謎のプロジェクト「Midori」-ポストWindows OSの実際は?



 “ポストWindows”あるいは“Windowsの終わり”といった見出しが、このところのIT関連メディアで踊っている。Microsoftが開発しているコードネーム「Midori」という技術に関するものだ。Midoriは、同社が極秘に進めてきた“ネットワーク指向OS”で、従来のWindowsのアーキテクチャを完全に刷新して、新時代の画期的OSになるというのである。


 「Midori騒動」のきっかけは、7月29日付のSD TimesのDavid Worthington氏の記事だ。Worthington氏はMicrosoftの内部文書を入手して分析。「MicrosoftのポストWindows計画が明らかになった」というタイトルで報じた。

 それによると、同社はMidoriと呼ばれる「コンポーネント型の非Windows OS」をフルスクラッチで開発中で、現在、開発の初期(インキュベート)段階にあるという。MidoriはレガシーフリーOSで、ツールやライブラリは完全な管理コード。x86、x64、ARMのハードウェア上でネイティブに動作し、Windows「Hyper-V」ハイパーバイザーでホストでき、またWindowsプロセスでホストすることも可能という。

 研究・開発部門のMicrosoft Researchが開発に取り組んでおり、同部門が今年3月、研究者向けに公開したプロトタイプOS「Singularity」の派生物だとしている。

 Worthington氏は、記事のなかで、Midoriの特徴をかなり詳細に説明している。たとえば、「Midoriは分散アプリケーションとローカルアプリケーションの、両方の並行処理に焦点を当てたものとなる」「Midoriのプログラミングモデルは、とりわけSOAに便利であり、サービスへのアプリケーションの分解を斟酌すれば、ティアにまたがって分割することが可能になる」などとしている。

 また、31日付の続報では「Windowsがレガシードライバをサービスとしてラップすることが可能となり、サービスとMidoriを完全に分離しながら、デバイスを超えたクロスOSコミュニケーションを利用する」「Midoriの設計の目標の一つはデバイスドライバをOSから分離することである」など構造面にもスポットを当てた。

 さらに、セキュリティ面の特徴を取り上げた8月5日の記事では、「Midoriはその安全性の仕様によって、バッファオーバーランの危険性を排除できるだろう。スタックやヒープ(動的に確保するメモリ領域)破壊を回避するために、より頻繁にヒープの消去を行う」など、Windowsを悩ませ続けているバッファオーバーフロー攻撃に対応できることにも言及している。

 これらの特徴は、Midoriが、現在のWindowsの弱点を克服し、クラウドコンピューティングと仮想化環境に適合する画期的な新OSであるということを示している。当然、メディアは大騒ぎとなった。


 Midoriの名が最初に注目されたのは、6月30日付のZDnetのブログ「All About Microsoft」だろう。MicrosoftウォッチャーであるMary-Jo Foley氏は、Windows XPの販売終了を機に、Microsoftが極秘で進めている謎のプロジェクトMidoriに触れ、「WindowsコアをスリムダウンしたMinWin」と紹介した。

 同氏によると、Midoriは、非WindowsベースのOSの模索から生まれた成果で、“Windowsの座を奪うもの”だという。SD Timesの記事を受けたブログでは、単にMicrosoft Researchの担当ではなく、技術戦略担当シニアバイスプレジデントの1人で、開発のキーパーソンであるEric Rudderが指揮していることに着目。「いずれ商用化することは時間の問題」として、極めて重要な“ポストWindowsプロジェクト”であることを確信している。


 Microsoftが従来と異なるOS開発に取り組んでいる――というのは誰もが疑わないことだろう。Googleをはじめとするオンラインサービスベースの競争相手の台頭があり、クラウドコンピューティングへの対応も迫られている。このままでは、屋台骨のWindowsビジネスが再構築を余儀なくされるだろうというのは多くの一致する見方だ。

 また、2006年末には、Gartnerが「ITの10の予測」のなかで、次世代のOS環境が、よりモジュール構造を持ったものとなると予想した。従来のWindowsのようなモノリシックな構造のソフトウェアの時代が終わりつつあるというのである。Midoriはこの文脈にも沿っている。

 そして、Microsoftがかつて開発に取り組んだオブジェクト指向OS「Cairo」との共通点や、マイクロカーネルへの再挑戦といった要素もあり、興味をかきたてる話題がいっぱいだ。

 ただ、MidoriがWindows後継OSなのかという点では、疑問を投げかける者も少なくない。たとえば、TechworldのJohn Dunn氏は、Midoriについて、「わたしの無知な解釈で考えるとHyper-Vのクライアントの一種にすぎないのではないか」と述べている。また、Windows IT ProのPaul Thurrott氏は「Vistaや、次期Windows『Windows 7』の後継ではない」と強調している。

 Microsoftも殺到する取材に対して、「Midoriは、進行中の多くのインキュベーションプロジェクトの一つにすぎず、将来の製品ではない」と繰り返し、それ以上の詳細の言及を避けている。ただし「製品にならない」とも言ってはいない。

 Vistaの不振で、Microsoftが新しいOSについて語ることを、ますます避けるようになった、との見方もある。壮大なビジョンを語って失敗をなじられるぐらいなら、確定したことだけで、あとはだんまりを決め込んだ方がよいというわけである。となると、Midoriが何になるのかについて、今の段階でこれ以上の話が出ることはないだろう。

 ところで、ほとんどの記事で、Midoriの一般的な意味は「メロンフレーバーのリキュール」と説明されている。日本人だったら、別のものを連想できそうに思うが、いかがだろう。

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(行宮翔太=Infostand)
2008/8/11 09:05