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NEC、AI技術を核に社会ソリューション事業を強化

事業要員を2020年には1000人規模へ

 日本電気株式会社(NEC)は11日、人工知能(AI)技術を核にした社会ソリューション事業を強化。現在、500人規模のAI関連の研究開発、アナリスト、コンサルティングなどのAI事業要員を、2020年には約1000人規模に拡大する。また、2015年度~2020年度までの累計売上高で2500億円を目指すことを明らかにした。2015年度の事業規模は約300億円になる見込みだという。

 NECの江村克己執行役員は、「安全な街づくりや品質管理、自動運転などゴールが定まった課題に対しては、AIを活用することで圧倒的な効率化を目指す一方、経営判断や人のケア、新製品開発などゴールがひとつに定まらない課題解決に向けては、人への示唆を高度化。ここでは、人とAIが協調し、知性レベルの支援を行っていくことになる。この2つの領域からAIに取り組んでいく。また、知的処理を行うために、末端のデバイスにも、知的処理を行う性能と、小型化、低消費電力化が求められる。この領域にも挑戦していく」とした。

NECの社会価値創造とAI技術の方向性
NEC 執行役員の江村克己氏

 NECは、「見える化」技術として、世界的にもトップレベルにある顔認証技術、夜間や悪天候などの見えにくい映像を鮮明化する学習型超解像技術、群衆の全体の動きの変化から混雑環境での異変を検知する群衆行動解析技術などを持つほか、「分析」技術では、各データの相関関係から、人間には察知できないわずかな兆しを発見するインバリアント分析技術、2つの文が同じ意味を含むかどうかを判定するテキスト含意認識技術、ビッグデータに混在する多数の規則性を自動で発見する異種混合学習技術を持つ。さらに「制御・誘導」技術では、事前想定が困難な環境変化に適用し、人や物に最適に配置、配分する自律適応制御技術などを持っている。

 「これらのAI関連技術は、世界的にみても高い水準のものであり、これらを活用して、高度なソリューションを幅広い分野に展開する。コンサルティングや業務提案などによる提案、アウトソーシングやクラウドを活用した提案、さらには、API基盤としての提供なども想定しており、事業モデルは多様化していくことになるだろう」とした。

 すでに、AI技術を活用した社会ソリューション事業展開例として、顔認証技術を活用した犯罪者の入国防止ソリューション、光学振動解析技術を活用した橋梁の劣化検査ソリューション、インバリアント分析技術を活用した原子力発電所におけるプラント故障予兆検知ソリューション、異種混合学習技術を活用した電力需要予測ソリューションなどがあるとした。

AI技術を活用した社会ソリューション事業展開例

時空間データ横断プロファイリング

 今回、同社では、新たなAI関連ソリューションとして、「時空間データ横断プロファイリング」を開発したと発表した。

 時空間データ横断プロファイリングは、複数の場所で撮影した長時間の映像データから、同じ時間や同じ場所、同じ振る舞いをするといった特定のパターンで出現する人物を、高速に分類、検索する技術で、顔認証技術と組み合わせることで、AIとしての利用が可能となる。

 ブラックリストをもとに、静止画と比べて該当者を発見するといった場合には、同じ顔と照合し、認識するために膨大な情報を検索するため、多くの時間を要する。新技術では、大量の映像データのなかから、顔の類似度をもとにグループ化。特定の出現パターンをみせた対象を検索できるのが特徴で、実験では、延べ100万人が映っていた24時間撮影した防犯カメラ映像のなかから、同じ場所に長時間いたり、ひんぱんに現れたりする人物を、約10秒間で検出できたという。

 「下見行動や物色行動をしている人物を発見したり、連続放火現場に共通して現れた人物の特定など、不審者を発見するための使い方のほか、道に迷って同じ場所を行き来している外国人観光客に対する、おもてなしのシーンにも活用できる。さらには店舗において、来店客の振る舞いや表情から、なぜその商品を購入しなかったのかといった原因を追究するための、マーケティング利用も想定している」としており、「未知の事象を抽出したり、潜在ニーズを見つけだし、ソリューションとしての価値を高めることができる」と述べた。

安全・安心な都市づくりのための活動に利用されている
AI技術による該当警備の革新
時空間データ横断プロファイリング
時空間データ横断プロファイリングを活用した事業展開

予測型意思決定最適化技術で配水制御を実現

 さらに同社では、11月2日に発表した予測型意思決定最適化技術の開発にも触れた。

 同技術を活用した具体的なソリューションとして、スマートウォーターマネジメントシステムをあげ、水道管理において配水自動制御を活用した運用コストの削減例を示した。

 「日本では、全電力使用量の約1%が水道に使われており、電力消費の効率化は重要な問題となっている。10万戸を対象にした水道管の総延長距離は1000kmとなり、その経路も複雑である。1カ所の値を変えると、ほかに影響するといったことが起こる。また、水道施設から家庭に水が届くまで2時間かかり、最適な配水をするためには、2時間先の需要を予測する必要がある。これまでは配水計画を人手でやっていたが、これを予測型意思決定最適化技術により、刻々と変化する状況を反映しながら、2時間先の需要を高精度に予測。複雑に影響しあうポンプやバルブを最適制御し、配水の効率化が図れるようになる。これによって、電力コストを20%下げられる」とした。

 さらに、「この技術はさまざまな分野への応用が可能である。小売店では、たくさんの商品の価格を、ダイナミックに変動させて価格戦略を効率化したり、交通機関の運行計画や、複雑な施設の保全計画などにも活用できる」と話している。

 なお、これらのAI関連技術は、11月12日から、東京・有楽町の東京国際フォーラムで開催される「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2015」で展示される。

スマートウォーターマネジメント
水マネジメントの仕組み
AI技術による水マネジメントの確信
無駄なく水需要を満足する配水制御
予測型意思決定最適化技術
予測型意思決定最適化技術の事業展開

 一方で、AI関連事業が伸展するなかでは、実世界の変化にリアルタイムに対応する必要が出てくるが、クラウドコンピューティングやエッジコンピューティングにおける知的処理の活用だけにとどまらず、より実世界に近いデバイスに処理を分散することが求められるとの考えを示し、これらのデバイスにおける知的処理を行うためには、小型化や低消費電力化が重要であるとした。

 「正確な答えを出すためには、ハードウェア面において、CPUの高性能化に加えて、NECが得意とするベクトルプロセッサを搭載するといったことにも取り組んでいく。また、答えがひとつではないような課題に対しても柔軟に対応できるソフトウェアの開発も重要。ここでは、脳に倣う脳型コンピュータも求められることになる。脳を研究すると、これまでのデジタル技術から、アナログ技術へと振れる可能性がある。こうした新たな処理を行う半導体のデザインは、自ら行っていく必要があると考えている。また、脳はリアルタイムで処理するとともに、コンピュータに比べて、6けたも低い消費電力で動く。けた違いの(低い)消費電力を実現するために、オープンイノベーションを推進していく」などと語った。

 また、同社では、「NECは半世紀に渡る研究開発と技術蓄積により、AIを活用する基盤を有しており、今後、AI技術をさらに進化させてAI関連事業を強化し、社会価値創造を実現することに挑戦していく」と、今後、AI関連事業の拡大方針を示した。

大河原 克行