発生する「楽天スーパーSALE」もこれで乗り切ったという。このプライベートクラウドでの課題として、データセンターの拡張でサーバーを移行するときにサーバーとネットワークの仮想化度の違いを感じたこと、DRやBCPなどに向けて自由なネットワーク構築がしたいこと、サービスごとにセグメントを細分化していてリソースの利用度に偏りがあることが挙げられた。

 そして、SDNについて、自由なL2ネットワークへの期待とともに、ECサイトを止めない安定稼働とそのための実績やベンダーサポート、構築・運用工数を考えるとコストが高くなる懸念、安心して採用するための標準化などの課題を語った。

 大久保氏は、さくらインターネットの取り組みとして、VLANベースでID変換などを使って工夫してやってきたことや、それを使って専用サーバーとクラウドサービスをL2でつなぐ「ハイブリッド接続サービス」、さらにクラウドサービスでユーザーがネットワーク構成を作れることをなどを紹介した。

 また、SDNの課題として、コントロープレーン用のネットワークやライセンス料などによりコストは下がらないこと、コントローラにバグがあって異なるユーザーのネットワークがつながってはいけないという課題、企業買収も多く製品を安心して導入しづらいことなどを挙げた。その上で、「今までやってきたむちゃなネットワーク実装をよりよくする手法」としてのSDNへの期待を語った。

 モデレータの土屋氏も自社でのSDNの導入事例を紹介した。既存のネットワークの上にVXLANを通し、各PODのゲートウェイのOpen vSwitchでVLANに変換する。それをTREMAによるOpenFlowコントローラで制御し、コントローラをクラウドコントローラから制御する。このネットワークを自社開発したという。

 この開発でよかったことは、ベンダーのロードマップを待たずに自分たちで実現できることと、メンバーのスキルがレベルアップしたこと、苦労した点としては品質管理も自己責任になることと、人件費を考えると開発コストがかかったことなどが挙げられた。

パネリスト。左から、伊勢幸一氏(データホテル)、井上一清氏(IDCフロンティア)、岩崎磨氏(楽天)、大久保修一氏(さくらインターネット)
モデレータの土屋太二氏(NECビッグローブ)
クラウドコントローラとSDNを連携させるフェデレーション(オーケストレーション)の必要性(伊勢氏)
今のSDNでできないこと(井上氏)
自由は魅力だが安定稼働が大前提(岩崎氏)
今までやってきたむちゃな実装をよりよくする手法(大久保氏)
BIGLOBEで自社開発したSDN(土屋氏)

【お詫びと訂正】
初出時、岩崎磨氏のお名前を誤って記載しておりました。お詫びして訂正いたします。

(高橋 正和)