Jobs氏の病気休養、Appleの今後に関心集まる
Appleは、Steve Jobs氏が病気療養のために休職すると発表した。Jobs氏はすい臓がんを患ったことがあり、これまでも健康面での不安が取りざたされてきた。だが、今回の発表はとくに事前の情報もなく突然のことだったため、業界は驚きをもって受け止めている。そして改めてクローズアップされているのが“ポストJobs”のAppleだ。
■Jobs氏不在が長引く可能性を指摘する声も
Jobs氏は2004年にすい臓がんと診断され、摘出手術を受けた。その後、2009年に再び治療に専念するため、6カ月間休職した。この間、同氏は肝臓移植手術を受け、復帰を果たした。病気療養のための休職は今回で3度目となる。
1月17日に公開されたJobs氏の従業員あて電子メールでは、休養中もCEOとして主要な戦略的決定に関与するが、日々のオペレーションはCOOのTim Cook氏に一任すると説明している。メールの中でJobs氏は「Appleをとても愛しており、できるだけ早く復帰したいと願っている」と記している。
具体的な病状や復帰時期には触れていないが、メディアにはJobs氏不在が長引く可能性を指摘する声も出ている。Business Insider編集長のHenry Blodget氏は、Jobs氏のメッセージが「すぐ会社に戻れると思っている人間が、ちょっとの間仕事を離れるという言葉には思えない」と述べている。
■最高益決算で株価は病気療養発表前の水準に
市場はどう見たのだろう。祝日の17日から明けた18日の米国市場が開くや、Apple株は6%下落し、最終的には2.2%安で引けた。しかし、この日市場が閉まった後に発表された2010年10-12月期決算は、売上高267億ドル、純利益60億ドルで過去最高を更新。株価もほぼJobs氏の病気療養発表前の水準に戻した。
だが、決算報道がひと段落すると、改めてJobs氏不在のAppleへの懸念が頭をもたげている。
ハイテク業界で、Steve Jobsほど会社の名前と一体化した存在はないだろう。Appleの株価はこの2年間で4倍近くに上昇しており、2010年にMicrosoftを超えてハイテク業界でトップとなった。この間、Appleは「iPhone」の最新機種を発表し、「iPad」をローンチした。これらの成功はJobs氏の功績といってよい。そのJobs氏が休養するとAppleはどうなるのか?
■メディアはポストJobs氏を見越した分析で、Cook氏を高評価
今回が3度目の病気療養であり、復帰時期もはっきりしていないことから、メディアでは、ポストJobs氏を見越した分析が目立つ。そして、ほとんどがCEO職を代行するCook氏の能力を高く評価しており、少なくとも短期的には問題ないという見方で一致している。Cook氏は13年前にAppleに入社。前回もJobs氏の代行を務め、Jobs氏からも厚い信頼を得ているという。
たとえばMercury Newsのコラムニスト、Chris O'Brien氏は、以前Cook氏がJobs氏の代理を務めた際の実績を評価し、「短期的(3~4年)には、不在によりAppleが失速することはないだろう」とする。New York Timesは「Appleが(Jobs氏に加えて)リーダーシップを必要としているのなら、Cook氏がその役を果たす」というアナリストのコメントを伝えている。Cook氏は何回も業績発表のカンファレンスコールをこなしており、現在すでにJobs氏と共に製品を詳細にチェックしビジネス上の最終判断にかかわっているという。また、San Francisco Chronicleは、Cook氏が、MotorolaやDellからトップの座をオファーされたという話を紹介している。
■存在の大きさが改めてクローズアップされる
だが、長期となるとどうだろうか? Appleは比較的長期の製品計画を持っているとされるが、Jobs氏が敷いた計画のさらに先のビジョンを、Cook氏は(あるいは、Appleは)描けるのだろうか?
New York Timesは、ハーバード・ビジネス・スクールのDavid B. Yoffie教授らの見解として、Jobs氏の創造性、製品デザインと機能へのこだわり、マネジメントスタイル、自身の個性のプッシュは並外れたもので、「さまざまなスキルをもった人が何人も集まって、やっとJobs氏の後を継ぐことができる」と分析。Cook氏の脇を固めるチームとして、マーケティングトップのPhilip Schiller氏、デザイン担当のJonathan Ive氏、「iOS」などソフトウェアを取り仕切るScott Forstall氏を挙げている。
またPiper Jaffrayのアナリスト、Gene Munster氏は同紙に「(iPadのような)まったく新しい製品を打ち出すことができるのか」「Jobs氏のインスピレーションはリプレースできない」などが問題になると指摘している。MercuryのO'Brien氏も同じ考えで、「次の10年間にAppleを引っ張る大ヒット製品がなにか、想像するのは難しい」、ここがポストJobsのAppleの現時点での大きなポイントになるとしている。
New York Timesがもう1つ、「リプレースできない」とするのがビジネス交渉力だ。The Beatlesの楽曲を「iTunes」で取り扱えるようにしたことなど、Jobs氏ならではの功績を挙げている。
悲観的ではないが冷静に企業とリーダーの歴史を振り返ったBusiness Weekは、DellのMichael Dell氏、オンライン証券Charles SchwabのCharles Schwab氏など、1度は後継者にトップを譲った創業者が、建て直しのために舞い戻った例を挙げる。そして、Jobs氏/Cook氏のパターンがどうなるのかは様子見とする。「なにが起こるにせよ、Jobs氏の精神はAppleに残るだろう。そして本当に必要に迫られれば、AppleはJobs氏抜きでも続くのだ」と結論づけている。
それにしても、Jobs氏の休職は、同氏の経営者としての突出した能力を改めてクローズアップした。南カリフォルニア大のWarren Bennis教授は、Jobs氏は「製品とブランドの両方をカバーする全体的なイノベーター」で21世紀型のリーダーであるとBusiness Weekにコメントしている。Bloombergはアナリストのコメントとして「唯一無二」「小さくニッチな市場を見抜き、大きなビジネスにするにはどうすればよいのかを理解できる魔法の力を持つ」などの評価を紹介している。
こうした“Jobsコール”にJobs氏本人は、ご満悦だろうか、それとも苦笑いしているのだろうか。