クラウド&データセンター完全ガイド:特集

DC/クラウド事業者提供のIoTソリューション 富士通クラウドテクノロジーズ「ニフティIoTデザインセンター」

IT基盤から「ビジネス価値創出基盤」へ 「目的指向」クラウド/DCサービスの時代[Part 2]

弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2017年夏号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2017年6月30日
定価:本体2000円+税

[Part 2] デジタル変革はITインフラから DC/クラウド事業者発の「付加価値サービス」

「データセンターが提供する付加価値サービス」と聞くと、SI/コンサルティングの「丸投げでお任せ」のイメージが思い浮かべる向きも少なくないだろう。だが、固定観念にとらわれず事業者の取り組みを見てみると、さまざまな切り口、アイデアのサービスがすでに利用可能になっている。その例として、富士通クラウドテクノロジーズの「ニフティIoT デザインセンター」の内容を紹介する。 text:渡邉利和

画面3:富士通クラウドテクノロジーズの「ニフティIoTデザインセンター」Webサイト(http://iot.nifty.com/

DC/クラウド事業者提供のIoTソリューション
富士通クラウドテクノロジーズ「ニフティIoTデザインセンター」

 現在、ITのキーワードとして広く社会的関心を集めているものと言えば、やはりAIとIoT(Internet of Things)だろう。後者は、「モノのインターネット」の呼称どおり、人間だけでなくさまざまなモノがインターネットに接続される状況を予測して語られたところから始まっている。現在では、現実世界のあらゆる部分でITが活用されているさまをIoTと呼ぶ機会も多いが、これからのIT活用においてきわめて重要なトレンドであり、ITインフラを支えるデータセンターにとっても対応が不可避だと言える。

クラウド専業事業者として顧客のIoT活用を支援

 富士通クラウドテクノロジーズは2017年4月のニフティ再編・分社化に伴い発足した新しいクラウドサービス事業者だ。ニフティと言えば、日本のパソコン通信の草分けと言える「NIFTY-Serve」で知られ、近年は企業向けクラウドサービスの「ニフティクラウド」に力を入れていた。富士通クラウドテクノロジーズは、富士通の100%出資子会社としてニフティクラウドをはじめとする企業向けクラウド事業を継承する。

 同社はニフティ時代より、データセンターを自社保有していない分クラウドに特化し、次世代サービスの開発・提供に取り組んできた。

 同社は現在、ニフティクラウド、「ニフティIoTデザインセンター」(画面3)、「NIFTY BIZ」の3事業を軸にしている。その1つがIoTだというわけだ。ニフティクラウドはもともと国内の中堅・中小企業から多くの支持を集めており、クラウドサービスの提供だけでなく、そうした顧客の事業への支援も積極的に展開してきた経緯がある。IoTデザインセンターは、その流れに沿って、最重要トピックの1つであるIoTの導入・活用支援を行う組織・サービスだと位置づけられる。

 ニフティクラウドが提供するクラウドサービスは、数年前までは企業のITインフラ担当者に向けたIaaS(Infrastructure as a Service)が主体だったが、徐々にビジネス部門が直接指名して契約に至るケースが増えてきたという。その流れから同社は、IaaSからPaaS(Platform as a Service)へと注力分野をシフトしており、PaaS層でのさまざまなサービス提供メニューが増えている。

 IoTに関しても、「ニフティクラウドIoTプラットフォーム」と呼ぶ基盤を構築し、ユーザーがIoTを活用する際に必要となる機能・サービスを網羅的にそろえている。クラウドサービス側でIoTに対応したPaaSがあり、ここにIoTコンサルティング、IoTトライアル、IoTアドバイザリーおよびIoTインテグレーション/ソリューションを提供するIoTデザインセンターの各サービスを組み合わせることで、IoTの導入・活用を目指すユーザーに必要な機能・サービスを一貫して提供できる体制を整えている(表2)。

表2:「IoTデザインセンター」が提供するコンサルティングプラン(出典:富士通クラウドテクノロジーズ)

中核のIoTプラットフォームの特徴

 ニフティクラウドIoTプラットフォームは、クラウドサービスとして提供される汎用的な機能とIoTに特化した機能の組み合わせとして構成される。

 クラウド特化型の機能として、まず「IoTデバイスハブ」(図2)が挙げられる。同機能は、IoTデバイスのクラウド接続、デバイス/ユーザーの管理などIoTデバイスの運用に必要なバックエンド機能をクラウドで提供するものだ。

図2:IoTデバイスハブの構成図(出典:富士通クラウドテクノロジーズ)

 「顧客企業と一緒になってIoTの活用に向けた取り組みを進める過程で、顧客から上がってきた要望やニーズを吸い上げながら開発した」(富士通クラウドテクノロジーズ ビジネス開発本部 デジタルプラットフォーム部 部長の佐々木浩一氏)。同社はIoTデバイス自体を開発・提供は行わないが、ユーザーがどのようなデバイスを使っていたとしても問題ないよう汎用的な入口としてデバイスハブを準備しているものととらえられる。

 同様の機能は競合のクラウドサービス事業者も提供するが、佐々木氏は、IoTデバイスハブの特徴として、デバイスサポートを容易にする専用SDKの提供やニフティクラウド内の各種データストアや外部プログラムとの連携がサポートされる点、シンプルな課金体系を挙げる。

 課金はデバイス数に応じて行われ、デバイス数が増えるとデバイス1台当たりの単価が減額されるという、わかりやすいものになっている。データ転送量や接続時間といった運用稼働状況に応じて変動するパラメータがないため、システム設計時点でコストの正確な見積もりが可能であり、安心して利用できる課金体系と言える。また、IoTデバイスとの通信用プロトコルとしてMQTTブローカも用意される。

 これらのIoT専用機能に加え、IoTを活用する際にあると便利なクラウドサービスもそろう。IoTで収集したデータに対する「可視化」「機械学習」「ニフティクラウド スクリプト」「データベース」「オブジェクトストレージ」などだ。

 ちなみに、イベント制御用に用いられるニフティクラウド スクリプトは、JavaScriptを言語として利用するサーバーレスアーキテクチャのサービスで、スクリプトの実行回数と処理時間に応じて課金される仕組みとなっている(図3)。スクリプト実行環境としてサーバーを準備する必要はなく、クラウド上にスクリプトを準備し、APIやコントロールパネル経由で起動する。マシンラーニングもそうだが、最新のトレンドにすばやく対応しているもニフティクラウドの魅力と言える。

図3:ニフティクラウド スクリプトの仕組み(出典:富士通クラウドテクノロジーズ)

価値創出・課題解決手段としてのIoT

 ここで、富士通クラウドテクノロジーズ/ニフティクラウドが考えるIoTとはどのようなものなのかを確認しておく。同社では「IoTの価値はモノから集められたデータの活用であり、そこからのビジネス価値創出」であると定義している。ここから、かなり上流/サービス寄りのコンセプトであることがうかがえる。ユーザー企業にしてみれば、ビジネス価値創出や課題解決が最終ゴールであり、IoTはそのために用いる手段・手法の1つと位置づけられる。同社はそうした企業の経営・事業部門ニーズに応えていくことを目指しているわけである。

 逆に言えば、センサーネットワークやテレメトリ、M2M(Machine to Machine)といった、IoTの登場以前からある典型的用途に関してはさほど重視されておらず、実際、IoTデザインセンターではM2MやFA(Factory Automation)については、基本的にサービス対象に入っていない。もちろん「一切対応しない」という意味ではなく、そうした用途のニーズに関しては、密接な協業体制を構築している富士通および同社グループ企業によるカバレッジに委ねることになるようだ。

 IoTデザインセンターの活用事例に、杉戸天然温泉 雅楽の湯(埼玉県北葛飾郡)の取り組みがある。同温泉は、IoTを活用して混雑状況の見える化による提供付加価値向上と従業員の効率的配置を実現している。

 具体的には、温泉施設内の8カ所にカメラを設置し、来場客の移動をリアルタイムで捕捉して状況をモニタに表示させている。これを見ることで、「今、館内のどの施設が混雑しているか」の全体把握が可能になり、混雑の平準化や従業員の機動的な配置が行えるようになったという(画面4)。混雑している設備に従業員を配置し、館内放送で空いている設備の案内を行うことで、来場客に入浴をより快適に楽しんでもらえるようになるというエンゲージメント=おもてなしである。

画面4:IoTを活用した、温泉施設混雑状況の見える化(出典:富士通クラウドテクノロジーズ)

 2017年5月には、フィットネス/スポーツクラブチェーンを全国展開するルネサンス(東京都墨田区)がIoTデザインセンターの支援による、顧客エンゲージメント向上を目的としたスタッフ配置適正化の実証実験を開始している。こちらは、スタッフがビーコンを携帯することで位置データを常時取得可能とし、スタッフの行動を可視化。そのうえで各スタッフのスキルも考慮しながら配置の適正化を図るという取り組みだ。

 両社とも、来客やスタッフの所在情報をデジタルデータとして取得して活用することで業務の効率化やサービルレベル向上といったビジネス価値創出を図ろうとしている。

 佐々木氏は「IoT活用事例をさらに増やして紹介していきたい。事例をベースにソリューション化して提供していくことにも積極的に取り組んでいく計画だ」と語る。IoT活用と言えば製造業の印象が強いが、IoTデザインセンターの事例が示すように、各種サービス業においても活用可能な業務領域は広い。アイデアはあるが、どうやってそれを具現化していけばよいかに迷う企業にとって心強いサービスだと言える。

 現在トレンドとなっているAI/ディープラーニングやIoTは密接に関連しており、組み合わせて価値を生み出す例も多い。IoTというカテゴライズが適切かどうかはさておき、現在、多くの企業が、これまでうまくデータ化できていなかった現実世界のさまざまな事象をデータ化し、これを最新の解析手法を用いて分析し、ビジネス価値につながる洞察や知見を導き出していくことに取り組み始めている。

 こうした流れは、いわばITの本来あるべき姿だとも言えるが、これまでさまざまな技術的制約によってやりたくても簡単には実現できなかったことが、現在は次々と実用化され始めている段階に達している。ユーザーの多様なデータ活用ニーズに応えうる、ビジネス目的指向型のサービスやソリューションを、データの格納・管理を担うデータセンター/クラウドサービス事業者自身が提供することは理にかなっており、国内でもそうしたサービスが多く出現することを期待したい。

クラウド&データセンター完全ガイド2017年夏号