「問題回避」「賢明な方針転換」? Symbianが再びNokiaの管理下に


 Nokiaが、モバイルOS「Symbian」を自社の管理下に戻す。Symbianの開発・推進を目的とする非営利団体「Symbian Foundafion」は11月8日、開発プロジェクトから手を引き、今後はライセンス業務だけを手掛けると発表した。2年前、Symbianの開発元企業を買収して、オープンソース化したNokiaだったが、ここへ来て大きな方針転換を実行した。

 激しいスマートフォン市場の争いの中で存在感を失いつつあるSymbianに、メディアの中からは、「早期にリタイアさせるべき」という厳しい声も出ている。

携帯電話で圧倒的なシェアを占めたが、iOSとAndroidに駆逐される

 Symbianはもともと、NokiaがMotorolaやパナソニックらと共同出資したモバイルOSベンダーが開発とライセンスを行っていた携帯電話向けOSだ。携帯電話黎明期に、標準OSの必要を感じたメーカーらが集まり、リソースを注いだ。

 当時は、高機能携帯電話の分野でライバルらしいライバルといえば、Microsoftの「Windows Mobile」、Palmの「Palm OS」ぐらいしかなく、Symbianはメーカーや開発者の支持を得て、携帯電話で圧倒的なシェアを持つプラットフォームとなった。

 だが、2007年にAppleが「iPhone」を発表し、さらにGoogleが「Android」と、その普及団体「Open Handset Alliance」を立ち上げたことで、地殻変動が起きた。Androidをいち早く採用したHTCは、これまでどちらかというと他社ブランドの携帯電話を製造してきた目立たないメーカーだったが、Androidで一気に名を上げた。シェアも目に見えて伸びた。

 Nokiaを含め、Symbian陣営のメーカーは戦略転換を迫られた。そんな中、NokiaはSymbianをAndroidと同条件にするため、Symbian Foundationを立ち上げてSymbianをオープンソースにする。しかし、メーカーのSymbian離れは収まらず、次々とサポーターを失っていった。現在、Nokia以外にSymbianを採用するメーカーは富士通ぐらいしかない。Gartnerの調査によると、2010年第3四半期のシェアは36.6%で、1年前の44.6%から一気に縮小した。

 サポーターがいなくなってしまえば、Foundationの役割もなくなる。そこでNokiaはSymbianを自社に戻し、Symbian Foundationをライセンス供与団体として存続させることを決めた。今後もSymbianにコミットしていくと強調している。

ハイエンドにMeeGo、ミッドレンジにSymbian

だが、NokiaがコミットするのはSymbianだけではない。同社は2010年2月、Intelと「MeeGo」を発表している。自社であためてきたLinuxベースのハイエンド向けOS「Maemo」とIntelが推進してきたMID(モバイルインターネットデバイス)向けOS「Moblin」の2つの取り組みを合体させたものだ。MeeGoは先にバージョン1が公開されており、すでにタブレットなどの搭載機が市場に出ているが、搭載スマートフォンはまだ登場していない。

 NokiaのCEOは先ごろ交代したが、Microsoftから迎え入れた新CEOのStephen Elop氏の下でも、「ハイエンドにMeeGo、ミッドレンジにSymbian」というマルチOS戦略に変更はないようだ。

ZDNet UK「NokiaはSymbianを葬るか、治療するかだ」

 SymbianがNokiaに戻るという発表を、メディアはどうみたのだろう?

 「いますぐSymbianを葬るべし」と厳しいタイトルで論評したPC Worldの記事は、Symbianの前身である「EPOC」時代からのユーザーである筆者が今のSymbianへの不満を爆発させている。スクリーンセーバーを無効化するだけでも複雑な操作が必要なことなどを挙げながら、改善を期待してきたが「ユーザーインターフェイスでの“間に合わせ”の姿勢は変わらなかった」と批判。SymbianがAppleとAndroidを追う立場になったとした上で、「(Symbianの)最終的な運命はもう決まった」と言い切る。

 またInfo Worldは、「Windows Phone 7」を掲げるMicrosoftとともに、大きな問題を知りながら避けているのだと評する。また、Symbianのオープンソース化が開発のペースがさらに減速させ、致命的になったと分析。将来がMeeGoで決まっているのであれば、なぜSymbianを再び戻すのかと疑問を投げかける。

 こうしてSymbian/Nokiaに厳しい目を向けるメディアが多い中、英国の携帯電話比較サイトTop10.comは、今回の措置を「賢明な方針転換」とする。「目立たないかもしれないが、いまだ多く人が安価なスマートフォンを望んでおり、SymbianはNokiaにとって重要だ」と述べる。NokiaがSymbianをコントロール下に置くことで、ソフトウェアとハードウェアが密に一体化した製品の開発が可能となり、Symbianプラットフォームの進化も加速できる、と分析している。

 ZDNet UKは「NokiaはSymbianを葬るか、治療するかだ」とアドバイスする。Symbian復活の可能性は十分にあるとしながらも、Nokiaには「少しでも早く、土台からプラットフォーム変えていく必要がある」と忠告する。

 Symbian Foundationの移行作業は2011年3月末に完了する。Nokiaは2011年初めからSymbianのアップデートを開始すると述べている。

関連情報
(岡田陽子=Infostand)
2010/11/15 11:20