販売台数だけではない-iPhoneの世界展開で生まれた大型市場



 発売日前からの長蛇の行列など「iPhone 3G」はまたしても熱狂をもって迎えられた。アナリストの推計では、発売から1カ月間に売れたiPhone 3Gの数は300万台を突破。好調なスタートを切った。だが、iPhoneの真のエポックは、端末の販売台数ではなく、その上に築かれるプラットフォームかもしれない。世界のiPhoneユーザーは、この1カ月間に6000万回以上、アプリケーションをダウンロードしたという。


 AppleのCEO、Steve Jobs氏は8月11日付のThe Wall Street Journal紙に、インタビューで登場した。ここでiPhone発売からの1カ月を振り返り、販売台数ではなく、アプリケーションの成功にスポットを当てた。

 iPhoneと「iPod touch」のユーザーは、「iTunes Store」にある「App Store」からアプリケーションをダウンロードして追加できる。Appleは7月11日のiPhone 3G発売と同時にApp Storeをオープン、Salesforce.comなどの業務アプリケーションからゲームまでさまざまなアプリケーションを用意した。種類にして1000種類以上。価格もさまざまで、中心は9.99ドルだが、無料のものも多い。中には999.99ドルという上限価格をつけたアプリケーションもあった。

 Jobs氏は、このApp Storeの好調を指摘した。Appleはオープン4日目の7月14日に「3日間のダウンロードが1000万回達成」と発表したが、その後もユーザーはApp Storeを利用。1カ月間のダウンロード総数は6000万を上回った。売り上げにして3000万ドル。1日平均100万ドルの計算だ。このペースで進めば、Appleに、年間3億6000万ドルという新しい収益源が生まれることになる。

 「わたしのソフトウェアでのキャリアで、こんなことは初めて」とJobs氏はインタビューで語っている。

 App Storeは、iPhoneでAppleが仕掛けた戦略の核となる部分だ。Appleは携帯電話分野に参入するにあたって、端末のスペックで勝負するのではなく、プラットフォームを重要な要素と位置づけた。使いやすいハードウェアを用意し、ユーザーはその中に自由に好みのアプリケーションを入れられる、というものだ。そして、iPhone 3Gのローンチを前にした今年3月、iPhone向けOSの最新版「iPhone 2.0」と「iPhone SDK」をリリース、iPhoneでネイティブに動くアプリケーションの開発を奨励してきた。

 このモデルは、これまでキャリアがすべてを握ってきたモバイルアプリケーションの世界に、新風を吹き込んだ。開発者には、アプリケーションを世界に公開・販売する仕組みが提供され、売り上げの30%をAppleに納め、あと70%を取ることになっている。1カ月で6000万回という数字は、ユーザーがAppleの狙い通りにiPhoneを使っているという事実を示すものといえる。


 iPodがオンライン音楽を変えたように、iPhoneはモバイルアプリケーション市場を変えるのだろうか? その可能性は大いにありそうだ。しかし、同時にAppleのアプリケーションの扱いが、開発者の間に微妙な影を落としている。

 Appleは3月にSDKを発表した際、App Storeでアプリケーションを提供するためのルールを公開した。それによると、まず、すべてのアプリケーションはAppleの審査をパスしなければならない。そして認定を受けたアプリケーションはDRMをつけて提供されるが、App Store以外のルートで公開できない規定だ。iPhoneにかかわったアプリケーションはすべて、Appleの支配下に置かれることになる。

 また、登録されたアプリケーションをAppleが一方的に削除できることも判明した。「I Am Rich」というアプリケーションを開発したドイツの開発者は、Appleが「説明なしに」突然削除したとして憤慨している。このアプリケーションは、動かすと“赤い宝石”が画面に表示されるだけで、他に特段の機能はない。価格は上限の999.99ドルで、持ち主が(こういうソフトを買えるような)金持ちであることを示すだけのものだ。Appleの担当者は、削除の理由を「主観的判断」と説明したという。

 同時に話題になったのが、開発者Jonathan Zdziarski氏が発見した“キルスイッチ”という仕掛けだ。iPhone 2.0の内部をチェックして悪意あるアプリケーションを遠隔から無効化できるというものだ。こうした厳しい管理が、一部の開発者の不満を招いているようだ。

 また、フリーソフトウェアを支援する非営利団体、Free Software Foundation(FSF)は、iPhoneがフリーソフトウェアの精神に反すると激しく批判している。FSFはWebサイトでiPhoneにおけるAppleの姿勢を強く批判する文章を掲載しているほか、Apple Storeに出向いて、アプリケーションの配布やDRMに関する質問を担当者に浴びせかけるというキャンペーンも展開した。これまでMicrosoftを宿敵としてきたフリーソフトウェア陣営だが、Appleの影響力が拡大していることを懸念する声も出始めているようだ。

 また、ダウンロード数が実際の利用につながっているかを疑問視する声もある。GigaOMの記事は、iPhoneアプリケーションの分析を開発したPinch Mediaが集計したアプリケーションの返却率(アプリあたりの1日ユニークユーザー数の20%以下)、利用時間(1回5分以下、1日に利用するアプリ数は平均1.2など)などをあげ、利用状況はそれほどではない、との見方を示している。アプリケーションを購入する前に試用できないことを問題視する声もある。

 Jobs氏はThe Wall Street Journal紙のインタビューで、App Storeの収益性について、「クレジットカード会社へのコミッションや維持費などを考えると、30%の取り分では大きな収益を生まない」と述べているが、The New York Times紙はiTunesをAmazonやeBayと比較しながら詳細に分析。「iTunesのビジネスモデルは、AmazonやeBayよりも収益性が高い」と結論づけている。

 App Storeがどのように発展するのか、ライバルはどう応じるのか。まだまだiPhoneの動向には要注意だ。

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(岡田陽子=Infostand)
2008/8/18 09:00