EV向けアプリとクラウドに注目 Microsoftとトヨタの提携
トヨタ自動車とMicrosoftが戦略的提携を発表した。共同して、クラウドベースの車載システムやスマートグリッド技術を開発する。まず2012年から、トヨタが日米で販売するプラグインハイブリッド車(PHV)と電気自動車(EV)で利用できるようにしたあと、2015年までにグローバルなクラウドプラットフォームを構築する。IT業界からみると、この提携は何を意味するのだろう。
■これまでのテレマティクスとは別モノ
4月6日、MicrosoftのCEO、Steve Ballmer氏とトヨタ社長の豊田章男氏の両トップがそろって、Webキャスト会見を開いた。両社がトヨタのソフト子会社であるトヨタメディアサービスが行う10億円の増資を引き受け、Microsoftのクラウドプラットフォーム「Windows Azure」を使った、新しいテレマティクスを開発するという内容だ。サービス例としては、GPSシステム、エネルギー管理、マルチメディア技術などが挙がっている。
ナビゲーション、メッセージ、エンターテインメントなどを利用できる車載システムは、次第に開発・搭載が進んでいる。Microsoftは以前から車載用のWindows Automotiveなど自動車業界向けに技術を提供している。例えば2007年にはFordと提携し、「Microsoft Auto」ベースの車載システム「Sync」を発表している。一方、トヨタも今年初めに車載システム「Entune」を発表している。今回の提携は、自動車側からみると電気自動車、IT側からみるとクラウドが大きな特徴だ。
電気自動車の時代には、バッテリー残量などの車側のエネルギー管理と充電スタンド情報がスムーズに提供されねばならない。これをクラウドで提供することで、ホームネットワークとの連携、スマートフォンからのアクセスなどへと可能性が大きく広がる。
Ballmer氏は会見で、トヨタとの提携はFordのSyncとは「別のモノ」と述べ、Fordが車に搭載されるコンポーネントに依存するのに対し、トヨタとはクラウドによりアプリの形で情報を提供すると説明した。トヨタにしてみれば、エネルギー管理やスマートグリッドの部分は大きな意味を持ち、電気時代に向けた競争に先手を打つ狙いがある。豊田氏はこれを「重要なステップ」と述べている。
■クラウドで生まれるメリット
この提携はMicrosoftにとっては、Azure利用の重要な事例となる。Windows Azureと「Microsoft SQL Azure」で構成するクラウドプラットフォームを利用するが、クラウドには、サービスを迅速に実装・展開できるというメリットがある。消費者へのインパクトの観点から両社の提携を分析したThe Independentは「顧客は想像よりも早く、サービスを利用できるようになるだろう」とする。また、ナビ機能で問題となる地図データの更新をはじめ、ソフトウェア側のアップデートも容易になると予想する。
InformationWeekのChris Murphy氏はCIO向けコラムで、クラウドによる迅速なアプリの提供に加え、自社でデータセンターを持たず、利用に応じて料金を支払うというコストや管理面でのメリットも挙げる。例えば、Ballmer氏は、インフラを持たない途上国市場へのサービス導入を支援できると述べている。
また、複数のデータソースからのデータを組み合わせる統合も可能で、そうなれば車とエネルギー企業のデータを組み合わせ、料金の安い夜中に充電するといったことが可能になると予想する。ほかにも、Azureがアプリストア的役割を果たし、サードパーティ開発者が車向けにソフトウェアを開発・提供するようなシナリオも描けるとしている。
MicrosoftウォッチャーのMary Jo Foley氏は「Microsoftは、この提携を単なる新しいAzure契約以上のものと位置づけている」と分析。Microsoftが現在、家庭用のエネルギー管理アプリとして開発を進めている「Hohm」を拡大し、家庭でEV充電を管理できるようにする可能性を指摘している。
Microsoftとトヨタは10年来の関係にあるというが、今回の提携についての話し合いは1月に始まったといい、速攻で決まったようだ。そのためか、提携の全容は見えず、サービスの具体的な内容も明らかになっていない。
■ITによるサービス化
Murphy氏は、この提携が「ITの将来を象徴している」と読み解く。「ITリーダーは自社の製品が何であれ、どう新しい方法でITをフィットさせるかを問うべきだ」と述べ、モバイル、クラウドコンピューティング、ソーシャルネットワークなどの新しい手段を使って、何ができるのかを問うべきだとアドバイスする。
巨大産業の自動車市場でもITによる進化が進んでいる。古くから「OnStar」ブランドでテレマティクスサービスを提供するGeneral Motorsでは、GPSを使った緊急通報をはじめとするサービスを拡大している。実際、OnStar事業は好調で、GMが赤字を計上していたときにも、黒字だったという。
また同社は2010年、Googleと提携してPHV「Chevrolet Volt」向けにテレマティクスを共同開発することを発表している。車の開発・製造と、車で利用できるサービスの開発があるが、後者の重要性が確実に高まっているようだ。
Ballmer氏と豊田氏のWebキャスト会見でモデレーターを務めたGartnerの自動車業界アナリスト、Thilo Koslowski氏は「自動車は運送手段からコンパニオンになる」と述べた。その背後にはクラウドがあるということだろう。