Kindle Fireは使えない? 199ドルタブレットの評判とAmazonの次の一手


 Amazonの次なる野望を込めた「Kindle Fire」の出荷が始まった。199ドルという価格破壊タブレットはどこまで使えるのか――注目度は極めて高い。早速、製品レビューや分解レポートが出ているが、使い勝手には、厳しい評価が多いようだ。それでもKindle Fireが重要な製品であることには変わりない。

iPadにはまるで及ばない

 “iPadに対抗し得る強力なライバル”として大きな注目を集めたKindle Fireは、予定を1日早め、11月14日に出荷開始された。一般メディア、テクノロジーメディア、ブログが一斉に取り上げ、注目の新製品が登場したときの、いつものお祭り騒ぎの雰囲気だ。だが、レビューには厳しいものが多い。

  New York Timesのテクノロジーコラムニスト、David Pogue氏は製品レビューで、Kindle Fireを酷評している。いわく、「アニメーションはのろくてカクカク」「タップがときどき効かなくなる」「雑誌は縮小されすぎて読みづらい」「動画ではテレビ番組にも映画にも向かない画面サイズ」など散々だ。

 クラウドと連携して快適なブラウジングを可能にするという独自ブラウザ「Silk」についても遅さに不満を述べている。表示までの時間はnytimes.comで10秒、eBay.comで17秒、Amazon.comでさえ8秒かかり、iPadの倍以上という結果だった。Pogue氏は「Fireは洗練や速度などiPadにあるものが欠けており、指でスワイプするごとに200ドルの値札を感じるだろう」と評価を下している。

 ほかにもメディアのレビューでは、ハードウェア、ソフトウェアへの問題が多く指摘されている。Business Insiderは、Fireの唯一のボタン(電源ボタン)が縦持ちにして読書すると誤って触れてしまう位置にあることや、音量のハードボタンがないことを不満点として挙げている。

 USA todayは、後を追って発表されたBarnes & Nobleの「タブレット版Nook」(Fireより50ドル高)と合わせてレビューし、「FireもNookも、iPadよりはるかに少ないアプリしかなく、ソフトの動作はiPadのように滑らかにならない」と述べている。Pogue氏も含め、そもそもiPadと比較するのが無理とする意見が大勢だ。

 しかし同時に、多くは「それでも、Kindle Fireはなかなか良い製品である」と述べている。


不満を帳消しにする魅力

 Wall Street Journalは、Kindle Fireが、エントリーレベルのiPad 2との比較で、少ないアプリ、小さな画面、短いバッテリー駆動時間、遅いブラウザ、半分の内部ストレージ、さらには融通のきかない、いらつかせるユーザーインターフェイスという問題があることを指摘しながらも、3つの大きな魅力を指摘する。

 すなわち、(1)199ドルという価格、(2)AmazonとKindleのブランド、(3)Apple以外では唯一、書籍や音楽などを販売する、巨大で使いやすいコンテンツ・エコシステム――である。「Fireは、すべてのクラウドコンテンツのハードウェアフロントエンドとなり得る」という。

 また、CNNやBusiness Insiderは“おまけ”も挙げている。Kindle Fireには、有料お急ぎ便サービスの「Amazon Prime」の30日間トライアルが付属する。他の品物の購入時に利用できるし、さらに1300本に上る映画やテレビ番組の動画見放題が付く。継続するには年間79ドルを支払う。

 一般ユーザーもAmazonの激安タブレットを理解しているようだ。Amazon.com内のユーザーレビューでは、約1500人の評価者のほぼ半数が満点の五つ星。平均でも四つ星という高評価となっている。参考になったレビューの1位は 「いくつかの欠陥はあるにせよ、価格と機能を考えれば、すばらしいデバイス」と結論している。

 とにかく、Kindle Fireは売れまくっている。DisplaySearchのアナリストRichard Shim氏は、Cnetのインタビューに対し、Amazonがこの四半期の出荷予定を最近、600万台まで引き上げたと答えている。当初は400万台で計画したが、発売前に500万台に上方修正。さらに100万台を上乗せしたという。


Fireの原価は思ったより安い?

 そこで気になるのが「販売価格より高い」と伝えられていた原価だ。Kindle Fireの発表時、IHS iSuppliはFireの原価を209.63ドルと計算したが、出荷開始後の17日に新しいレポートを出して、「当初の予想より、コストはやや少くなる」と修正した。

 原価が209.63ドルなら1台売るごとに10ドル損失が出る“出血販売”となり、後で取り戻すにしても、600万台売れば、まず6000万ドルの先行投資をすることになる。

 しかし、IHS iSuppliが実機を分析した結果、より小さいバッテリー容量、安価な4ギガビットDRAMなどの採用で、コストは当初考えられたよりも安くなっているという。また、部品サプライヤーが大口受注で値引きすることを考慮すると、さらに下がるはずとだしている。


行く先は、スマートフォン

 このKindle Fireの好調の中、Citigroupのアナリストが興味深いレポートを発表した。Amazonが来年、自社のスマートフォンをリリースするという内容だ。

 Mark Mahaney氏とKevin Chan氏の2人のアナリストが、アジアのサプライチェーンチャンネルを調べた結果、AmazonとFIH(Foxconn International Holdings)が共同してスマートフォンを開発中で、2012年の第4四半期に投入してくると考えられるという。

 レポートはAmazon版スマートフォンについて、コストが150ドルから170ドルのミッドエンドモデルで、TIの「OMAP 4」アプリケーションプロセッサーを採用する、となかなか詳細な予想をしている。OMAP 4は現在の上級スマートフォンやKindle Fireに搭載されている。

 「3年間のKindle e-Readerの成功、低価格タブレット市場への展開と続けば、次にスマートフォンというのは理にかなうと考えられる。Amazonはモバイルメディアに関心を向けている」とレポートは述べている。

 Kindle Fireの本質は「もっぱらAmazonから商品を買うために設計されている」(Pogue氏)消費デバイスと考えられる。こうした“専用ショッピングカート”型のスマートフォンが参入するとなると、来年のスマートフォン市場は、さらに波乱含みだ。



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(行宮翔太=Infostand)
2011/11/21 10:16