クラウドビジネスの進化を、マイクロソフト・樋口泰行社長に聞く

~CRMオンライン分野での首位奪取を宣言


 「『The Microsoft Conference+Expo Tokyo』で、マイクロソフトが最も訴えたかったのは、クラウドに真剣になって取り組んでいること、そして、パートナーとの信頼関係によってクラウドビジネスが推進できる体制が整ったことの2点」――。

 マイクロソフトの樋口泰行社長は、11月25日・26日の2日間、東京・芝公園のザ・プリンス パークタワー東京において開催した「The Microsoft Conference+Expo Tokyo」の狙いをそう語る。

 一方、クラウドビジネスにおいては、「小口商談を重視し、件数にこだわっていきたい。さらなる体制強化を進め、マイクロソフトがクラウドに本気であることを定着させたい」とする。マイクロソフトの樋口社長に、同社のクラウドビジネスへの最新の取り組みについて話を聞いた。

 

就任以来の開催で「クラウドへの本気度」を示す

マイクロソフトの樋口泰行社長
2008年4月の開催以来、2年半ぶりの開催されたMicrosoft Conferenceの受付の様子

――11月25日・26日に開催したThe Microsoft Conference+Expo Tokyoは、2008年4月の開催以来、実に2年半ぶりの開催であり、樋口社長の社長就任時以来の開催ですね。なぜ今年、Microsoft Conferenceを復活させたのでしょうか。

樋口社長:2010年3月に、(米本社)CEOのスティーブ・バルマーが、Microsoftはクラウドビジネスに本気になって取り組むことを宣言しました。

 以前からのS+S(ソフト+サービス)というメッセージを、さらにわかりやすく訴求するために、クラウドという表現を前面に打ち出すようにした。そうしたなかで、マイクロソフトはクラウドに対して、ここまで本気なんだということを今回のMicrosoft Conferenceで訴求したかった。

 もうひとつの側面は、クラウドビジネスにおいて、ぜひマイクロソフトと手を組んでいただきたいという、パートナーに対するメッセージを明確に打ち出したことです。マイクロソフトのクラウドに対する本気ぶりと、クラウドに関しても、Microsoft Online ServicesやAzureだけでなく、2011年1月に市場投入するMicrosoft Dynamics CRM Onlineや、ベータ版を配布しているOffice365など、これだけの製品がそろったということを知っていただき、パートナーのビジネスにも大きく貢献できるという事実をお伝えしたかった。

 そして、もうひとつ付け加えるとすれば、10月に日本でセールスフォース・ドットコムが開催したイベントを意識したという側面もあります。

――確かに、10月には今回会場となったザ・プリンス パークタワー東京の同じスペースで、セールスフォース・ドットコムもイベントを開催しました。今回の基調講演のなかでは、セールスフォース・ドットコムに限らず、競合他社との比較が随所にありました。その点では、日本法人が開催するイベントとしては異例の内容に感じましたが。

 基本的には、パートナー、ユーザーの声として、競合他社に比べたメリットを訴求していただきました。製品、サービスの違いをご理解いただき、そして、柔軟性やコストメリットでの優位性については、「感動した」という言葉もいただいている。われわれにとっても大きな自信になります。確かにご指摘のように、日本法人として、ここまで競合他社との比較を打ち出した例はないでしょう。

 しかし、最近の競合他社のコメントがかなりマイクロソフトを意識したものになっており、それに対して、当社からもメッセージを出す必要があるだろうという判断と、米国では比較する手法が定着しているという延長線上で、今回は意識的に競合他社との比較を打ち出しました。マイクロソフト日本法人としても、それだけの意志をもって開催したイベントであるというわけです。

 

パートナー連携が基軸になった“盤石”なクラウド戦略

マイクロソフトのクラウドソリューション

――現時点でのマイクロソフトのクラウドビジネスをどう自己評価していますか。

 マイクロソフトのクラウド戦略は盤石な体制を整えていると感じています。もちろん、ひとつひとつの部品という形でみれば、他社に遅れているものもある。しかし、トータルのシナリオでとらえれば、他社にはないものが構築できている。その最大の要素が、パートナーとの連携です。マイクロソフトのビジネスはパートナー連携が基軸となっています。そこで一緒にビジネスをするための信頼関係ができあがっています。

 現在、国内においては、650社のクラウドパートナーがあり、これらのパートナーがそれぞれに得意とする分野において、協業を図っている。まだまだ改善し、広げていかなくてはならない部分もありますが、クラウドで成長していくというところで同じ方向感を持ったパートナーがこれだけ多く存在し、連携している強みは他社にはないものです。

 私は社長に就任して以来、信頼されるマイクロソフト、顔が見えるマイクロソフトを目指してきた。2年以上に渡る活動を経て、マイクロソフト社員の人間力をあげ、パートナーとの信頼を築くための努力をしてきた。正直なところ、クラウドビジネスに対する不安は、多くのパートナーに共通したものでしょう。本当に採算がとれるのかといった心配もある。

 しかし、これを精緻(せいち)に分析してから始めては、明らかに遅れが出てしまうというのも、パートナーに共通した認識です。まずはやってみなくてはならない。そのためには信頼できる製品、技術、そして社員を持ったパートナーが必要になる。そこにマイクロソフトの存在を認識していただけているのでないでしょうか。お互いに信頼が生まれていないと、新たなところにはとても踏み込んではいけません。

 マイクロソフトの既存の技術やノウハウ、資産を利用しながら、クラウドの世界へと踏み出していけること、オンプレミスとクラウドとの連携製品を用意しており、いつでもクラウドへと移行でき、場合によってはオンプレミスへ戻れるという提案も、他社にはないものです。

大きく育つ可能性がある、クラウドビジネスでは商談の数を重視

――クラウドビジネスにおいては、売り上げ規模よりも、商談の数を重視しているようですね。

 まずはパイロット的に10ユーザー、20ユーザー単位でクラウドを導入するという動きが増えています。小さな導入でもイメージをつかんでもらうことができるのがクラウド・コンピューティングの特徴でもあります。つまり、小口商談をきっかけにして、そこから大きく広がっていく可能性がある。ですからいまの段階で、商談の数というのは重要な要素です。

 これは逆にいえば、マイクロソフトのオンプレミス環境で利用しているユーザーに対して、他社に小さなところからクラウドで入り込まれると、同じように突破されてしまうことにもなりかねない。この点を留意しておく必要があります。中堅・中小企業のビジネスではパートナーとの連携が中心となる。急がば回れで、まずパートナーとの連携を強化することが、商談の数を増やすことにつながります。

 

Dynamics CRM Onlineも提供

――いよいよMicrosoft Dynamics CRM Onlineの投入を明らかにしました。発表時点での体制は万全といえる状況ですか。

Microsoft Dynamics CRM Online

 Microsoft Dynamics CRM Onlineは、オンプレミスよりも、先にオンライン版を提供した初めての製品であり、ここでも、マイクロソフトがクラウドに本気であることを感じてもらえるのではないでしょうか。そして、オンプレミスとの連携提案も行え、Office連携というメリットもある。何年か先には、CRMオンラインプロダクツにおいて、トップに立つことを目指します。

 ただ、体制については、正直なところ、まだ十分ではないという反省もある。オンプレミスとオンラインの双方に強いパートナー、業務システムに詳しいパートナーに、このビジネスにもっと参加していただきたいと考えている。2011年1月の出荷開始までもう少し間がありますから、それまでにさらにパートナーとの連携体制を強化したいですね。


――日本マイクロソフトへの社名変更まで、あと2カ月ですね。

 これまでの3年間で目指してきたものに対しては、100点満点とはいえませんが、ある程度、形になってきたといえます。クラウド戦略についても、製品、サービス、技術、パートナー支援という形で、さまざまな手を打ってきた。そうした活動成果を地盤にしながら、2011年2月1日の社名変更、新本社への移転、そして25周年の節目に向けて、社員の意識をさらに高め、パートナーとの信頼関係をより強固なものにしていきたいと考えています。

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