「2000万本はない」-好調なWindows Vista販売に疑問



 発売から1カ月間で2000万本を販売―。Windows Vistaは、5年前のWindows XPの2倍以上のペースで売れているという。発売の遅れや、新機能の搭載見送りなど、難産の末の船出ではあったが、予想以上の快調のようだ。だが、この数字に疑いの目を向けているアナリストもいる。


 「われわれは、Windows Vista発売から即、すばらしい消費者の反応に出会うことができた」。Microsoft Windowsビジネスグループ担当副社長のBill Veghte氏は3月26日の発表で、Windows Vistaが前製品のXPを超えたことをアピール、成功を強調した。

 発表によると、世界のVistaライセンス販売は、1月30日の一般発売から2月末までの1カ月間で2000万を突破したという。前バージョンのXPは、2001年10月25日の発売から約2カ月間で1700万だったため、2倍以上のペースで売れた計算になる。これはWindows史上で最速の出だしという。

 2000万台には、「PCメーカー向けライセンス」「小売販売のアップグレードとフルバージョンのパッケージ」「Vista Express Upgradeプログラムによるアップグレード」が含まれている。

 Microsoftは、エディションごと、地域ごとの内訳は公表していないが、Premiumバージョンを選ぶ消費者が予想以上に多かったという。セキュリティや使いやすさなどが、ユーザーの高い評価を得たためだとしている。

 メディアは一斉にVistaの好調なセールスを報じた。「世界のコンピュータ市場の成長をみた場合、もっと多くなるべきだ」(AP通信に対してGartnerのリサーチ担当副社長、Michael Silver氏)といった辛口の評価もあった。が、全体としては、業界アナリストの大方の予想も上回り、PC業界に明るいインパクトを与えたことを伝えている。


 だが、この数字そのものが誤っていると主張するアナリストがいる。

 元CNETのライターで、現在、JupiterResearchのアナリストであるJoe Wilcox氏は即日、eWeekのブログ「Microsoft Watch」でMicrosoftの発表を検証し、「ライセンスの販売数は、OS販売の成功を評価する数字にならない」と結論づけた。

 Wilcox氏は、次の3つの“単純な”理由から、2000万台という数字は崩壊するとしている。

1)Vistaの販売期間は1カ月間ではなく4カ月以上

2)チャンネルのライセンス販売は、実際のVista搭載PCの販売とは一致しない

3)実際の世界のPC販売数と合わない

 1)は、昨年から販売されているアップグレードクーポン付きのWindows XP PCのライセンス販売が含まれていることから来たものだ。

 「Vista Express Upgrade」は、XP Professionalからは無料、XP Home Editionからは安価にVistaへのアップグレードができるプログラムだ。2006年10月26日から2007年3月15日までに購入されたWindows XP PCを対象とする。つまり、この4カ月間のアップグレード注文分が「1カ月分」の中に含まれているという指摘である。

 2)は、PCメーカー向けのOEMライセンス販売が含まれていることをいう。OEMライセンス販売はメーカーの購入分であって、消費者の購入分との間には“ずれ”が生ずる。その差はメーカーや流通の在庫だ。Wilcox氏は「数年前、Microsoftはライセンス販売の数え方を、流通から出た数(小売販売)から、流通に入った数(出荷)に変更した」と指摘、XPの時の数字とは計算ベースが異なると述べている。

 3)は、調査会社の数字との整合性の問題だ。販売数は、1カ月でなく、調査会社のタームに合わせた四半期などのベースの数字でみるべきだというものだ。

 Wilcox氏は、NPD GroupのIndustry Analysis部門副社長Stephen Baker氏の推計を引用。今年に入っての米国のPC販売数を300万台とみられ、新興国の比率が増しているとはいえ、1カ月で2000万台はありえないと述べている。

 こうしたことから、Microsoftの発表はおかしいと主張しているのだ。読む限りでは、論理的には無理はなさそうだ。


 しかし、Wilcox氏のブログに寄せられた読者のコメントは、批判的なものが多かった。「アンチMicrosoftのアナリスト」「感情的」、さらに「建設的でない、MicrosoftとVistaへのネガティブな考え。あなたのRSSフィードを削除する」と決別を告げるものもあった。

 これらは読者全体の意見を表すものではないが、一種の空気が感じられる。米国のPC販売台数の伸びが鈍化している中、Vistaは業界の救いとなったことは間違いない。Wilcox氏が、せっかくの景気のいい話に“水を差した”と感じられたらしい。

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(行宮翔太=Infostand)
2007/4/2 09:01