Googleに挑戦? Wikipedia創設者の検索プロジェクト



 Wikipedia創設者のJimmy Wales氏が、進行中の新プロジェクト「Search Wikia」の概要を発表した。これまで情報が少なく、進行状況はあまり知られていなかったSearch Wikiaだが、新たに分散型技術を取得したことを発表するなど、形が見え始めている。Wales氏は「Wikipediaが百科事典の世界で革命を起こしたように、検索エンジンの世界で革命を起こす」と鼻息も荒い。


 Search Wikiaは、Wales氏が共同設立した営利組織Wikiaのプロジェクトとして、2006年12月に発表された。今回、7月23日~27日に米ポートランドで開催された“OSCON”こと、「O'Reilly Open Source Convention 2007」の基調講演で、Wales氏は分散型検索技術「Grub」を取得したことを発表するとともに、Search Wikiaのビジョンを語った。

 Search Wikiaは、「透明性」「コラボレーション」「クオリティ」「プライバシー」の4つの根本方針を持っている。アルゴリズムではカバーできない人間の知を重要な要素に、オープンソースの検索プロトコルと人間のコラボレーションを土台とする。Wikiaはすでに、同プロジェクトを統括する責任者として、XMPP(Extensible Messaging and Presence Protocol)の開発者であるJeremy Miller氏を引き入れている。Miller氏は、オープンソースのIMアプリケーション「Jabber」の開発元であるJabber Software Foundationを立ち上げたことでも知られる。

 プロジェクト発足から半年あまり、Wikiaは今回、プロジェクトの強化のため、米LookSmartからGrubを取得した。Grubは一般ユーザーのPCの使われていない処理能力を利用する分散型クローラーである。オープンソースプロジェクトとして誕生したが、LookSmartに買い取られたことでクローズド状態となっていた。Wikiaはこれを取得して、7月27日、Grubのソースコードを4年ぶりにオープンソースとして公開。開発者に参加を呼びかけた。

 Grubの取得によってSearch Wikiaは大きく前進するとWales氏は言う。GrubはSearch Wikiaの重要な要素となりそうだ。だが、Search Wikiaが世界中に分散したGrubクライアントをどのように利用するのかなどの詳細についてはまだ明らかになっていない。

 OSCONでのWales氏のスピーチによると、Search Wikiaは“検索分野のLAMP(Linux、Apache HTTP Server、MySQL、Perl/PHP/Python)”を目指しており、オープンソース検索技術の「Apache Lucerne」などオープンソース技術をベースとしたものになるようだ。


 Search Wikiaは当初、Wikiaの検索エンジンとして利用されるが、Wales氏はさらに大きな野望を抱いているようだ。Red Herring誌などによると、Wales氏は、「今後、他のWebサイトや中小規模企業が利用できるレベルを目指す」と述べている。

 「Google」の圧勝で勝負が決まったかのように見える検索エンジン分野だが、Wales氏がSearch Wikiaで狙うものは何なのか―? プロジェクトの目標は単なる技術の競い合いではなさそうだ。

 Wales氏はOSCONの基調講演とメーリングリストで「Wikipediaが政治的なミッションであるのと同様に、(Search Wikiaも)政治的なミッションだ」と語っている。「検索はインターネットにとって重要なインフラの一部であり、他のインフラの多くがフリーであるのと同じようにフリーであるべきだ。Web検索システムに関連した編集審査を明確にすべきだ」(Wales氏)というのである。

 これは、Search Wikiaの4つの方針の「透明性」にあたる部分である。米Googleや米Yahoo!などが提供する検索エンジンはプロプライエタリな技術に基づいている。Wales氏は、インターネットのインフラであるからこそ、フリーであること、オープンであることが重要だと考えているようだ。

 もう1つのキーワードは、「コラボレーション/参加」だろう。これは、Wikipedia、Wikiaを通じて、Wales氏が追求している思想で、ユーザーの参加によって質と量を高めていったWikipediaと同じことを検索で実現しようとしている。

 Wales氏はOSCONの講演で、「検索は、オープンソース開発者が大企業に対抗するチャンス」と語った。だが、メーリングリストでは、Googleとの競合について、「このミッションを“Google対抗”という観点で見るのなら、負けるだろう」とも述べている。

 「なにかクールなものを構築し、その過程を楽しむべきだと思っているだけだ」(Wales氏)。そして、そのための忍耐を参加者に呼びかけている。

 Wales氏は、Wikipediaで人間の知を結集した百科事典を、Wikiaで百科事典にとどまらない図書館を作り上げた。今度のSearch Wikiaでは、フリーアクセスにフォーカスしたものとなる。既存の検索エンジンに対抗するというよりも、インターネットや自由を追求するプロジェクトといえそうだ。

 Search Wikiaは、年内に最初のリリースとなる見込みという。

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(岡田陽子=Infostand)
2007/8/6 08:59