Intel EPTやAMD RVIに対応したXen 3.3ベースのXenServer 5.5をみる
5月に米国で開催されたCitrixのカンファレンス「Citrix Synergy 2009」において、サーバー仮想化ソフトの最新版「XenServer 5.5」と「Citrix Essentials for XenServer and Hyper-V(XenServer 5.5ベース)」が発表された。正式版のリリースは7月ごろになる予定で、現在ベータ版が公開されている。
今回は、Synergy 2009で発表されたXenServer 5.5のほか、関連情報などを紹介する。
■Xen 3.3ベースになったXenServer 5.5
XenServer 5.5で追加された機能。もちろんXenServer 5.5も無償で提供される |
Citrixは、2009年2月に管理ツールのXenCenter、ライブマイグレーション機能のXenMotionなどが入ったXenServer Enterprise Editionの無償化を発表している(ダウンロードは3月31日から)。
今回発表されたXenServer 5.5は、無償化されたXenServerの最新版で、管理ツールなどの機能が強化されている。ただし、ハイパーバイザーであるXen自体は、コミュニティで公開されている最新のXen 3.4ではなく、Xen 3.3が使われている。
ハイパーバイザーのXen 3.3は、CPUの仮想化機能(Intel VT、AMD-V)以外に、第二世代の仮想化支援機能であるIntel EPTやAMD RVIに対応しているのが特長だ。
XenServer 5.5で強化された機能としては、管理ツールから個々の仮想環境のバックアップを一括して行えるようにAPIが新設された。この新しいAPIにより、バックアップソフトを開発しているソフトメーカーは、自社のバックアップソフトをXenServerの管理ツールであるXenCenterにスナップインすることができる。これにより、XenCenterでは仮想環境のバックアップを含めた管理が可能になる。
また、VMwareの仮想ディスクフォーマット「VMDK」をXenServerやHyper-VのVHDフォーマットに変換できるようになった。これにより、VMware環境で動作している仮想環境をXenServerに簡単に移行することが可能になった。
そのほか、新しいXenConvert Toolsは、OVF(Open Virtualization Format)、OVA(Open Virtual Appliance)、XVA(XenServer Virtual Appliance)をサポートしており、それぞれのフォーマットに簡単に変換できる。これにより、それぞれの仮想ディスクを変換して、XenServer上で使用することができる。
■管理性能も向上
XenServer 5.5では、仮想マシン名などの検索機能が強化されている。多数の仮想サーバーを運用している場合、仮想マシンの数が多くなり、どのサーバーにどの仮想マシンが動作しているのかわからなくなる。また、ライブマイグレーション機能を使うと、さらにどのサーバーに、どの仮想マシンが動いているのか、ひと目で把握しきれなくなる。そこで用意されたのが、仮想マシンの検索機能だ。
仮想マシン名、リソースプール、ロケーション、サーバー、ストレージリポジトリなど、さまざまなキーで検索できるようになった。機能としては地味だが、膨大な数の仮想マシンを運用していくと、こういった機能が便利になる。
また、XenServer 5.5は、WindowsのActive Directoryに統合されている。この機能により、仮想マシンのプールごとに、認証に使用するActive Directoryを指定することが可能になった。Windowsサーバーを仮想マシン上で動かすときに、運用が簡単になる。
このほか、ゲストOSとして、SUSE Linux Enterprise 11、Debian 5.0、Red Hat Linux/CentOS/Oracle Enterprise Linux 5.3などが正式サポートされた。
■高度な管理機能を提供するEssentialsも強化
Essentialsも、いくつかの新機能が追加されている |
Citrix Essentials for XenServer and Hyper-V(以下、Essentials)でもいくつかの機能が強化されている。ちなみに、Essentialsには、XenServerとHyper-Vの2種類の製品向けが用意されている。Essentials for XenServerは無償のXenServerに対して、より高度な管理機能やストレージ統合機能を実現する製品。一方、Essentials for Hyper-Vは、Hyper-Vに対して、Essentialsが持つ高度な管理機能を提供する。
・新しいStorageLinkのサポート
StorageLinkは、複数のストレージをXenCenterから一元的に管理可能にするもの。StorageLinkを使えば、複数のストレージに分散している仮想マシンを再配置したり、ストレージシステム自身が持っているスナップショットやレプリケーション機能をXenServerで利用できるようになる。
新しいStorageLinkでは、HPのMSAとEVA、EMCのCLARiiON、NetAppなどの各ストレージが持っている機能が利用できるようになった。これにより、各ストレージシステムが持つ高度なプロビジョニング機能、レプリケーション機能が利用できる。
・Dynamic Workload Balancing
Essentialsでは、ゲストとホストのパフォーマンスを測定して、どのホストに仮想マシンを配置すればいいのかをアドバイスしてくれる機能が搭載されている。これにより、管理者は、仮想サーバーファーム全体でバランスのとれた運用が行える。
・Automated Stage Management
以前のEssentials for XenServerでは、Lab Managerという機能が提供されていた。この機能は、仮想環境の準備から配置、テスト運用、実運用までのライフサイクルをサポートしていた。Automated Stage Managementでは、この機能をより強化して、テスト環境から実運用までだけでなく、実運用下でのパフォーマンスの拡張から縮小までの、仮想環境をゆりかごから墓場までの一生を面倒みるライフサイクルマネジメントソフトだ。
StorageLinkは、ストレージシステムと仮想サーバーの間に入って、ストレージシステムの性能を引き出す機能を持っている | Dynamic Workload Balancingは、ライブマイグレーションの機能を強化する | Automated Stage Managementは、仮想環境を作成してから、いらなくなるまでを管理する。これにより、仮想環境のライフサイクルマネジメントが可能になる |
■Amazonのクラウドサービスに利用されるCitrix Cloud Center
Amazonのクラウドサービスで使用されるCitrixのCS3 |
Synergy 2009では、Citrix Cloud Center(以下、C3)というものがアナウンスされた。これは、XenServerなどをインフラにして、CitrixのNetScalerなどを組み合わせて、クラウドサービスを行う事業者に提供されるクラウドプラットフォームだ。
Synergy 2009では、Amazon Elastic Compute Cloud(EC2)、Amazon Simple Storage Service(S3)がC3プラットフォームを採用すると発表された。現在、Xenベースでクラウドサービスを提供しているAmazonが一気にCitrixのプラットフォームベースへと移行する。
これにより、単にサーバーのプラットフォームが変わるだけでなく、将来的にはCitrixのXenDesktopを利用したVDIシステムがAmazonから提供されるかもしれない。
■デスクトップPC向けのハイパーバイザー「XenClient」も登場
XenClientは、CitrixとIntelの共同プロジェクトだ。将来的には、デスクトップPCだけでなく、ノートPCでも仮想化が利用できるようになる |
Synergy 2009では、今年の1月に発表されたクライアントPCにおけるハイパーバイザー型仮想化ソフト「XenClient(旧、Project Independence)」のデモも行われた。XenClientは、サーバーでの仮想化ソフトと同じように、ハイパーバイザー型の仮想化を実現するものだ。
今までのクライアントPCの仮想化は、動作しているOSの上に仮想化ソフトをインストールするホスト型がほとんどだった。しかし、XenClientは、ハイパーバイザー上に複数の仮想環境が構築できるようになっている。これにより、ユーザーは、複数のOSを自由に利用することができる。また、パフォーマンスもサーバーにおける仮想化のように、高いパフォーマンスを示す。
クライアントPCの仮想化において重要なのは、グラフィックカードの仮想化だ。XenClientでは、グラフィックカードの仮想化をサポートすることで、複数のOSからグラフィックカードの機能が利用できる。つまり、Windows VistaのAero UIを使いつつ、別の仮想マシンではDirectXベースのゲームソフトを動かすといったことができる。
Citrixでは、XenをベースにしてXenClientを開発しているため、XenClient自体も無償で提供すると発表している。XenClientのリリースは、2009年末となっている。今年の後半になれば、ベータテストも開始されるだろう。ちなみに、Xen.orgには、Xen Client Initiative(XCI)という名称で、XenClientの開発が進んでいる。XCIは、ベータ版にも届いていないが、ソースコード自体はダウンロードできる。
■Citrix Delivery Centerに対応したフロントエンドソフト「Dazzle」
このほか、Synergy 2009では、Citrix Delivery Center(アプリケーションやデスクトップの仮想化ソリューション)に対応したフロントエンドソフトとして「Citrix Dazzle」というものが発表されている。Dazzleは、WindowsとMacに対応していて、グラフィカルな画面でユーザーが簡単に仮想化されたアプリケーションを検索したり、使用したりすることができる。
また、DazzleのベースとなっているCitrix Receiverは、WindowsやMacだけでなく、iPhoneやAndroid携帯に移植されている。このため、iPhoneやAndroid携帯を端末としてサーバーに置かれているアプリケーションを使用することができる。
Dazzleは、アプリケーションを配信するための新しいフロントエンドシステム | Windows版のDazzleの画面 | Dazzleの基盤となっているCitrix Receiverは、iPhoneでも動作する。ユーザーはPCだけでなく携帯電話でもサーバーにあるアプリケーションが利用できるようになる |