Virtual Serverで見せたマイクロソフトの意外なマーケティング戦略



 マイクロソフトが12月1日からVirtual Server 2005の国内出荷を開始した。

 これは、先に出荷しているVirtual PCと同じく、昨年、マイクロソフトが買収したConnectixが開発したソフトだ。話題としては、Macintosh上でWindowsのアプリケーションを動作させることができるVirtual PCに注目が当たりがちだが、マイクロソフトの戦略は、むしろVirtual Server 2005にフォーカスが当たっているといっていい。いや、Connectix買収の本当の狙いは、Virtual Server 2005をいかに手に入れるかという点にあったというのが多くの関係者に共通した意見だ。

 その点でも、Virtual Server 2005の出荷は、まさに戦略的要素を持った製品だといっていいだろう。


NT 4.0からの移行にターゲット

Virtual Server 2005

 Virtual Server 2005の最大の狙いは、Windows NT 4.0ユーザーの移行にあるというのは明らかだ。

 昨年12月でサポートが切れたWindows NT 4.0は、国内だけでも、依然として約30万のユーザーがあるといわれ、この移行措置は、ユーザー企業にとっても、マイクロソフトにとっても大きな課題となっている。

 Virtual Server 2005を利用することによって、Windows Server 2003上に、NT 4.0で動作しているアプリケーションを移行することが可能となり、NT 4.0からのマイグレーションを促進することになる。

 日本では、VMwareを利用しているユーザー企業もあるが、マイクロソフト自らがバーチャルマシンソリューションの提供を開始したことで、こうした利用とNT 4.0からのマイグレーションが加速されるのは明らかだ。

 また、ハードウェアのリプレースにも、Virtual Server 2005を活用するという動きが見られている。

 高性能で低価格の最新のハードウェアを利用しようとしても、OSやアプリケーションの制約に縛られて移行できないといった問題はユーザー企業の間ではよく見られている。それどころか、ハードウェアリソースを増強する際に、性能が低く、価格が高い旧式のハードウェアを調達することを余儀なくされ、導入コストを不用意に高めているという例もあるほどだ。

 その際に、OSやアプリケーションの制約にとらわれずに、最新のハードウェア環境に移行することができるツールがVirtual Server 2005ということになる。結果として、導入コストや運用コストの削減につながるというのがマイクロソフトの説明だ。

 「ハードとソフトの入れ替えのタイミングは、一致することの方が少なく、むしろ、寿命が長いソフトウェアによる制約を、ハードウェア側が受けることが多い。これがユーザー企業における情報システムの将来のロードマップに悪影響を及ぼしている」というわけだ。

 Virtual Server 2005によって、この点での解決をはかれるという。


異なるOS上でのサーバー統合を実現

 もちろん、サーバー統合という用途での利用も多くのユーザーが想定する活用方法だ。

 Virtual Server 2005では、1台のサーバー上で、複数のOSを実行することができ、さらに、それぞれのOSが独立したコンピュータとして稼働するため、複数のOSにまたがるアプリケーションを1台のコンピュータで利用することができる。

 これによって、ハードウェアリソースの有効活用、管理工数の削減、ネットワーク負荷の低減、省スペース化などのコスト削減が可能になるのだ。

 現在、マイクロソフトでは、動作可能なOSとして、Windows Server 2003、Windows 2000 Server、Windows NT Server 4.0の3つのOSを保証対象としているが、実は、そのほかには、x86ベースのOSであればほとんどの動作が可能といえる。

 まだ、正式サポートを表明していないWindows XPはもとより、Red Hat Linux、SUSE LINUX、Turbolinux、X86対応Solaris、OS/2など、多くのOSが、保証はしないが動作することが可能だ。

 バージョンが異なるWindowsだけでなく、LinuxやUNIXまでが、ひとつのサーバー上で、動作させることが可能であるため、サーバー統合のメリットも大きい。

 開発者のなかには、複数のOSに対応したアプリケーションソフトをひとつのサーバーで管理したり、異なるOSごとの同一アプリケーションのデモンストレーション環境を、1台のサーバーで実現するといった使い方も見られるという。


マイクロソフトが仕掛ける意外な利用

 こうしたリホスティングや、サーバー統合というのが一般的に考えられるVirtual Server 2005の利用方法だが、実はマイクロソフトでは、最も多い導入理由は、こうした使い方ではないと想定している。

 最も多いと見ているのが、ソフトウェアの開発/テスト環境の構築に、Virtual Server 2005を利用するという使い方だ。

 情報システム部門が、社内に混在する異なるバージョンのOS上で、アプリケーションが不具合なく動作するかどうかを検証する環境を、本番システムと隔離した環境で実現するためにVirtual Server 2005を利用するというのだ。

 例えば、Virtual Server 2005に搭載しているバーチャルディスク機能では、Windows 2000 ServerのSP1、SP2、SP3といったように差分ファイルごとに複数の子ディスクを作成できることから、それぞれのOS環境でのテストを繰り返し行うことができる。それぞれにサーバーを用意しないで済むために低コストで構築できること、また差分だけの入れ替えで済むことから、短期間にこうしたテスト環境が構築できるといったメリットがある。

 Virtual Server 2005のこうした使い方に目をつけ始めた情報システム部門の担当者が増えてきたとマイクロソフトでは説明する。

 しかも、3月31日までは、MSDNの会員に対しては、無料でダウンロード提供されており、手軽に入手できる環境があることもこれを後押ししている。

 実は、この無料ダウンロードの数も、マイクロソフトの予想を上回る実績で推移しているという。


店頭でも展示販売するVirtual Server 2005

 さらに、Virtual Server 2005では、驚くべき取り組みを開始している。

 それは、カメラ量販店やパソコン専門店の一部で、Virtual Server 2005を店頭展示して販売するといった動きが出ていることだ。

 4CPUまでのStandard Editionで、9万9800円という店頭で取り扱える価格帯であることもその要因のひとつだが、情報システム部門の担当者などが、テスト環境の構築ツールとして、あるい今後想定されるサーバー統合用のツールとして、店頭で購入していくという例が見られているのだという。

 とくに、これからは企業の期末需要を控えていることから、情報システム部門の予算消化の緊急措置として、Virtual Server 2005を店頭で購入していく例が増加すると販売店でも期待しているのだ。

 マイクロソフトでも、こうした動きに呼応して、店頭展示用のPOPを用意するという周到ぶりを見せている。

 こうしてみると、Virtual Server 2005は、リホスティング、サーバー統合という想定される利用シーンに加えて、テスト環境での活用や、店頭での取り扱いなど、マイクロソフトならではのマーケティング力が久しぶりに発揮された製品だということもできそうだ。

関連情報
(大河原 克行)
2005/2/8 00:00