日本IBMが取り組むレガシーマイグレーション戦略の成果



 2004年の1年間を見ても、同社のレガシーマイグレーションの実績は、i5シリーズ(i-Series)だけで100件を優に超えており、むしろ、年を追うごとに増加傾向にあるともいえる。

 そのレガシーマイグレーション戦略の原動力となっているのが、クロス・ソリューション事業部の存在だ。同部門は、メインフレームからのレガシーマイグレーションおよびUNIXシステムからのUNIXマイグレーションの戦略的組織であり、ここを通じて、ユーザー企業に向けたさまざまな仕掛けが行われている。

 同組織の下に、UNIXマイグレーションセンター、統合システムセンターという2つのマイグレーション戦略の前線部隊を置き、ここが実際に仕掛けを行う体制だ。


レガシーマイグレーションで成果をあげる理由

システム製品事業クロス・ソリューション事業部・三瓶雅夫事業部長

 「なぜ、IBMがレガシーマイグレーションで実績を積み重ねているのか。それにはいくつかの理由がある」と切り出すのは、日本IBMのシステム製品事業クロス・ソリューション事業部・三瓶雅夫事業部長。

 三瓶事業部長は、その理由について、ひとつずつ説明する。

 「まずひとつめが、レガシーマイグレーションおよびサーバー統合の効果を、ユーザーに対して的確に提示することができる点だ」と語る。

 ユーザー企業では、運用コスト拡大の解決手法として、あるいは高まるコスト削減要求への対処といった観点から、サーバー統合やレガシーマイグレーションなどの検討を開始しているが、その導入効果がわからなかったり、移行にどれだけの費用と期間がかかるのかが算出できない、という問題に直面する例が多い。ましてや、レガシーで構築された既存システムを本当にオープン環境に移行できるのか、といった疑問もあるだろう。

 これに対して、日本IBMでは、まずはサンプルコンバージョンサービスを用意し、実際にオープン環境に移行した場合に必要となる期間、費用、そして導入効果を測定する。しかも、これらは無償で提供するという。

 他社でも同様の移行効果測定サービスを提供している例もあるが、多くは自社のプラットフォームから自社への乗り換えであり、他社からの乗り換えは対象とはなっていない。さらに、コンサルティング会社やソリューションベンダーが提示するマイグレーション測定では、数カ月間の期間を要することが多いが、日本IBMの場合は約3週間でこれを提示することが可能だという。

 「半年も立てば、新たなハードとソフトが出てくる。数百万円をかけて、測定したのに、結果が出る頃には次のハードが市場に投入されていたというのでは意味がない」というのもうなづける。その点でも、IBMのサンプルコンバージョンサービスの存在は大きな武器になっているといえよう。


 短期間での測定を可能にする背景には、Zodiacと呼ばれる同社独自の資産がある点が見逃せない。これを利用することで、短期間での測定と提案が可能だという。

 Zodiacは、ITインフラの最適化のためのコンサルティング手法と位置づけられるもので、現在のIT資産について調査するとともに、IBMのプラットフォームに移行した場合の効果を推し量る。投資コストのほか、現行システムにかかる運用コストと、統合後のシステム運用コストを、四半期ごと、あるいは累計経年コストで比較し、もっとも効果が期待できる部分からのマイグレーションの提案を行うという。

 「現状把握」、「アイランド分析」、「戦略的分析」、「サーバー統合案の確立と戦略的分野の提言」という4つのステップによって、PCサーバー、UNIXサーバー、メインフレームなどが混在したシステムでのソリューション提案が行われる。

 「コストを3割下げたいというユーザーに対して、2割のコスト削減しかできないプランを提案しても仕方がない。さらに、昨年導入したばかりのサーバーを捨てずに活用する手法、社内のスキルセットが及ばないプラットフォームへの移行の回避、どこから手をつけるとマイグレーション効果が高いのか、といった点までを考慮したレガシーマイグレーションの提案ができる」という。

 レガシーマイグレーションの敷居を下げる施策が用意されている点は、同社の戦略推進上、見逃せない要素だろう。


POWER5の搭載がマイグレーション戦略を加速

 2つめのポイントとして、三瓶事業部長が掲げるのが、レガシーマイグレーションに適した環境が、同社プラットフォームに用意されている点だ。

 例えば、i5シリーズには、他社製メインフレームからのコンバージョンツールが約150種類も用意されており、こうしたツールを利用することによって、短期間に低コストでの移行が可能となる。

 また、i5シリーズでは、ロジカルパーティショニング技術の採用などによって、同一筐体内に複数のOSを稼働させることができるほか、既存資産を稼働させながら、新規アプリケーションの開発、テストなどが行える。

 さらに、POWER5による高性能化によって、高速処理のほか、省スペース化、省電力化に加え、CPU数の削減によって、ソフトウェアライセンス契約数を減らすことができるといった、コスト面でのメリットも実現できるという。

 「POWER5になったことで、可用性の向上といった点でもユーザーにメリットを享受できる。また、ハードウェアに対する将来のコミットも明らかにしており、その点でも当社のプラットフォームを長期間にわたって安心して活用してもらうことができる。これも、当社のレガシーマイグレーションに関心が集まる理由のひとつだろう」と話す。

 そのほか、国内22社のマイグレーションパートナーによる移行支援体制を構築している点も、同社のマイグレーション戦略を後押ししている。

 同社はマイグレーション戦略を、COBOLからCOBOLへの移行によりダウンサイジングを図る「リ・ホスティング」、ユーザーインターフェイスのWeb化による「リ・フェイシング」、COBOLからJavaへの移行をはじめとする開発言語の置き換え、あるい言語特性にあわせた開発による「リ・ライティング」、そして、全面的な再構築となるリ・ビルディングの4つに分類する。

 リ・ビルディングの案件は少ないが、それ以外の案件は確実に増加傾向にある。

 「ユーザー企業に共通している課題は、ビジネス変化への対応に遅れないこと、ITコストの削減要求に対応すること、アプリケーションサーバーで20%、データベースサーバーで30~40%といわれるリソースの使用率をいかに引き上げるかという点、そして、ITインフラをさらにシンプル化していこうという動きだ。言い換えれば、サーバー統合やサーバーマイグレーションが、ユーザーの最大の関心事であるともいえる」と三瓶事業部長は語る。

 ユーザーの関心が高い分野に対して、日本IBMは、POWER5という新たな武器と、それを取り巻くZodiacなどのツール、コンサルティングサービス、そしてパートナーとの協業体制を構築している。だからこそ、日本IBMのレガシーマイグレーション戦略が、自然と加速することになるのだ。

関連情報
(大河原 克行)
2004/12/22 13:49