乗り換え企業が続出? OracleとRed Hatの攻防



 米Oracleが最大のLinuxディストリビューション「Red Hat Linux」(RHL)のサポートを米Red Hatの半額で提供すると発表してまもなく半年になる。両社の闘いは、先ごろ、Larry Ellison会長が「Yahoo!が、Red HatからOracleに乗り換えた」と発言したことで改めて注目を集めることになった。OracleはRed Hatのビジネスを侵食しているのだろうか―。


 昨年10月、Ellison氏は、Red Hatの半額以下でRed Hat Linuxを対象としたサポートを提供すると発表した。「Unbreakable Linux Program 2.0」というサポートの“価格破壊”である。あわせて、RHLのクローンであるOracle版Linux「Oracle Enterprise Linux」(OLE)も提供する。

 今回の「Yahoo!乗り換え発言」は、それから5カ月を経て、初めて成果を公表したものだ。Ellison氏が、3月末の四半期決算発表の電話会見のなかで述べたもので、Yahoo!がRHLをOracle版Linuxに置き換え、「ほかにも多数の顧客サイトでサポートを提供することになった」とアピールした。

 しかし、この発言を受けて一斉に取材したメディアに対し、Red Hatは全否定。Yahoo!も「Red HatとOracleの両方の製品を利用している」(Laurie Mann エンジニアリング担当副社長)と公式に発表し、“全面乗り換え”はEllison氏流の誇張気味の発言だったという見方に落ち着いている。

 Oracleは、その後Yahoo!を含む26社・機関の顧客名を公表した。これには、ファミリーレストランチェーンのIHOP、時計ブランドのTimex、ATMや電子投票機で知られるDieboldなどで、スタンフォード大学も含まれている。


 昨年のOracleショックは、当初、Red Hatの株価の急落をもたらした。だが現在、市場でも業界でも、Red Hatのビジネスは、ほとんど影響を受けていないという見方が大勢だ。

 Independent Equity Researchのアナリスト、Brent Williams氏は3月中旬から下旬にかけて開かれた開発者向け会議「EclipseCon」で、オープンソース・ビジネスモデルについて報告。両社のビジネスに言及した。

 そのなかで、Oracle版Linuxの提供開始から90日間のダウンロード数が9000件にとどまったと指摘。同じくRHLクローンであるFedra Core6の90日間のダウンロード数100万件には、はるかに及ばなかったとしている。同氏は、Red Hatのサポート料金は値下げされることもなく、Oracleの攻勢はまったく影響を与えていないと結論した。Red Hatの株価が今年に入って以前の水準に戻り、さらに高値となったこともあげている。

 直近のRed Hatの業績も好調だ。

 3月29日に発表された2007会計年度第4四半期(2006年12月-2007年2月)の売上高は前年同期比41%増の1億1110万ドル、サブスクリプション売上高は同44%増の9590万ドルを記録した。ただし、純利益は2050万ドルで同25%の減だ。同社は、2006年のJBoss買収に伴う運営費の増加などの影響と説明している。

 Red HatのCEO、Matthew Szulik氏はComputerworldのインタビューに対し、同社は第4四半期の間に1万件、2006会計年度通期では4万4000件の新規顧客を獲得したと好調ぶりを説明。また、Yahoo!など26社・機関のうち、ほとんどはRHLを部分的に置き換えたにすぎず、Yahoo!の場合も、一部のOracleのデータベースサーバーにOracle Linuxを実装しただけだと語っている。


 その一方で、Red Hatは反撃の準備も進めている。

 Red Hatは決算発表前の3月14日、Linuxディストリビューションの最新版「Red Hat Enterprise Linux 5」(RHEL 5)をリリースしている。合わせて、サポートをシングルサービスレベル契約(SLA)という形で従来よりも簡素化した。RHEL 5では、「AS」「ES」という区分は廃止され、「Advanced Platform」に一本化されている。

 また、ビジネスアプリケーションのソフトウェアスタックを統合して提供する「Red Hat Exchange」(RHX)を2007年後半に提供開始すると発表した。Red Hatのソフトと、パートナーのビジネスアプリケーションについて、調査、購入、オンライン実装、サポートまでをワンストップで提供するものだ。データベースのMySQL、CRMのSugarCRM、メッセージングシステムのZimbraなどが参加する。

 これは、データベース、ミドルウェア、RHLをワンストップで提供しようとしているOracleと、直接競合することを意味する。

 一方、Oracle側もさらに攻勢を強めている。Internet.comなどによると、Oracleは、Hewlett-PackardやDellなどと、Oracle版Linuxの再販契約の交渉を進めているという。日本で4月4日に発表された日本オラクルとデルの提携強化でも、両社が共同でOracle Enterprise Linuxを推進することを盛り込んでおり、Oracleは、再販パートナーをグローバルに拡大していく戦略とみられる。

 RHLのサポートをめぐる両社の闘いは、第一ラウンドを終了してRed Hatが勝利したようだ。が、まだ始まったばかりだ。

関連情報
(行宮翔太=Infostand)
2007/4/9 09:10