逃がしたチャンスは大きい? Nortelの特許に競り負けたGoogle
経営破たんしたNortel Networksの特許群が6月30日、特許競売としては史上最高の45億ドルという値で競り落とされた。約6000件のNortelの特許を取得するのはMicrosoft、Appleを含む6社の連合体で、当初から名乗りを上げていたGoogleに競り勝った。6社の狙いは「Android」の勢いを抑えることだとみられている。この取引は今後、市場にどんな影響を与えるのだろうか?
【お詫びと訂正】
初出時、取得額を450億ドルとしておりましたが、45億ドルの誤りです。お詫びして訂正いたします。
■6000件の特許と6社連合の狙い
Nortelの、出願中も含む膨大な特許の中には、4GやWiFiなど広範な無線技術や、ソーシャルネットワーク関連、インターネット検索などが含まれるという。同社の特許を巡っては、4月にGoogleが9億ドルで名乗りを上げ、これがオークションの入札基準値となった。
Bloombergによると、6月27日に始まったオークションにはIntelなども参加。どんどん値がつり上がり、20ラウンドを迎えて45億ドルに達した。企業連合Rockstar Bidcoが提示したものだが、このときGoogle(途中でIntelと組んだ)は、対抗せずに撤退した。このRockstar Bidcoこそ、Apple、EMC、Ericsson、Microsoft、Research In Motion(RIM)、ソニーの6社が組んだコンソーシアムである。米国とカナダの規制当局は7月11日に落札を承認し、正式決定した。6社の狙いは何だろう――。
Apple、Microsoft、RIMの3社はAndroidと競合関係にある。3社ともAndroid以前からスマートフォン市場に参入しているが、Samsung、HTCなど多くのメーカーが採用するAndroidは、いまや全体としてはiPhoneをも上回る最大のスマートフォン・プラットフォームとなっている。さらにタブレットにも拡大して、その勢いが衰える様子はない。
そんな中での特許競売だったのだが、ZDNet.comはこの取引に続いて「多くの特許訴訟が起こる」と予想する。現在、スマートフォンベンダーは、市場での戦いと同じぐらい活発に法廷でも争っている。NokiaとAppleが和解した後は主に、Androidが、AppleやMicrosoftと対立するという構図だ。AppleはHTC、Samsungなどに厳しい姿勢で臨んでおり、MicrosoftはMotorolaを提訴しながら、HTC、Wistron、オンキヨーなどのメーカーとクロスライセンス契約を結んでいる。
ライバルとしては、特許ライセンスを押さえれば、Androidを阻止まではできなくとも、Androidの成功からライセンス収入を得られる。TechCrunchはAndroid関連のライセンス収入だけでMicrosoftは既に年間10億ドルレベルを得ていると推定する。TechCrunchは今回のMicrosoftの目的を分析し、「邪悪な天才」と皮肉っている。
eWeekも同じようにAndroidに対する特許訴訟が増加すると予言。「この企業連合の目的はAndroidを完全に滅ぼすことだ」と言い切る。特許はスマートフォンにとっての“核兵器”のようなもので、6社の手に落ちたことで、対Android包囲網が形成されるという。企業は通常なら製品やサービスを通じて市場で競争するが、スマートフォン業界の動きは速すぎる。あるいは、通常の戦略が通用せず、Androidの独占を止められない――。ライバルたちのこうした懸念が背景にあるという。
■オークション撤退はGoogleの失策か
Androidに対する訴訟はすでに45件に上っている。多くはAndroidハードベンダーをターゲットとするが、その中で、Oracleは、直接Googleを標的にしている。この訴訟は係争中で、これまでのところOracle優勢で推移と伝えられている。オープンソースと法律に明るく、Androidに対する訴訟動向を追っている弁護士のFlorian Muller氏は、Financial Timesに対し「(スマートフォン業界で)Googleほど特許を必要としている企業はいない」と指摘する。
今回、Googleが落札できなかった(あるいは、しなかった)ことについて、Muller氏は「Googleは、モバイル業界でIP交渉のために武装できる前例のない好機を逃した」とみる。また、同氏はArs Technicaに対して、Googleが競売を継続せず譲ったことは「驚きだ」とし、「45億ドル以上の値もつけられたはずだ。本当にAndroidにコミットしているのではないということなのか」とコメントしている。
メディアの多くも、今回のことをGoogleの失策と見ている。Mobilediaは「孤立した敗者」と呼び、ZDNet.comは「(Nortelの特許は)防御対策となった可能性がある。獲得できなかったことは、GoogleとAndroidを今後悩ませ続けるかもしれない」と述べている。
■Android離れが起こる?
Googleにとって、懸念すべきは材料は直接的な訴訟だけではない。現在、オープンソース(無料、修正が可能)という理由でAndroidを採用している多数のハードウェアパートナーが今後、Android採用を見直すことも考えられる。
Oracle対Google訴訟を詳細に分析したNetworkWorldは、Oracleはライセンス料として15~20ドルを徴集する初期プログラムを展開すべく、主要OEMにアプローチしているとするDeutsche Bankのアナリストの話を紹介している。それによると、ライセンス料は、Androidの強み(無料)をなくすことになり、ライセンス料が必要だが統合やサポートを受けられるWindowsと同等のものになるとみる。
また別のアナリストは、今後端末メーカーはAndroidを見直すことになると予想する。OracleやMicrosoftがAndroidハードメーカーにライセンス料を要求し、大手はともかく、資金力のない中国系ベンダーは主要なAndroidコミュニティから離脱していくことも考えられるという。Androidが求心力を失いエコシステムが崩れれば、Googleへの打撃は大きい。
特許訴訟は最終的には、製品価格として消費者の負担となる。訴訟費用、特許獲得のために払った45億ドルを含め、あらゆる支出は最終的には価格に反映されることになる。スマートフォンの価格が上昇するだけでなく、「訴訟が起きる環境でイノベーションが進むとは思えない」とeWeekは書いている。消費者にとって、特許訴訟はありがたくない話なのだ。
取引は第3四半期に完了する見込みだ。6社連合の意図、Androidへの特許訴訟が増えるかどうかは、いずれ分かるだろう。