ニュース
アライドテレシス、京都大学と無線LAN最適制御技術を共同で研究開発
自律的に無線LAN環境を最適化
2016年8月29日 06:00
アライドテレシスと京都大学大学院情報学研究科 守倉研究室は25日、無線LAN最適制御技術「NetworkAI」を共同開発したと発表した。
NetworkAIは、無線LANアクセスポイント(以下、AP)を高密度に設置した際に、無線電波出力の調整や使用する周波数チャンネルを自動的に最適化する制御技術。
現在は、モバイルデバイスなどの普及に伴って無線LANを導入する施設が増えているが、施設内のどこにいても無線LANを使用できるようにするには、複数のAPを高密度に設置してカバー率を上げる必要がある。しかし、狭い範囲内で複数のAPが設置されている場合、隣接した(エリアの重なっている)AP同士が干渉して通信速度の低下や接続が不安定になることがある。
高密度にAPを設置した環境で干渉状態を改善するには、これまで、サイトサーベイ(電波調査)などの調査を実施した後、隣接するAPとチャンネル変えたり、各APの電波出力を調整して各APのカバー範囲を調整したり、といったパラメータの最適化設定を専門的な知識をもったエンジニアが実施するケースが一般的で、設置後の初期設定やメンテナンスに時間やコストがかかっていた。
今回発表されたNetworkAIは、無線ネットワーク内のすべてのAPを一元的に管理するコントローラ「AT-Vista Manager」が、サイトサーベイすることなく、管理下にあるAPの観測情報をもとに自律的にネットワーク全体APの電波出力とチャネルを調整して最適化する仕組みだ。無線LANに関する技術的な知識のあるエンジニアがいなくても、高密度な無線LANネットワークを構築することができるという。
無線LANネットワークを自律的に最適化する仕組みは、いくつかのベンダーで試みられているが、NetworkAIの特徴は最適化のアルゴリズムにゲーム理論を用いる点にある。
10年程前から無線通信の最適化について研究を進めてきたという京都大学 大学院 情報学研究科 准教授の山本高至氏は、「経済学などでよく使われるゲーム理論は、無線通信の分野にも使える」と述べる。
無線通信におけるゲーム理論では、各通信の品質は他の通信が設定するチャンネルに依存し、自通信のチャンネルのみ変更可能な場合、どのチャンネルを選択すべきかを判断するというもの。この無線通信におけるゲーム理論に基づいて、無線ネットワーク全体で最適なパラメータを自動的に設定することができる。
また、最近ではモバイルルータやスマートフォンのテザリング機能などを利用する人も増えたため、自分たちが管理している無線LAN以外のいわゆる「野良AP」が原因で干渉が発生するケースも多い。しかし、ゲーム理論を応用したNetworkAIは、他の通信により通信の品質が低下しても、自通信のチャンネル設定を変更して対応することができるという。
一方では、壁や障害物によって施設内の無線LANのカバー率が低下しないよう、施設内に高密度にAPを配置する場合、どうしてもAP同士のカバー範囲がオーバーラップしてしまう問題がある。
そこでNetworkAIでは、APの観測情報から高いカバー率を確保しつつ、APの電波出力を自律的に調整できるようになっている。山本氏によると、「各APは、少なくとも1つの他のAPのカバー範囲にあること」という電波出力の低減条件を満たすように調整することで、サイトサーベイによらない電波出力調整が可能になるという。
アライドテレシスでは、NetworkAIの機能をネットワーク管理ソフトウェア「AT-Vista Manager」に組み込む予定であるという。NetworkAIによる無線LAN環境の最適化は、IEEE 802.11acおよび従来規格に対応し2.4GHz帯と5GHz帯を同時使用が可能なAP「TQシリーズ」を利用する必要がある。
なお、既存のTQシリーズのAPもファームウェアアップデートで対応することが可能になる。提供は2017年度を想定しており、2022年までのAP出荷台数を2015年度の実績比から500%成長を目指すという。
さらに今後は、電波出力を調整した際に不要と判断したAPの電源を自動的にOFFにして予備機とし、他のAPが故障した際に代替機として自動的に電源をONにする冗長構成の仕組みも提供予定となっている。
また、AT-Vista ManagerとSDNソリューション「AMF(Allied Telesis Management Framework)」を組み合わせることによって、有線/無線を問わずネットワーク環境全体をセキュアに管理できる仕組みを提供していくという。