敵はKindle? Googleのタブレット「Nexus 7」発表


 このところ動きが活発化しているタブレット分野に、いよいよGoogleが本格参戦した。Googleのは次カンファレンス「Google I/0」で6月27日、同社初の自社ブランド・タブレット「Google Nexus 7」を披露した。7インチ画面のAndroidタブレットで、199ドルからの価格設定は競合他社にも大きなインパクトを与えた。だが、大混戦のタブレット市場でGoogleが成功できると楽観視する声は少ない。Nexus 7に欠けているのは何か、メディアの見解から探る。

最新バージョン「Jelly Beans」を搭載した“Androidタブレットの見本”

 Nexus 7は「Nexus」ブランドを冠した初のタブレットだ。解像度1280×800ピクセルの7インチ画面に、1.3GHz動作のNvidia「Tegra 3」クアッドコアプロセッサを搭載。RAMは1GBで、重さは約340グラム。8GBモデルと16GBモデルの2種類があり、8GBモデルの価格は199ドルという。

 Googleは5月末にMotorola Mobilityの買収を完了したところだが、Nexus 7のハードウェアはMotorolaではなくAsus Tekが担当している。

 Googleはこれまで、自社ではNexusブランドで最新のAndroidを搭載した“見本”となるスマートフォンを作ってきた。その意味で、Nexus 7もAndroidタブレットメーカーに示すものとみてよいだろう。そうした見本の1つが最新のAndroid 4.1(Jelly Beans)だ。Googleは最新OSにAppleの「Siri」のような音声コマンド技術「Google Now」、NFCを利用した写真共有などの新機能を組み込んでおり、Nexus 7はこれらを利用できる。

 もう1つが「Google Play」だ。Google Playはこの3月、アプリストア「Android Market」、音楽サービス「Google Music」などを統合して、映画、音楽、アプリなどを一カ所に集めたサービスだ。

 特設サイトでは、Nexus 7は「Google Playのために作られた(Made for Google Play)」と売り込んでいる。Nexus 7の製造を担当したAsusのデジタルマーケティングマネージャー、Tim Smalley氏に取材したTechRadarによると、8GB/16GBという「乏しい」ストレージ、microSDカードを使えないといった特徴についてSmalley氏は、Google Playで映画を5本購入したとしても同時に見ることはなく、クラウドを利用してコンテンツを消費することを想定している、と説明している。

 Googleが提供する各種サービスのプッシュも明らかだ。フロントカメラの搭載はGoogleのソーシャルサービス「Google+」のグループチャット機能「Hangouts」向けと言える。またGoogleは、WebブラウザのChromeやGmailなどとの統合を強調している。

 Nexus 7は7月中旬から、北米、英国、豪州で発売する予定で、すでに事前予約受付を開始している。


混戦極めるタブレット市場

 Nexus 7はタブレット市場に対するGoogleの回答となる。タブレット市場は現在iPadの一人勝ちで、IDCの2012年第1四半期のデータによると、約7割のシェアを押さえている。

 Googleは、iPadの登場から1年後の2011年1月に、タブレット向けの「Android 3.0」(Honeycomb)を発表した。現在、Samsung、HTC、東芝などのメーカーがAndroidタブレットを製造しているが、合わせても通年の出荷台数は1000万台以下と見られている。一方、iPadは同じ年、3800万台を売り上げた。

 価格と性能のバランスで好評なNexus 7だが、タブレット市場で勝てるかというと、メディアの見方は厳しい。

 Market OracleはNexus 7の大きな問題を、「競争の激しいタブレット市場において、これという“ニッチ”がないこと」と評する。ハイエンドのiPadとは画面サイズとアプリエコシステムで劣り、1週間前にMicrosoftが発表した「Surface」との比較では、Surfaceがハイスペックであるため直接競合しないと見る。Windowsアプリのエコシステムのメリットも受けられることから、この点でもSurfaceの優位とみてよさそうだ。

 Contextのアナリスト、Salman Chaundhry氏も「Googleは差別化を図ったが、iPadに追いつけるとは思えない。RIM Playbook 、HTC Flyerと、7インチタブレットはどれも失敗に終わっている。Googleはこの教訓を生かしていない」と手厳しいコメントをThe Guardianに寄せている。


ライバルは「Kindle Fire」

 多くのメディアは、Nexus 7/Googleが狙うのはiPadではなく、AmazonのAndroidタブレット「Kindle Fire」と見ている。Nexus 7もKindle Fireも画面(7インチ)と価格(199ドル)が同じであり、 Google PlayとGoogleサービス向け、つまり「コンテンツ消費」という目的も重なるからだ。

 Nexus 7発表前のThe Guardianの記事では、Nexus 7を製造したAsusの幹部自身が「(Googleのタブレットは)Amazonを狙うもの」「KindleはGoogleのプラットフォームをベースに自社サービスを統合している。Googleも自社サービス(のAndroidタブレット)をローンチする必要があった」と述べたことを伝えている。

 では、Nexus 7はKindle Fireに勝てるのだろうか?

 ハードウェアだけで見るなら圧勝だ。最新のAndroidを搭載しているほか、画面解像度、フロントカメラ、クアッドコアなどコンポーネント単位で優れておりながら、同じ価格である。だが、日進月歩で進化しているハードウェアで比べるべきではない。メディアの多くは両端末とも自社コンテンツの消費のためのデバイスであり、重要なのはコンテンツとコンテンツを得るためのスムーズな課金システムとみる。この点ではAmazonが優位だ。

 コンテンツについては、Contextのアナリスト、Salman Chaundhry氏が「Amazonの音楽、書籍、メディアコンテンツは膨大できちんと組織されており、エンターテイメント向けに開発したプラットフォームを持つ」とThe Guardianに述べ、Kindle Fireのリードを認めている。

 Mashableは課金面を比較。GoogleはAmazonと比べ、ユーザーのクレジットカード情報数が少ない。広告を主軸とする同社は多数のサービスを無料で提供しており、スムーズな決済システムはEC大手で1クリック決済を長年提供するAmazonが得意とする分野だ。「成功に必要なのはスペックではない。全体の使いやすさ、少ないクリック数で必要なコンテンツを探し、入手できる使い勝手がモノを言う」としている。

 Market Oracleも、Kindle Fireを相手には苦戦を予想。さらに、Amazonは7月にも、最新版(Kindle Fire 2)を発表すると予想されており、Nexus 7にスペック面での優位性はなくなるだろうとみる。

 一方、各メディアからは、業界では7インチタブレットが向く用途が定まり始めたこともうかがわれる。7インチを選んだことからNexus 7でのGoogleの狙いを「コンテンツの消費」「Google Playのフロントエンド」と分析したMashableによると、iPad(9.7インチ)はコンテンツの作成など生産性目的に利用できるが、7インチは映画やWebなどのコンテンツの消費に最適だと解説。ContextのChaundhry氏も「7インチはコンテンツの消費にのみ適している」と述べている。


Nexus 7の勝算はどこにある

 とはいえ、Nexus 7にも強みはある。BBCのテクノロジー担当記者Rory Cellan-Jones氏は、Nexus 7の提供時期と地域を挙げる。Kindle Fireは現在なお北米市場限定であり、欧州などKindle Fireが入手できない地域が多い。「Nexus 7がまもなく発売される英国では、Kindle Fireが狙うユーザー層はNexus 7を選ぶだろう」とCellan-Jones氏は言う。対Surfaceでは、Surfaceは今秋登場で、Nexus 7には数カ月の時間の余裕がある。

 Google I/Oではこのほか、球体のソーシャルストリーミング端末「Nexus Q」、共同設立者Sergey Brin氏の肝入りプロジェクト「Project Glass」など、Nexus 7以外にいくつもハードウェアが発表された。MicrosoftのSurfaceといい、ソフトウェア企業がハードウェアに力を入れる動きが相次いでいる。Appleが仕掛けた垂直統合アプローチの戦いが広がっているということだろう。


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(岡田陽子=Infostand)
2012/7/2 09:55