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加速するデジタル時代において求められる「データドリブン経営」とは

中小企業データ活用フォーラム2021レポート

 今やあらゆる業種・業界においてデータ活用が進む中、中堅・中小の企業にとってもデータ活用は避けて通れない。2021年10月21日、「中小企業データ活用フォーラム2021」がオンラインで開催された(主催:中小企業データ活用フォーラム委員会、一般社団法人データ社会推進協議会、株式会社インプレス)。

 本フォーラムの中から、「加速するデジタル時代のデータ経営」と題し、これからの変化に対応するためのデータ分析、BIツールの定着化、AI活用について語った、株式会社セールスフォース・ドットコム Analytics Specialistの木浦武志氏、コマーシャル事業部 第3営業部部長の松井葵氏の特別講演を紹介する。

データに基づき戦略的な意思決定を導く「データドリブン企業」

 長く続くコロナ禍により私たちの世界は大きく変化している。すべてがデジタル化し、場所を選ばずにどこからでも働けることが当然の世界で、社員やチームが協力し合うための方法について考え直す必要が出てきているのではないか、と指摘するのはセールスフォース・ドットコム Analytics Specialistの木浦武志氏。顧客やサプライヤーとつながる方法、コミュニティについても再構築する必要があると語る。

 「あらゆるデジタル変革はデータ変革である」と木浦氏は断言する。2025年までにデータが175ゼタバイトにまで増加すると言われている今、増加するデータにうまく対応できる企業、すなわちデータ主導型の組織が成功を収めていくと言われている。とはいえ、データ主導型組織への移行は容易ではない。統計では、大半の組織は組織的な分析に失敗しているのが現状だと木浦氏。

 逆にこうした状況にうまく対応できている「データドリブン企業」の傾向は、データによる意思決定の重要性を強く認識し、データ分析への投資を加速し、リーダーがデータによってビジネスを確実にできると確信していることだ。実際にデータドリブンが役立った領域としては、多くの企業はコミュニケーション、意思決定、チーム連携、課題解決の迅速性に効果があったと考えている。

 データドリブン企業とは、「指標・KPIを達成するため、データに基づき目標・目的に合致する戦略的な意思決定を導くこと」と木浦氏は定義を語る。その主な特徴は、エグゼクティブがリーダーシップを取り、従業員の会話がデータや指標から始まり、従業員が必要なデータにアクセスしセルフサービス分析を実現する。またデータスキルを従業員が習得するためのトレーニングが準備されており、データに基づいた意思決定をサポートする社内コミュニティがある。「このようにエグゼクティブだけでなく、社内の従業員の方々の取り組みによって、データや指標をもとに意思決定を行っていくのがデータドリブン企業の特徴です」と木浦氏は言う。

データによる経営判断、意思決定、AIの活用をデモンストレーション

 続いて木浦氏は、Salesforceのデモ画面を操作しながら、実際どのようにデータドリブンを実現すべきかを紹介した。

Salesforceのデモンストレーションを行う木浦氏

 Salesforceにログインすると最初に、経営評価のダッシュボードが立ち上がる。このダッシュボードを確認することで、売上高や利益、利益率、予算といった主要なKPIをグラフで確認できる。

 各項目をクリックすることでさらに深掘りが可能で、より詳細な情報を見ることもできる。コミュニケーションツールで担当へ情報のアップデート依頼を行うこともでき、「大事なのは真実がこのダッシュボードに記載されていることで、より精緻な経営の見通しができるということです」と木浦氏。

 顧客へのアプローチ、活動状況も可視化できるため、従業員やチームに注目することでデータをもとにコーチングなどを行うことが可能だ。

 Salesforceでは、データの分析にAIソリューション「Einstein」を利用することができる。デモンストレーションでは、ある製品の利益率が特定の営業所において低いことを可視化、理由を把握した上で、「利益率を最大化してほしい」とEinsteinに依頼すると自動的に分析が行われ、さまざまな指標が利益率に影響を及ぼしていること、それぞれの指標の改善が利益率の最大化につながることを瞬時に分析した。

 「AIを使って分析すれば、利益率がどのような条件で上がったり下がったりするのかすぐに分かります。実際に手を動かして分析することも大事ですが、AIを使って分析をすることも簡単にできる世の中になっています。AIとBIの両方を使って社内のデータを最大限に活用していきましょう」と木浦氏は言う。

SalesforceのインサイドセールスにおけるTableau CRM活用

 セールスディベロップメント本部の松井葵氏は、コマーシャル事業部の部長としてインサイドセールスチームを担当している。セールスフォース・ドットコムでは事業規模別に異なるアプローチでインサイドセールスを実施しており、Webセミナーや問い合わせから商談を発掘して営業へ引き継ぐ「反響型(中堅中小)」と顧客をターゲティングして役員レベルにアプローチして商談を発掘する「新規開拓型(大企業)」の2つのグループに分かれている。

 しかしコロナ禍により対面型のイベントやセミナーができなくなったことで、インサイドセールスにも大きな影響があった。マーケティングの主軸が対面型のイベントやセミナーからオンライン開催されるウェブセミナーや施策に移ったことで、リードの獲得数は増えたものの、商談化率が若干下がり、またフォーロー日数も長期化したという。

 「こうした分析に用いたのがTableau CRMです」と松井氏。Tableau CRMはデータドリブン実現を支援するビジュアル分析プラットフォームだ。

 商談化率の減少をカバーするためにまず電話の量、メールアプローチを増やした。電話に関しては、時間帯別の活動量のほか通話時間や回数を分析して、適切なタイミングでアプローチを行った。

 さらにここから電話の内容、つまり質を改善するために松井氏のインサイドセールスチームが取り組んでいるのが「DDI(Data Driven Inside Sales) Project」だ。テレワークで分析されるのは量が中心で、質の分析が難しい。ではコロナ禍、ニューノーマルにおいてインサイドセールスの質をいかに向上させるか。その答えがDDI Projectだ。データドリブンでインサイドセールスの質をアップデートする取り組みである。

 具体的には、まず電話内容を録音してAIによる言語分析をかけるとともに、電話の内容を上司がモニタリングし、スコアリングやアドバイスをフィードバックする。そのデータを蓄積・分析することで成功の型を進化させる。

DDI Projectの狙い

 ここでポイントとなるのがフィードバックのデータをTableau CRMで分析する点だ。Tableau CRMで分析することで個人別だけでなく、チーム別のスコアチャートや会話の構成なども分析でき、こうしたチーム別の傾向値を把握することで、新たな解決策なども見つけ出しやすくなるという。

 松井氏は、「リモートワークだからこそData&Technologyと人のつながりのバランスを取ることが必要です。データはさまざまな示唆、気付きを与えてくれますが、答えは教えてくれません。最終的には人とのつながりで、チームで話をして、今まで通りマネージメントして、そのバランスをうまく取っていくことが新しいマネージメントの中で求められています」と締めくくった。

ベストプラクティスやアプリでデータドリブンを支援

 セッションのまとめとして木浦氏は「データドリブンな意思決定の6つのステップ」を紹介した。

データドリブンな意思決定の6つのステップ

 特にポイントだと木浦氏が指摘したのは2番目の「主要なデータについてビジネス部門と調整する」と、最後の「インサイトに基づいてアクションし、インサイトを共有する」だ。ビジネスの目標がどのKPIにどの程度影響を与え、どうすれば達成できるのかをビジネス部門と話し合って合意すること。そして、データをもとに分かったで終わるのではなく、実際にビジネスにそのデータを生かすためには、インサイトに基づいたアクション、改善行動が必要だと木浦氏は強調した。

 こうしたステップを自社で導入するのはなかなか難しいという企業に向け、セールスフォース・ドットコムではデータ分析文化を定着させるための「Tableau Blueprint」を提供している。Tableau Blueprintは、システムや人材育成、社内のサポートコミュニティの立ち上げなど、さまざまなTo Do(なすべきこと)、課題をまとめてパッケージ化したものだ。「私たちが過去に何千社ものお客さまに導入し、その中でうまくいったケースを抽出したエッセンスをすべて盛り込んでいます。データドリブンな組織となるためのベストプラクティス集です」と木浦氏は言う。

データ分析文化を定着:Tableau Blueprint

 さらに木浦氏は、データ分析とアプリがデータドリブン企業に必須だと強調する。データの収集から集計、コミュニケーションを一元化して、入力されたデータに基づく人々のバックグラウンドの情報、暗黙知を集約。さらにそうした知識を形式知化することがデータドリブン企業には求められるという。

 「私たちは、Salesforceの製品や業界向けソリューションにSlackを連携する『Salesforce Customer 360』を提供しています。アプリケーションを作ることもできますし、セールスやサービス、マーケティングといった部分に関しては私たちのベストプラクティスと一緒にアプリケーションを導入いただくこともできます。それらをもとにデータ分析をしたり、社内のコミュニケーションを活性化したりすることもできます。そして、会社自体をデジタル化し、データドリブン企業へと進んでいくことが可能になります」と木浦氏は語り、講演を終えた。

Salesforce Customer 360