明らかになってきたeBayの狙い-テレコム企業目指すSkype



 P2P技術を利用したIP電話サービスを展開するSkype Technologiesが、本拠地の欧州で定額制プラン「Skype Pro」を導入した。同社は利用者間なら無料で通話できるIP電話アプリケーションで世界に広がったが、収益構造が課題とされてきた。定額制は、これを解決する大きな一歩となる。その目指すところは、インターネット時代のグローバルなテレコム企業だ。


 Skype Proは、Skypeから固定電話の発信を中心に、いくつかの有料サービスをパッケージ化したものだ。ユーザーは月額2ユーロ(約300円)を支払えば、国内固定電話への発信が無料(別途、1回あたり約0.39ユーロの接続手数料が必要)となり、国際通話には割引料金が適用される。ボイスメールは無料となり、固定・携帯電話からSkypeアカウントに通話できる「SkypeIn」やハードウェア製品の割り引きも受られる。Skypeアカウント間の通話は従来通り無料だ。

 Skypeはこれまで従量課金制の有料サービスを提供しており、Skype Proは初の定額制となる。同社は昨年末、定額制構想を発表、今年1月18日に正式サービス名と価格を発表し、2月にサービスを開始、と定額制への移行を注意深く進めている。2ユーロという低価格もそのあらわれといえる。まずはユーザーにとって敷居が低い価格帯を設定するとともに、接続手数料などで従量制の要素を残すことで、顧客を引き止める狙いだ。

 Skype Proの提供地域は、今後、世界に拡大してゆく計画だ。


 Skypeは2003年にVoIPとP2Pの2つの技術を組み合わせた無料通話サービスとして登場、みるみるうちに世界のインターネットユーザーを巻き込んでいった。Skypeの成功を受け、米Yahoo!、米Google、米Microsoftのインターネット3社も自社IMサービスに音声通話機能を加えたが、Skypeは現在もこの分野では他を大きくリードしている。

 そこに目を付けたオークション大手のeBayが2005年、「約26億ドル+業績に応じた追加額」でのSkype買収を発表した。この破格の買収に、あれこれと目的が詮索されたが、その後の経過をみると、eBayはSkypeの機能を統合するよりも、Skypeのひとり立ちを支援しているように見える。つまり、インターネットをベースした通信会社の立ち上げだ。

 このことは、Skype創業者をはじめとする複数の幹部が「eBayの資金によって、さまざまな事業プランを実行に移す余裕ができた」との発言をしていることからもうかがわれる。そして現時点では、法人市場開拓とモバイル進出が大きな方向となっている。

 法人市場では、小規模企業向けの「Skype for Business」のほか、各社がSkypeに対応したPBXソリューションなどを開発している。モバイルでは、Windows Mobileなどの携帯端末向けOSへの対応、それにSkype搭載ハードウェアの2つから攻めている。なかでもハードウェアでは米Belkinなどのメーカーと組み、Skypeクライアントをインストール済みのWiFi電話を複数機種提供している。

 Skypeはあわせて、WiFiプロバイダーとの提携を進め、また、米連邦通信委員会(FCC)には、ユーザーが携帯ネットワークに接続するデバイスやソフトウェアを自由に選べるようにすることを求めている。米国では1968年の「Carterfone」裁定で、電話網に悪影響を与えない限り、消費者は公衆電話網にどんなデバイスを接続してもよいとされた。これを携帯電話にも適用させようというのだ。


 Skypeの野望は、それほどとっぴな話ではない。テレコム調査会社の英Analysysが先ごろまとめたレポートによると、ユーザーは現在、既存のテレコムサービスからSkypeやGoogleなどの新しいコミュニケーションに移行しつつあり、2011年にはSkypeなどの新サービスが、現在の固定通信市場シェアの5.4%に相当する182億ドルを奪うと予測している。

 通信業界はこれまで国や地域の枠をベースに活動してきたが、インターネットの登場で環境は大きく変わっている。インターネット時代のグローバルなテレコム企業がどんなものか―。Skypeはその答えを見せてくれるかもしれない。

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(岡田陽子=Infostand)
2007/3/12 09:15