ネットブックを狙うWindows 7-モバイルLinuxキラーになるか?



 Microsoftが次期OS「Windows 7」についての情報を公開し始めた。Windows Vistaでは期待したほどの評価は得られず、GoogleをはじめとするWebベースのサービスもますます勢いを増し、OSそのものの重要度は以前よりも下がってきている。Windows 7はそんななかで登場することになる。そして、その展開で焦点の一つとなりそうなのが、今流行のネットブックだ。


 Microsoftは10月28日、開発者向けイベント「Professional Developers Conference(PDC) 2008」の基調講演でWindows 7を初めて公式に披露した。壇上に立ったWindows&Windows Liveエンジニアリング担当上級副社長のSteven Sinofsky氏は、パーソナライズ、接続性などのキーワードから最新OSを紹介。タスクバー、タッチ対応などの新機能をデモした。

 Windows 7の大きな特徴の一つに、「高速」と「軽量」がある。Sinofsky氏によると、起動時間、デバイスへの対応、高速な反応などで大きく改良を加えているという。デモでは、“現在愛用しているPC”としてLenovo製のネットブックを取り出してWindows 7を動かし、その軽量さをアピールした。

 モバイルパソコン専門サイトLaptop Mag.comのJoanna Stern氏のレポートは、こうしたWindows 7の“軽さ”を裏付けている。Stern氏はPDCで配布されたWindows 7プレベータ版を、早速1.6GHzのAtom、1GのRAMを搭載した自分の「Eee PC 1000H」にインストールしてテストを行い、快適に動かすことができたという。起動時間は58秒で、現在のWindows XPと同等(デフォルト状態では40秒だった)という。また、アプリケーションを起動させていないときのメモリ使用量は485MB、ネットワークへの接続もVistaよりスムーズで、モバイルには便利そうだと評価している。


 ネットブックは、パフォーマンスでは従来のノートパソコンには及ばないものの、ネット閲覧やメールには十分な性能を持ち、圧倒的に低価格なことなどが人気で急成長中の分野だ。いまやPC市場全体のけん引役となっている。

 ブームの火付け役となったASUSTeK ComputerのEee PCが最初にLinuxを採用したこともあってLinuxが先行した。しかし、その後、ネットブック向けの安価なライセンスが設定されたことなどから、Windows XP Homeが激しく追い上げている。また、この市場ではVistaの存在感はほとんどなく、Microsoftは、Windows 7の方をXPを継ぐOSと位置づけているようである。

 そしてWindows 7のお披露目でネットブックを使ったことは、Microsoftの本気度を示すものだと考えられる。翌週に開催されたハードウェア向けカンファレンス「Windows Hardware Engineering Conference(WinHEC) 2008」でも、メーカー各社のWindows 7搭載ネットブックが並んでいた、と複数のメディアが伝えている。


 こうしたMicrosoftのネットブック戦略に対して、IT系メディアは好意的なようだ。

 Computer Worldでブログを執筆するPreston Gralla氏は「Windows 7は、Linuxキラー?」というタイトルで、ネットブック市場でシェアを伸ばしつつあるLinuxを、Windows 7が阻止するという予想を述べている。

 Gralla氏は、Stern氏のレビューを引用しながら、「MicrosoftはWindows 7をネットブック市場にプッシュする」と予想。さらに、ネットブック市場では今年7月現在でWindows XP搭載機の売り上げがすでにLinux搭載機を上回っているというディストリビューターのコメントなどを引用し、Microsoftの優勢を明らかにした。

 これに対し、Linux派の読者からは反論のコメントも寄せられている。たとえば、「Linuxはきちんと動く。Linuxに慣れたユーザーが高い値段を払ってWindows搭載機種に買い換えるとは思えない」「Windows 7はこれまでのWindowsと同じコードベースなので、セキュリティ問題が出てくるだろう」「485MBでは“軽量”とはいえない」などである。

 また、eWeekのMicrosoft Watchブログでは、Gralla氏が示したネットブック市場でのLinuxのシェア24.5%を「大きい。Linuxのシェアが伸びていることを示すもの」としたうえ、Windows 7が投入されるまでの時間を考慮すると、「Windows 7がLinuxに大きな打撃を与えるとは考えにくい」と疑問を投げかける。


 いずれにせよ、ネットブック戦略はWindows 7にとって重要な意味を持つ。InformationWeekでブログを執筆するAlexander Wolfe氏は「Microsoftは(Windows 7で)Vistaの悪いブランドイメージを払拭するつもりだ」と分析。この戦略は正しいと評価する。特に、法人分野では、多くの企業がVistaを見送っており、アップグレードサイクルが近づいていることから、「スリム化したWindows 7の受け入れは進むだろう」と予想している。

 またInformationWeekでオープンソースブログを執筆するSerdar Yegulalp氏は「Linuxが本格的にシェアを侵食する前に、Microsoftが軌道修正する最後のチャンスになる」と見る。一方、Linux陣営側の課題を「Linuxの成功は、勝つことではない」としながらも、「すでにある技術の焼き直しではなく、自由と選択の下に構築した資産を1つの環境として結びつけることができるか」であると指摘している。

 ASUSのCEO、Jerry Shen氏は、Laptop Mag.comのインタビューで、EeePCにWindows Vistaを搭載する予定はなく、来年後半にはVistaをとばして、Windows 7搭載モデルを投入する考えを明らかにした。MicrosoftはWindows 7の正確なリリース時期を明らかにしていないが、2009年内という見方が浮上してきており、これと合致する。Windows 7はネットブックへの参入としては遅すぎるのか、Linuxキラーとしてこの分野を制覇するのか―。現時点では、まだ分からない。

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(岡田陽子=Infostand)
2008/11/10 09:06