無料Web OSで挑戦、元MS幹部が支援するXcerionとは?



 Webの重要性が高まり、その覇権をめぐる戦いが激化している中、ゼロからこれに挑戦しようという企業が北欧スウェーデンで名乗りを上げ、欧米メディアの注目を集めている。社名はXcerion。無料提供する“Web OS”を引っさげて登場し、GoogleやMicrosoftに挑戦しようというのだ。キャッチフレーズは、「Every Computer is My Computer」(あらゆるコンピュータはわがコンピュータ)、「Software Should Be Free」(ソフトウェアはフリーであるべし)の2つだ。


 Xcerionはスウェーデン人のDaniel Arthursson氏が2001年に立ち上げたベンチャー企業だ。5年がかりでWeb OS「XML Internet OS(XIOS)」の開発を進めてきたが、ベータ版リリースの見通しがたったことを受け、3月12日にXIOSの概要を明らかにした。あわせて同社は、スウェーデンの投資会社から1000万ドルの資金を調達したことも明らかにしている。

 Xcerionの2つのキャッチフレーズから、同社の技術とビジネスモデルをみてみよう。

 最初の「Every Computer is My Computer」は、同社のXMLベースのXIOSが実現する。XIOSは、Internet ExplorerやFirefoxといったWebブラウザ内で動く“OS”である。あらためてインストールする必要はなく、既存のWebブラウザ内に2MBほどのレイヤをつくり、その上でアプリケーションを動かす。Webブラウザを閉じるとOSも終了する。つまり、Webブラウザ経由でどのコンピュータからもアクセスできることから、このキャッチが付いている。

 同社によると、XIOSはオフラインでも作業が可能で、仮想HDD上でアプリケーションを動かすことができるという。作業環境をUSBフラッシュメモリに格納して、持ち歩くことも可能だ。

 Webブラウザ内でOSを動かす利点はいくつかある。まずはセキュリティ。ローカルディスクを利用しないので、マルウェアに感染する心配がないという。また、OSのパッチ配布やアップグレードといった保守作業も不要だ。

 また、開発者から見ると、アプリケーションのポータビリティを心配する必要もない。XMLを利用していることから、データの互換性に優れ、.NETやJavaを利用したWebサービスとの連携も容易に実現する。


 2つ目のキャッチフレーズ「Software Should Be Free」は、Xcerionのビジネスモデルを示している。同社はXIOSを無料で提供し、その上で動くアプリケーションを収益源とするようだ。

 XcerionはXIOSと共に統合開発環境を提供する予定で、開発者によるアプリケーションの構築を促進する。それだけではなく、アプリケーションのマーケットプレイスも提供し、ソフトウェアベンダーはこのマーケットプレイスを利用して、自分たちのアプリケーションを配布できるという。Arthursson氏は「ソフトウェア事業で“ロングテール”を実現する」としている。

 アプリケーションは広告を付けて無料で提供するか、広告なしで有料で提供するかから選択できるようにする。この広告と有料サブスクリプションの手数料が同社の収益となる。なお、Xcerion自身もオフィスアプリケーションを提供する予定という。


 そしてXcerionがメディアの関心を引いている理由は、その技術やビジネスモデルだけではない。

 同社は、Microsoftで「Windows NT」の設計を担当した著名なエンジニア、Lou Perazzoli氏を顧問に招き入れ、同じくMicrosoftの元CFO、John Connors氏の投資を受けている。2005年に米ワシントン州シアトルにオフィスを構え、Perazzoli氏らがネットワーク作りに奔走しているという。

 TechWorldの記事によると、Arthursson氏はMicrosoftのパートナー戦略モデルを踏襲することを認めながら、「ある意味で、われわれはMicrosoftと同じ方向性にある」と述べている。ここは、自社でアプリケーションを構築するGoogleとの差別化になる。

 欧米メディア各紙はXcerionの戦略や技術を評価しながらも、同社の将来性を手放しでは楽観視しているわけではない。

 たとえば、Microsoftウォッチャーで知られるMary Jo Foley氏は米ZDNetのブログで、サードパーティに依存することについて論評し、「MicrosoftやGoogleは数千人体制でXcerionのようなソリューションを構築しており、大規模な投資を行っている。名もないベンチャーがどれほどの影響を与えられるだろうか」と疑問を投げかけている。ただ、Xcerionのような企業が出現し、注目を集めているのには、Webへの移行というトレンドの背景があるのは明らかだ。

 Xcerionは、XIOSのベータ版を今年第3四半期にリリースする予定だ。現在自社Webサイトでベータ版の登録を受け付けている。

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(岡田陽子=Infostand)
2007/3/19 09:04