「富士通のDNA」とはなにか?



48時間の高温検査の様子

 最近、富士通の幹部から、「富士通のDNA」という言葉が頻繁に聞かれるようになった。その言葉どおり、そこには、富士通が遺伝子として持つ、欠かすことができない特徴があるというのだ。

 では、富士通のDNAとはなにを指しているのか。これは一言でいえば、物づくりの強みのことを指している。ハードウェア、ソフトウェアの2つの側面から徹底した物づくりを推進することが、富士通が持つDNAだというのだ。

 実際、昨年秋に、サーバーの生産拠点である石川県の富士通ITプロダクツを訪れて、その徹底した生産体制の構築ぶりには驚いた。例えば、ストレージのETERNUSシリーズに関していえば、ストレージを受け入れた時点で、5度から37度のエージング検査を全量で実施するのを皮切りに、オン・オフの繰り返し試験、電圧マージン、温度マージン試験、48時間の高温検査を実施。そして、ユーザー構成に組み上げた後に、さらに試験を行うという徹底した検査体制を敷いている。ストレージや大型サーバーでは、手番の約8割が試験工程というほどの徹底ぶりなのだ。

 「ETERNUSでは、これまで決定的ともいえるトラブルはゼロ」と同社幹部がいうのも、こうした徹底した試験を繰り返す生産体制が背景にあるからなのだ。ここに富士通のDNAの一端がある。


開発におけるDNAとは?

 もちろん、富士通のDNAは、生産拠点における「物づくり」だけに留まらない。

 開発面でもそのDNAは受け継がれている。

 昨年7月に、富士通が行ったプラットフォーム事業の戦略説明会の席上、同社サーバーシステム事業本部長・山中明経営執行役は、「富士通は、国産メーカーで、唯一、プロセッサとサーバーを自社開発できるベンダーである」とコメントしたが、これも富士通が物づくりで威力を発揮できるDNAを持っていることを示す自負の表れだ。

 実際、富士通には、メインフレームで培った高信頼性技術と、スーパーコンピュータで蓄積した高速化技術。さらに、半導体分野においては、90nmプロセス技術、10層の銅配線技術およびLow-Kと呼ばれる低誘導体層間絶縁膜技術、高集積技術、低消費電力技術などを持ち、これらが、オープン環境の製品にも生かされ、他社との差別化になっている。

 一例をあげれば、UNIXサーバーであるPRIMEPOWERでは、自己診断による予兆監視機能や局所的電源切断機能、故障箇所自動切り離し機能などのメインフレームで培った技術を採用することで、連続運転を実現することに成功しているのだ。

 もちろん、これらの技術は、この春に投入が予定されている基幹IAサーバーにも惜しみなく投入されている。

 詳細に関しては、まだ明らかにはされていないが、この基幹IAサーバーには、90nmプロセス技術を利用して独自に開発したチップセットを採用したほか、メインフレームの半導体開発で培ったノウハウをつぎ込むことで信頼性を高めているという。

 また、筐体内は、ケーブルレスともいえるような内部配線構造を採用することにより、同様に信頼性の向上に結びつけたほか、加工工数の削減やリードタイムの短縮といった効果を生んでいるという。

 こうしたコスト削減効果も、物づくりのDNAがなせる技だ。

 基幹IAサーバーとPRIMEPOWERとの間では、部品で60%、ファームウェアで30%、チップセットでは20%の部品の共通化を実現。メインフレームのGSと、PRIMEPOWERの間では、プロセッサで90%、部品では80%の共通化を実現しているという。

 GSとPRIMEPOWERの部品の共通化は、メインフレームの撤退時期が取りざたされるメインフレーマにとって大きな意味がある。これだけの共通化が図られていることは、富士通が今後長期間にわたってGSシリーズを投入することをコミットとしているのと同義語だからだ。物づくりのDNAが、ユーザーの投資資産を長期間にわたって保護することをコミットするベースともなっている。

 オープン環境のなかでは、物づくりにおける差異化は難しいと言わざるを得ない。だが、富士通は、それを「富士通のDNA」によって、明確な差異化へとつなげているのだ。

 黒川博昭社長は、社長就任以来、プラットフォーム事業の重要性を繰り返し訴えてきた。それが、「富士通のDNA」という言葉に置き換わり、そこに差異化を見い出すことが社内に浸透しつつあるのだ。


富士通に見え隠れする課題とは

 だが、富士通のDNAに支えられたサーバー事業も、まだ手放しで評価できる段階にないのは明らかだ。

 先頃発表された同社の2004年度第3四半期連結決算は、売上高が前年同期比2.3%減の1兆436億円、営業利益は、52.6%減の48億円、経常利益はマイナス142億円の赤字、当期純利益は172億円減少のマイナス95億円の赤字と厳しい状況だ。この要因として、サーバー事業の価格下落に伴う売り上げ減少などが影響しているとされている。

 そして、サーバー事業以上に、大きな課題となっているのが、SI/ソリューション事業であろう。

 同社では、第3四半期連結決算発表と同時に、今年度の通期業績見通しを、売上高では、当初見通しに比べて1000億円減となる4兆8000億円、営業利益は300億円減の1700億円、経常利益は250億円減の950億円、当期純利益は150億円減の550億円と下方修正しており、その理由を、「国内向けのSI/ソリューション事業におけるプロジェクトの採算性悪化、期末集中型の社会システム関連商談の減少が大きな要因」(小倉正道取締役専務)とした。

 もちろん、この下方修正では、「約束を守る」と公言してきた黒川博昭社長が、それを初めて翻し、営業利益2000億円目標の旗を下ろしたことが、社内の士気にもなんらかの影響を与えることも懸念要因ともいえる。

 だが、小倉取締役専務が指摘するように、プロジェクトの採算性の悪化も現場では大きな問題となっているのは明らかだ。

 富士通では、ここ1年、不採算案件の処理に追われており、これが、プロジェクトの採算性の悪化という言葉で示されている。そして、この採算性の悪化は、別の負となって表れている。

 黒川社長は、今年初めの記者懇親会で、記者を前にこんなことを語っていた。

 「問題解決にあたるためには、そこにはどうしても一線級の社員を投入しなくてはならない。本来ならば、当社が戦略的に使うべきはずのこうした社員が、処理に追われているようでは、本来の当社の強みが発揮できない」。

 負が負を生んでいる構図である。


富士通が抱えるもうひとつの課題

富士通の黒川社長

 また、黒川社長は、最近の富士通の問題点として、「的確なターゲットにアプローチできていないのではないか」とも指摘する。

 これまで情報システムの決定権を握っていたのは、情報システム部門か、現場のトップだった。だが、最近では、経営トップが直接判断を下す場合が増えている。それに対して、富士通の営業、SE部門は、依然として現場ばかりを攻めているのではないのか、という指摘だ。

 言い方を変えれば、経営層にアプローチできる部長、事業部長がもっと現場に足を運ぶべきだという指摘とも受け取れる。

 この改善が、富士通の課題だというのだ。


負のDNAを払拭できるか

 富士通の物づくりのDNAは、強みとして定着しつつある。サーバー製品群の今後のロードマップも明確に示され、将来にわたるユーザーの不安も払拭されたといえる。

 だが、その裏側で抱えている問題もある。それが富士通の業績悪化にも直結しており、問題は深刻だ。

 関係者のなかには、「不採算案件の問題は、富士通が長年にわたって抱えている問題である」ことを指摘する声もある。これが富士通にとって、負のDNAと定着しないように、早期に払拭しなくてはならないだろう。

関連情報
(大河原 克行)
2005/2/28 16:15