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電通・電通デジタル・日立の3社、生成AI領域で戦略的協業 新プロジェクト「AI for EVERY」の立ち上げを発表

 株式会社電通、株式会社電通デジタル、株式会社日立製作所(以下、日立)は23日、生成AI領域で戦略的に協業していくことを合意し、生活者に寄り添った革新的な生成AIサービスの検討・提供を共同で行うプロジェクト「AI for EVERY」を立ち上げたことを発表した。同日には、3社のAIに関する取り組みや「AI for EVERY」のプロジェクト概要について共同説明会が行われた。

写真左から:dentsu Japan グロースオフィサー(特任執行役員)/エグゼクティブ・クリエイティブディレクターの並河進氏、電通デジタル CAIO(Chief AI Officer:最高AI責任者)兼 執行役員の山本覚氏、日立製作所 AICoE Generative AIセンター 本部長の吉田順氏

 「AI for EVERY」プロジェクトは、AI技術の開発・活用における3社の専門性をベースに、国内電通グループが有する生活者視点を取り入れた体験設計やクリエイティビティと、日立が蓄積してきた社会イノベーションにおけるDXの技術・ノウハウや実装力を掛け合わせたもの。B2B2C領域で生活者と企業、社会のより良い接点を構築し、人手不足や廃棄ロスなどの社会課題解決に貢献する生成AIサービスの実現を目指すという。さらに、生成AIサービスの提供を通じて、企業の売上向上にも寄与していくとした。

 説明会では、まず、「AI for EVERY」プロジェクトを立ち上げた3社それぞれのAIに関する取り組みについて紹介した。dentsu Japan(国内電通グループ)は、2016年にAIコピーライター「AICO」を発表して以来、9年以上におよぶAI活用の歴史がある。2022~2023年に生成AI活用が本格化してからは、AI関連ビジネスのペースを早めており、昨年には「AI For Growth」というAIビジョンを発表している。

「AI For Growth」の構成要素

 dentsu Japan グロースオフィサー(特任執行役員)/エグゼクティブ・クリエイティブディレクターの並河進氏は、「AI For Growthは、dentsu Japanが提供するサービスのすべてにAIを適用し、アップデートするための戦略的かつ包括的な活動となる。このビジョンでは、AIは単なる効率化ツールではなく、人間とAIがともに高め合うことで、“想像力”と“創造力”を拡張するものであると位置づけている。AI活用によって、生活者一人一人にもっと寄り添う想像力と、できなかったアイデアをかたちにする創造力をさらに広げていくことができると考えている」と述べた。

dentsu Japan グロースオフィサー(特任執行役員)/エグゼクティブ・クリエイティブディレクターの並河進氏

 AIに関する具体的な取り組み事例としては、マーケティング領域における「AIQQQ STUDIO」、創造力を広げる体験を提供するAI絵本「おぼえたことばのえほん」や生成AI活用ゲーム「Verse of Birth」、電通社内のクリエイティブR&D組織「Dentsu Lab Tokyo」、電通グループ全体でのAI人材育成チームのネットワーク化、東京大学との共同研究プロジェクト「Creative Intelligence」などを紹介した。

 電通デジタルは、クリエイティビティとテクノロジーを統合的に活用し、企業のあらゆるトランスフォーメーションを実現している。その中で、AIは、領域をまたいだ重要テーマを集中的に深掘りする「ストラテジックフォーカス領域」に含まれており、AIを活用した統合マーケティングソリューションとして「∞AI」(ムゲンAI)を提供している。

電通デジタルのAIソリューション「∞AI」

 電通デジタル CAIO(Chief AI Officer:最高AI責任者)兼 執行役員の山本覚氏は、「『∞AI』はデジタルマーケティングのAIエージェントであり、『∞AI Ads』、『∞AI Chat』、『∞AI Contents』、『∞AI Marketing Hub』などのソリューションで構成される。この中でも、デジタル広告の制作プロセスを効率化・最適化する『∞AI Ads』は、2022年のサービス提供開始以来、2024年までに127社に導入され、平均広告効果改善率は154%となっている。また、日立との取り組みでは、『∞AI Chat』と『∞AI Contents』を活用し、昨年9月に『Hitachi Social Innovation Forum 2024 JAPAN』で展示された日立市の魅力を伝える対話型AIを開発している」と説明した。

電通デジタル CAIO(Chief AI Officer:最高AI責任者)兼 執行役員の山本覚氏

 日立グループの生成AIの取り組みに関しては、日立 AICoE Generative AIセンター 本部長の吉田順氏が紹介。「当社では、生産年齢の減少、とくにフロントラインワーカーの減少による人材不足という社会課題を解決するために、社内で生成AIを徹底活用している。実際にシステム開発の全工程に生成AIを適用し、システム開発生産性の平均30%向上を実現した。また、AIエージェント時代に向けた取り組みとして、ITとOTの領域で形式知・暗黙知の両方を学習させたAIエージェントを組み合わせ、フロントラインワーカーの生産性向上を目指している。3月末からは、日立グループの数百の事例を活かした『AIエージェント開発・運用・環境提供サービス』を販売開始し、顧客専用のAIエージェントを迅速に提供している」とした。

日立 AICoE Generative AIセンター 本部長の吉田順氏

 「今後は、スマートな先進技術ではなかなか解決できない生活者の切実な問題や、スマートな先進技術が人々にもたらしてしまう新たな問題について示し、人間だけではできない、AIならではの人への寄り添い方を考えていく必要がある。しかし、これを1社で進めていくのは難しいため、パートナーとのエコシステムを構築。Lumadaアライアンスプログラムを通じて様々な強みを持つパートナーと連携し、生成AI活用による生産性向上やAIソリューション開発、人財育成でイノベーションを加速している。そして今回、当社と電通、電通デジタルの3社は、生活者に寄り添った革新的な生成AIサービスの検討・提供を共同で推進していくため、生成AI領域において協業を開始する」と、新プロジェクト「AI for EVERY」の立ち上げに至る経緯を述べた。

新プロジェクト「AI for EVERY」の概要

 「3社による協業展開にあたっては、toBビジネス領域で社会・産業を支えるインフラ・システムの構築・運用を強みとする日立と、toCビジネス領域で生活者の心を動かし、企業の事業成長・変革支援を強みとする電通および電通デジタルとで、お互いの強みが補完関係にあることを発見。生成AIを用い、社会・産業レイヤーから顧客体験レイヤーまで、一気通貫でのビジネス成長や人のウェルビーイング向上につながる支援が可能と判断した」と、3社が生成AI領域で戦略的に協業することのメリットを強調した。

 「AI for EVERY」プロジェクトでは、最適な顧客体験をデザインし実現する電通・電通デジタルの知見やノウハウと、国内外の多種多彩な領域でDXを実現してきた日立の技術力や開発力を掛け合わせ、社会全体の成長に貢献する新たなサービスを提供する。プロジェクトの第1弾として、日立の需給予測技術と電通・電通デジタルのUXデザイン・デジタル広告・サイネージ技術を掛け合わせた、流通業界向けの新サービス「今日の気まぐレシピ」の共同検討を推進していく。

 店舗では、季節・天候・需給状況・商品サイクルなど様々な要因に影響を受け、売れ残った食材が日々廃棄されている。そこで、「今日の気まぐレシピ」では、日立の在庫管理システムや需給予測・受発注システムを基に売れ残りそうな食材を高精度に予測し、電通のクリエイターの知見を学習した生成AIがその食材に関連するユニークなレシピやクーポンを生活者に提案する。さらに、電通デジタルが提供するデジタル広告における制作プロセスの効率化・最適化をサポートするソリューション「∞AI Ads」のノウハウを活用し、これらのレシピやクーポンを、販促素材として自動生成し、店舗のアプリや店頭サイネージなどで配信する仕組みを目指す。

「今日の気まぐレシピ」のシステム概要

 これによって、その瞬間に最適な情報を、アプリやデジタルサイネージなどを通して「売り場」の生活者に直接届けることが可能となり、生産者・流通事業者・生活者のそれぞれのニーズに合致した購買行動を促し、廃棄ロスの削減に貢献する。様々な要因で食卓にのぼることが難しかった食材にスポットライトを当て、店頭での「思いがけない出会い」を演出し、3社の新たなマッチングを創出していく。

 「AI for EVERY」プロジェクトでは、今後、「金融業界向けのAIエージェント・AIアバター」「生体認証・決済サービスやAIアバターを活用した人手不足対策」「NFTアートを活用した購入商品のサポート、リユース品の品質担保・流通」など、様々な分野に向けた生成AIサービスの検討も推進していく。