自社スマホ「Buffy」開発中 Facebookのモバイルプラットフォーム挑戦
FacebookがSNS機能を統合した自社スマートフォンを開発中と報じられ、メディアの話題となっている。Facebookのスマートフォンは1年余り前にも出たが、その再燃だ。今回の火付け役となったAll Things Digitalはシリーズを組んでFacebookの本気度を盛り上げている。だが、メディアの全般的な反応は前よりも冷ややかで、風向きが変わった感もある。
■Facebookフォンの開発再び浮上
11月21日付のAll Things Digitalによると、FacebookがHTCと共同でスマートフォンを開発中で、コード名で「Buffy」と呼んでいるという。プロジェクトはCTOのBret Taylor氏が率いており、独自改変したAndroidで、Facebookと密に統合。アプリケーションプラットフォームにはHTML5を利用する。だが一般に公表するのは少々先で、12~18カ月後になるという。
Facebookフォンの観測は1年ちょっと前にも騒ぎになった。昨年9月にTechCrunchが報じたのがきっかけで、その後もうわさは続いていた。だが、今年2月、HTCとInq Mobileが、それぞれFacebookボタンを搭載したスマートフォン(ともにAndroidベース)を発表した後、収束していた。
All Things Digitalの最初の記事は注目を集めたが、昨年、最初にFacebookフォンの存在を報じたTechCrunchのMG Siegler氏は、自身のブログで、今回の話には開発コード名とHTCとの提携以外に「新しい情報はなにもない」とした。
All Things Digitalは22日に続報を掲載。これまでの情報のまとめとして、Facebookは1年半前にモバイルプロジェクトを立ち上げたこと、その後プロジェクトのメンバーが退社するなど頓挫しかけて棚上げになったが、メンバーを入れ替えて、当初と同じ目的の下で再始動したと伝えている。
「Buffy」は、ティーンエージャーに大変人気のあったTVドラマ「Buffy the Vampire Slayer」の主人公で、ドラマは日本でも2000年から「バフィー 恋する十字架」のタイトルで衛星チャンネルを通じて放映された。Facebookフォンの名称は、最初の開発コード名「Social Layer」が短縮されて「Slayer」になり、改名して「Buffy」になったという。
どうやら、Facebook社内で実際にモバイルプロジェクトが動いている可能性は高そうだ。TechCrunchのSiegler氏ですら、「Facebookは携帯電話を開発している。構築しなければならないからだ」と断言している。
気になるのは、Facebookフォンは成功するのか、その可能性だ。
■メディアもユーザーもFacebookフォンには冷ややか
「失敗する運命にある」と見るのは、CBS NewsのコラムニストErik Sherman氏だ。Sherman氏はその理由として、(1)ブランド名を冠した携帯電話が成功したためしがない、(2)FacebookがAmazonを目指しているとしても、Facebookが所有するのはユーザーのデータであり、音楽や書籍などのコンテンツを持つAmazon(やApple)のように囲い込みはできない、(3)Microsoftのソーシャル携帯電話「KIN」の失敗――などを挙げる。
Sherman氏はFacebookの狙いについて、Facebookの2011年前期の売上は16億ドルだったが、これは社内目標を25%下回っており、「必死になって売り上げ増を図っている」ものだと分析している。
PC WorldのJared Newman氏は「Facebookフォン? 要らないよ」と切り捨てる。Facebookの友だちリストが連絡帳に、Facebookのイベントがスケジュール帳に、携帯電話上のソフトウェアはFacebookアプリとなり、すべてが情報を共有しあうと仮定する。その上で「単一のソーシャルプラットフォームにコミットしなければならない」「ロックインになる」と批判的だ。それに「すでにApp StoreやAndroid Marketによって、プラットフォームを移行することが難しくなっている」とも付け加えている。
ユーザーの関心もいまひとつのようだ。All Things Digitalがシリーズ記事第5弾の記事の末尾につけたオンラインアンケートでは、「Facebookフォンが出たら買うか?」という質問に対し、「ノー」が79%で大半を占めた。「たぶん」が12%、「イエス」はわずか8%という結果だ。
また、Facebookフォンがエコシステムに与えるメリットについて聞いたRead Write Webの読者アンケートでは、「何もない」が最多で70%を占め、「スマートフォンユーザーにとってベターなプラットフォームが登場する」はゼロだった。Facebookスマートフォンの登場を心待ちにしている人は少数派のようだ。実際、Facebookボタンを搭載したHTCのスマートフォンはとても大ヒットしたとは言えない。Facebookのユーザーは、現時点ではアプリとして使うレベルで満足しているように見える。
一方、火付け役となったAll Things Digitalは第4弾、第5弾の記事でFacebookの勝算を分析している。8億人といわれるユーザー数、ソーシャル主導、機能の統合、HTML5アプリなどを差別化要因として挙げ、PCでFacebookを利用するユーザーが潜在ユーザーだとする。同時に、モバイルをめぐる業界の動きが激しいことから、「少しでも早期に投入すべき」とアドバイスしている。
■Facebookの事情
どうも市場はFacebookスマートフォンにそれほど魅力を感じていないようだが、Facebookには、どうしてもモバイルプラットフォームを持ちたい事情がある。
Siegler氏は次のように指摘する。現在、Facebookは主要プラットフォーム向けにアプリを持っているが、同時にプラットフォームに依存してしまうというリスクを抱える。Appleは最新のiOSでTwitterとの密な統合を実現し、「Windows Phone 7」はTwitterとFacebookの両方と統合している。「もし良好な関係にヒビが入ったら、どちらかが自社のサービスをプッシュすると決めたらどうなる?」
実際、Googleは最新の「Galaxy Nexus」で自社のソーシャルサービス「Google+」を統合しようとしている。モバイルが主戦場となる中、Facebookが自社でプラットフォームを構築しようとするのは当然の動きでもあるのだ。
AppleとGoogleが2分するモバイルプラットフォームには、Nokiaと組んだMicrosoftが再度挑戦し、Amazonもタブレットから攻略を狙う。これにFacebookも加わるというのは、不思議なことではない。