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ネットワークを"コード"で制御する時代へ――ノキアが描くAutonomous NetworksとNetwork as Codeがもたらす自律運用の未来

5G通信の普及とAIの急速な進化を受けて、ネットワークに求められる役割は大きく変化している。タンカーの遠隔入港支援、自動運転タクシー、ドローン制御――こうした高度なリアルタイム通信が求められるサービスを、迅速かつ柔軟に提供するには、従来の手動運用では限界がある。ノキアが提唱する「Network as Code(NaC)」と「Autonomous Networks」は、アプリケーション開発者が複雑なネットワーク知識なしに標準APIでネットワーク機能を活用でき、その背後ではAI駆動の自律運用がエンドツーエンドで実現される世界を描く。通信事業者の運用効率化とマネタイズ、そしてアプリ開発者の新たな価値創出――その両立を可能にする仕組みとは。

ノキアソリューションズ&ネットワークス合同会社 クラウド&ネットワークサービス事業部 技術統括 北アジア プリセールス リーダー 小島浩氏

自律型ネットワークが目指すレベル4の世界――日本の事業者の現在地は

 アプリケーション開発者が標準APIでネットワーク機能を制御し、その背後ではAIがエンドツーエンドで自律運用する――ノキアが提唱する「Network as Code(NaC)」と「Autonomous Networks(自律型ネットワーク)」は、そんな世界を実現しようとしている。通信事業者には運用効率化と新サービスによる収益機会を、アプリケーション事業者には複雑なネットワーク知識なしに高度な通信機能を活用できる環境を提供する。

 こうした中、ネットワーク運用の自動化は通信事業者にとって避けて通れない課題となっている。5Gの普及とともにネットワークの複雑性は増し、手動での運用管理には限界が見え始めているからだ。通信業界の国際団体TM Forumが定義するネットワーク自動化には、レベル0(完全手動)からレベル5(完全自動)までの段階が存在する( 図1 )。

 「現時点では、概ね多くの通信事業者様はレベル2ぐらいにいらっしゃいます」と語るのは、ノキアソリューションズ&ネットワークス合同会社でクラウド&ネットワークサービス事業部の技術統括を務める小島浩氏だ。多くの通信事業者が目標とするのは、大部分の運用が自動化されたレベル4である。

図1:ネットワーク自動化のレベル0~5。業界平均はレベル2、多くの通信事業者がレベル4を目指している

 興味深いのは、レベル5の完全自動化に対する日本特有の姿勢だ。技術的には実現可能だが、小島氏は「完全な自動化、人が一切タッチしないというのは難しいところがあって、AIに『こうしていいですか』って聞かれて、人が『はい』と承認すると次に進むような形になると思います」と指摘する。これは日本の慎重な文化が反映されたものであり、自動運転車の導入においても同様の傾向が見られる。

 「当社が提供しているソリューションを使って、今、数多くのお客様が先ずはレベル4を目指して進んでいる状況です」と小島氏は語った。ノキアが提唱するAutonomous Networksは、こうした自動化を実現する包括的なソリューションだ。「Autonomous Networksは、必ずしもコストダウンや省力化だけではなく、インテント(意図)ベースでサービスを提供するマネタイズと、コストダウンの両輪があります」と小島氏は強調する。インテント駆動型でのサービス提供、ゼロタッチ・ゼロトラブルでのネットワーク運用、そして新たな収益機会の創出――これらすべてを実現することが目指されている。

「Sense, Think, Act」で実現する自律運用――エンドツーエンドオーケストレーションの仕組み

 Autonomous Networksを実現するには、ネットワーク全体を統合的に制御する仕組みが不可欠だ。無線(Radio)、固定網、伝送系(Transport)、コアネットワークといった個別領域を、エンドツーエンドで連携させる必要がある。

 ノキアのAutonomous Networksは、「Sense」「Think」「Act」という3層のアーキテクチャで構成される( 図2 )。最下層のSenseは、アラーム情報、KPI(重要業績評価指標)、パフォーマンス情報など、あらゆるテレメトリデータをリアルタイムに収集する層だ。ノキアが最近発表したAutonomous Networks Fabric(ANF)は、このSense層と次のThink層の一部を担う。

図2:データ収集の「Sense」、AI分析の「Think」、自動実行「Act」の3層構造アーキテクチャ

 中間層のThinkは、Autonomous Networksの成否を分ける重要な層だ。収集された膨大なデータを解析し、整理し、標準化する役割を果たす。「ネットワークから上がってきた情報を使いやすく整理します。特に壊れているデータなど、不要な情報を取り除くというのは非常に重要です」と小島氏は強調する。

 なぜThink層がこれほど重要なのか。小島氏によれば、多くのデータ活用プロジェクトが失敗に終わっていることもこれに起因するとし、「どのデータがどこにあるか探すのだけでも、プロジェクトの半分以上の時間を使っているという現状があります」と述べた。Think層がデータをカテゴライズし、標準化されたインターフェースで提供することで、上位のアプリケーション層は下層の複雑性を意識せずに開発できるようになる。

 最上層のActは、AI・機械学習を活用した自動制御を実行する層だ。Think層から受け取った標準化データに基づき、ネットワーク設定の変更、リソースの再配置、異常回復プロセスの起動などを自律的に実行する。

 ノキアの強みは、マルチベンダー・マルチドメイン対応にある( 図3 )。「ノキアの製品だけでなく、エリクソンの製品や、伝送系ではシスコ、Juniper Networksなどの製品も制御できます」と小島氏は語る。特定ベンダーで囲い込む戦略とは一線を画すオープンなアプローチだ。実際、ノキアのオーケストレーション統合ソリューション「デジタルオペレーションセンター」は、他社製ネットワーク機器のみで構成された環境でも採用されている事例がある。

図3:ノキアのマルチドメイン対応コントローラー群。無線、固定網、伝送系、コアネットワークなど各領域をカバー

Network as Code(NaC)――アプリ開発者のネットワーク制御をより簡易に

 Autonomous Networksの自律運用を支える重要な要素が、Network as Code(NaC)だ。これは、アプリケーションとネットワークをつなぐ中間層として機能し、開発者がネットワークの複雑性を意識することなく、標準APIを通じてネットワーク機能を活用できるようにする( 図4 )。

 従来、アプリケーション開発者がネットワーク機能を活用するには、3GPPなどの複雑な通信規格を理解する必要があった。「アプリケーションの開発者が3GPPの中身も理解することはかなり難しい」と小島氏は指摘する。NaCは、TM Forumなどで定義されたアプリケーションが使用し易いインターフェースを提供することで、この課題を解決する。開発者は端末の位置情報やSIMスワップ情報など、定義済みのAPIを使うだけでネットワーク対応アプリケーションを開発できる。

 ノキアは特定のアプリケーション自体は提供しないが、NaCのインターフェースを利用するためのSDK(ソフトウェア開発キット)を提供している。これにより様々な開発言語でネットワークを制御するアプリケーションを開発できる。

図4:NaCはアプリケーションと通信事業者をつなぐ中間層。開発者はSDKを使って標準APIでネットワーク機能を活用できる

 NaCのもう一つの特徴は、キャリア非依存のアーキテクチャだ。「一つの要求が上がってきたときに、これはNTTドコモ、これはKDDI、これはソフトバンク、と振り分けることもできます」と小島氏は説明する。ノキアはTM ForumやGSMA Open Gateway、CAMARAプロジェクトといった業界標準に準拠することで、各通信事業者の独自実装の違いをNaCが吸収し、アプリケーション開発者には統一された標準インターフェースとして提供する。

 開発者はNaCを標準インターフェースとして認識するが、その裏側で動作するAutonomous Networksのしくみ自体を意識する必要はない。開発者が「こういうことをやりたい」というインテント(意図)をNaCを通じて伝えると、Autonomous Networksが自動的にネットワークスライスの作成などを実行する。アプリケーションの開発者は複雑なネットワーク制御から解放される。

実用事例とマネタイズ――クリティカルサービスを支え、新たな価値を創出

 NaCとAutonomous Networksの組み合わせは、既に実用段階に入っている。特に、ネットワークを仮想的に分割して用途別に専用の通信品質を確保する「ネットワークスライシング」技術( 図5 )を活用した事例では、リアルタイム性が極めて高く、通信品質の低下が致命的となるクリティカルなサービスが数多く実現されている。

図5:エンドツーエンドのネットワークスライシング構成。レベル4の自動化を実現

 中東で展開されているタンカーの遠隔入港支援は、その代表例だ。「タンカーが入ってくるとスライスを作って、そのタンカーとの通信専用にスライスを割り当てます」と小島氏は説明する。入港完了後、スライスは解放される。北欧ではタクシーサービス事業者Elmoが、運転手不足を背景に遠隔制御タクシーサービスを提供している。コンサート会場でのイマーシブビジョン配信、ドローンの飛行制御なども、ネットワークスライシングによって専用の通信品質を確保している( 図6 )。

図6:ネットワークスライシング技術を活用した実用事例。遠隔制御や高品質配信など、通信品質の低下が致命的となるサービスで展開

 さらに、米国のT-Mobileはノキアのソリューションを活用した先進的な展開を行っている。警察や消防向けに高信頼性のネットワークスライスを提供する「T-Priority」をはじめ、既に20以上のスライスを商用展開している。従来は有線のクローズドネットワークでしか実現できなかったサービスが、モビリティを持ったモバイルネットワーク上で提供できるようになった。

 通信事業者にとって、Autonomous Networksは運用効率化とマネタイズの両面で価値をもたらす。特に重要なのは、サービス提供スピードが新たな競争軸になっている点だ。「『一年後にしか実現できません』というのか、『来月から使えますよ』というのとでは、だいぶ競争力が違います」と小島氏は強調する。自動化により、アプリケーション事業者からの要求に迅速に応えられることが、通信事業者の差別化要素となる。

 ネットワークが提供できる情報も広がっている。通信品質の保証だけでなく、端末の位置情報、SIMの不正交換検知、ネットワークの混雑状況など、様々な情報をアプリケーション事業者に提供できるようになった。アプリケーション提供者にとっては、ネットワークから使える情報がだんだん増えてきているので、それをサービスにいかに繋げるかが今後の鍵となる。

 AI・機械学習の活用も加速している。「AIを使うかどうかではなく、いつどこに投入するかという時代に入ってきています」と小島氏は語る。デジタルツインによる事前検証、エージェント型AIの導入など、技術の進化は続く。ネットワークのVNF(仮想ネットワーク機能)からCNF(クラウドネイティブ機能)への移行も進み、レベル4、レベル5の自動化が現実味を帯びてくる。

 「ネットワークから情報を吸い上げるのは通信事業者さんですが、それをアプリケーションサービス事業者さんに提供できるようにするのが当社の役割です」と小島氏は語る。NaCとAutonomous Networksによって、新たなサービス創出のエコシステムを構築していくのがノキアの目指す未来だ。

●お問い合わせ先

ノキアソリューションズ&ネットワークス合同会社
URL:https://www.nokia.com/programmable-networks/