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富士通研究所、ソフトウェアだけで通信性能を大幅に改善する新技術を開発

日米間のファイル転送を30倍以上に高速化可能

 株式会社富士通研究所は29日、通信性能をソフトウェアだけで改善できる、新しいデータ転送方式を開発したと発表した。この技術を適用すると、ファイル転送や仮想デスクトップなどの多様なアプリケーションにおいて、通信性能を大幅に向上できるという。

 通信アプリケーションで標準的に利用されているTCPプロトコルでは、データ損失(パケットロス)が発生した場合にデータを再送するため、無線接続時や回線が混雑している場合など品質の良くない通信環境では、データ再送による遅延によって転送性能が大幅に低下する点が課題とされてきた。

 こうした課題を解決するためには、従来、ハードウェアベースの高価なネットワーク高速化製品を用いるアプローチが多く採用されていたが、今回は新たに開発した3つの技術を組み合わせることにより、ソフトウェアのみで課題の解決に成功したという。

 1つ目の技術は、UDPをベースに独自開発した効率的な再送方式を組み込み、パケットロス時のデータ再送の遅延を低減する新プロトコル。このプロトコルでは、消失したパケットと送信中でまだ相手先に届いていないパケットを高速に識別し、無駄な再送と遅延の発生を抑止可能にしている。富士通研究所では、これをUDP上へソフトウェアで組み込み、UDPの持つ高速性能を維持すると同時に、UDPの欠点であるパケットの消失と順序の逆転を回避して、パケット送達の遅延時間を改善した。

 これにより、標準的なTCPを利用する場合と比べて、日米間を想定したファイル転送で30倍以上のスループット向上を実現するほか、パケット送達時間に伴う操作の遅延時間を1/6以下に短縮する。

開発した新プロトコルの効果

 2つ目は、開発されたUDPベースの新プロトコルを用いた通信と、従来のTCP通信が混在する環境を最適化する技術。具体的には、ネットワークの空き帯域をリアルタイムに計測し、ほかのTCP通信の帯域使用率が低い場合はUDPの帯域使用率を増やす一方、TCP通信の帯域使用率が高くなった場合はUDPの帯域使用率を減らすことで、TCP通信が占める帯域を圧迫することなく、最適な通信帯域を確保する。

 3つ目は、既存のTCPアプリケーションを変更することなく、新プロトコルを適用するだけで、簡単にTCPアプリケーションの高速化を実現する技術。TCP通信を新プロトコルに自動変換する機能により、ファイル転送、仮想デスクトップ、Webブラウジングなど、さまざまな既存のアプリケーションに手を加えなくとも、性能を大幅に改善可能になった。

 これらの技術を組み合わせることにより、TCPアプリケーションの高速化をソフトウェアのインストールだけで簡単に実現できるほか、モバイル端末などへも容易に実装可能となる点が大きなメリット。さらに、前述のように日米間を想定した通信環境で大きな効果が得られていることから、今後普及が見込まれる国際回線や、無線回線を使ったさまざまな通信アプリケーションについても、快適な利用が見込まれているとのこと。

 富士通研究所が示した例によれば、モバイル環境におけるWebブラウジングを5倍高速化したり、国際データセンター間のデータ転送を30倍以上効率化したり、国際回線を利用した仮想デスクトップでの画面表示の遅延を1/6以下にしたり、といった効果が想定されている。

 なお同社では、既存のTCPアプリケーションを変更することなく通信を高速化する通信ミドルウェアとして、2013年度中に実用化することを目指し、研究を進めている。

本技術の利用シーン

(石井 一志)