Yahooの身売り騒動再び~Alibabaの野望は?


 Yahooをめぐる買収話が飛び交っている。トップ解任、業績不振が報じられる老舗ポータルだが、その知名度は飛び抜けている。買収話に火を付けたのは、中国のEC最大手Alibaba Group(阿里巴巴集団)のCEO、Jack Ma(馬雲)氏。Yahoo買収に興味があると発言し、強い意欲を表明した。YahooはAlibabaの筆頭株主であり、逆買収する格好だ。中国パワーの台頭がネット業界再編につながる可能性も出てきた。

Jack Ma(馬雲)氏「Yahoo買収にとても興味がある」

 「(Yahooの買収に)とても、とても興味を持っている」。9月30日、スタンフォード大で開かれた「China 2.0 conference」の基調講演を行ったMa氏は、質疑応答の中でこう述べた。会場からの「Yahooの部門買収か」という質問に対しては「Yahoo全部だ」と答え、既に関係筋との話し合いを行っていることを明かしながら、「Yahooの買収は思っていたよりも複雑」「うまくいくよう祈っている」と語った。

 Yahooは迷走している。トップだったCarol Bartz氏は先月6日、突然CEOを解任された。業績不振の責任を問われてだが、電話1本でクビ通告という激しい追放劇で評判となった。Bartz氏は、ポータルとしてのYahoo再建を目指したが、果たせず、2年半で追われるように去ることとなった。現在YahooはCFO兼上級副社長のTim Morse氏が暫定CEOを務めながら、後任CEOを探している。

 Yahooは凋落が言われて久しい。2009年夏に結んだMicrosoftとの検索分野の提携もこれまでのところ期待した成果をあげていない。検索広告の主役はGoogleに、ディスプレイ広告はFacebookへと移り、業績も株価も下がり続けているという厳しい状態にある。

Yahooのお値段

 そんな中、再びYahooの身売り観測が強まっている。発端は9月23日に流出した従業員あてメモだ。共同創業者のJerry Yang氏や会長のRoy Bostock氏らの連名で、経営陣がBartz氏解任後に「戦略的レビュー」を行い、「考えられる複数の選択肢」を検討していると説明している。

 Yahooでは2008年にも売却騒動があり、さまざまな相手と交渉したが、結局、いずれも実現しなかった経緯がある。最も巨額だった買収オファーはMicrosoftが提示した総額446億ドルで、62%のプレミアを付けた額。このときの時価総額は約256億ドルだった。

 しかし、現在の時価総額は171億ドル(Ma氏の発言で株価が跳ね上がった10月3日の終値)で、3年半前から30%以上下落している。さらにNew York Timesは、ここからYahooの企業価値を分析し、同社が保有する“アジアの優良資産”などを差し引いて、純粋に今のコアビジネスを評価すると、50億ドル程度と試算している。“アジアの優良資産”とは、日本のヤフー株式会社の株(総株式の35%)と、未公開企業であるAlibabaの株(総株式の40%)のことだ。

 Ma氏は、Yahoo買収の“のろし”を上げて以降、活発に動いている。Bloombergによると、Yahooが保有する自社株の買い戻しのため、シンガポール国営の投資会社Temasek Holdingsと資金調達の話し合いを始めているという。

米国進出を目指すAlibaba

 Alibabaは1999年創業。英語教師だったMa氏がアパートの1室から興し、10年で従業員2万3000人の中国EC企業のトップに上り詰めた。Yahooの中国現地サービスを運営しているほか、BtoBサイトAlibaba.com、コンシューマー向けECサイトTaobao(淘宝網)などを傘下に抱えている。

 とくにTaobaoは、登録会員約3億7000万人といわれ、中国CtoC市場で80%以上のシェアを持つ。2003年の設立後、eBayと争い、店料・手数料無料で顧客を取り込み、今の地位を築いた。またAlibabaグループが利用しているオンライン決済サービスAlipayは、中国で最もよく使われるネット決済サービスとなっている。なお、Alipay社は現在、グループから分離し、Ma氏個人の会社が保有している。

 こうして中国を制したAlibabaが次に狙うのは海外展開と見られている。ドメイン登録・管理の子会社中国万網を米国で上場させると9月末に報じられたばかりで、Ma氏が当分米国を拠点にするとの報道もある。スタンフォード大学の講演でも、Ma氏は「中国は既にわれわれのものかって? そう。もう私のポケットの中さ」と述べ、海外進出を示唆していた。

買収の成否、Yahooの行方

 Yahooは衰えたとはいえ、1億7754万人のユニークユーザー数を抱え、Googleに次ぐ米国2位のサイトだ。Alibabaが米国展開するには極めて大きな力になる。

 しかし、買収には障害も多い。Yahooはコンシューマー個人情報を大量に保有しており、中国企業に買収されることへの懸念の声が出ている。安全保障面からの当局の調査も不可避だ。またシリコンバレーでは、この不況の中、リストラ失業を招くとの反発もある。Ma氏が「思っていたより複雑」と述べたのはこうしたことのようだ。

 一方、Ma氏の発言以降、Yahooの周辺は賑やかになってきた。翌週には、Microsoftが再びYahoo買収を検討中とReutersが報じた。メディアでは、他の買い手として、Silverlake Partners、KKR、そしてロシアのDigital Sky Technologiesなどの名前も挙がっている。立て直しに失敗したYahooが、今度こそ決断することも大いに考えられる。

 Yahooは18日に第3四半期の決算発表を控えている。市場のコンセンサスでは、売上は10億7000万ドル(前年同期16億ドル)と大きく落ち込む見込みだ。数字次第で身売りするにも、厳しい条件を強いられることになりそうだ。

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(行宮翔太=Infostand)
2011/10/17 09:35