IPO、買収、さらに買収?-脚光浴びる仮想化技術企業



 日本のお盆休みの間、米国の2つの仮想化技術企業に大きな動きがあった。一つはVMwareのIPO(新規株式公開)、もうひとつはXenSourceの買収だ。仮想化技術はIT・エンタープライズの世界では今、最もホットな分野だ。両社は一般投資家にも注目されることになり、仮想化の普及も加速しそうだ。


 VMwareは8月14日、ニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場し、初日の終値は公開価格の29ドルを76%上回る51ドルをつけた。最近の米国株式市場では、期待されていたIPOの延期が相次ぎ、金融不安も高まる中の快挙で、すでに“今年最大のIPO”との評価も出ている。

 VMwareは仮想化技術では草分け的存在だ。ストレージ大手のEMCに約6億3500万ドルで買収されて、2004年に同社の傘下に入っている。今回のIPOではEMCが保有株の一部3300万株を売り出したが、引き続き約9割を保有しており、スピンアウトするような予定もないという。その注目度は高く、7月にはIntel(Intel Capital)が2億1850万ドル、Cisco Systemsが1億5000万ドルの出資を決めている。IPOによって時価総額100億ドル超の大型企業となった。

 そして、翌15日、今度はライバルであるXenSource買収のニュースが駆けめぐった。シンクライアントシステムのCitrixが、XenSourceを5億ドルで買収すると発表した。5億ドルは現金と株式で支払い、今年第4四半期に完了する予定だ。XenSourceの年間売上高は推定100万ドル程度といわれており、その500倍という破格の買収である。

 XenSourceも、今後の成長が期待されており、これまでにベンチャーキャピタルから3800万ドルの資金を調達している。オープンソースの仮想化ソリューション「Xen」プロジェクトを率いるIan Platt氏らが立ち上げた企業で、主要製品の「XenEnterprise」は、VMwareの「VMware ESX Server」と同じく、ハードウェア上で直接動作する「ハイパーバイザー型」の企業向け仮想化製品だ。


 仮想化技術への期待は大きい。IDCの予測では、仮想化サービス市場の規模は2011年に117億ドルに達し、2006年(55億ドル)から5年間で倍増するという。

 とくに、x86/x64サーバーの仮想化技術の進歩がけん引して、ボリュームゾーン(販売価格25,000ドル未満)のサーバーセグメントで驚異的に伸びる見込みという。また、仮想化サービスの内容も、現在のソフトウェアサポート、教育・トレーニングから、ITコンサルティング、システム統合に主軸が移っていくとしている。

 仮想化市場では現在、VMwareが圧倒的なシェアを持っており、最近も侵入検知システム(HIPS)技術のDeterminaを買収するなど着々と足場を固めている。

 しかし、市場はまだ立ち上がったばかりで、これから本格化する段階だ。他のベンダーにも逆転の大きなチャンスがある。たとえばXenSourceは、オープンソースベースであるという安心感と低価格を武器にしている。さらにCitrixと一緒になることで、強力な製品ラインをそろえられるようになる。

 The Wall Street Journalは、XenSourceの買収でCitrix自身が、より大きな企業の買収ターゲットになるかもしれないとしている。調査会社451 Groupのアナリストの話として紹介したもので、買い手として名が挙がっているのは、Hewlett-Packard、Cisco、そしてMicrosoftだ。

 またeWEEK.comは、MicrosoftがCitrixを買収する可能性に、より深く踏み込んで伝えている。451 GroupのアナリストBrenon Daly氏はeWEEK.comに対し、「Microsoftが、一緒になったCitrixとXenSourceを買収することは、XenのライセンスであるやっかいなGPLから距離をおけるという点で、道理にかなっている。そうしながら、サーバー統合製品を、信頼できる仮想化デスクトップ・ユーティリティ・スタックに融合すればいいのだ」と述べている。Citrix、XenSourseの両社はこれまでもMicrosoftと提携関係にあり、協力してきた実績もある。


 Microsoftは次期Windowsサーバー(開発名:Longhorn)に仮想化機能「Windows Virtualization(開発名:Viridian)」を搭載する予定だが、今年5月には、その主要機能の一部の搭載を見送ることを明らかにしており、開発が遅れている模様だ。XenSourceを取り込んで遅れを取り戻し、VMwareの覇権に待ったをかけるというのがMicrsoftの思惑だという。

 仮想化技術をめぐっては当面、VMware、Citrix+XenSource、Microsoftが軸になって動くとみられるが、仮想化ビジネスを狙っている企業はほかにもある。ホットな戦いが続くことになりそうだ。

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(行宮翔太=Infostand)
2007/8/20 09:10